市民に求められる「参加と自治」の態度

ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

(写真/名和真紀子)

『マル激』12年目を迎え──
特別対談 神保哲生×宮台真司
12年目を迎えた『マル激トーク・オン・デマンド』。メインパーソナリティであるビデオジャーナリスト・神保哲生と社会学者・宮台真司の2人が、迷走を続ける日本社会の問題を看破する。

東日本大震災に伴う原発問題や消費税増税、政治的空白など……これまで当連載で扱ってきたように、現在の日本社会には数多くの問題が山積している。神保哲生氏と宮台真司氏は、今の日本社会を改善するためには、「戦略的思考」「公的貢献心」の確立と「参加と自治」の成果を示すことが必要だと説く──。

神保 今回はマル激がスタートして12年目の節目ということで、初心に帰って2人でフリートークをしたいと思います。

 もともと宮台さんとインターネット放送の立ち上げについて相談をした2001年当時は、まだテレビや新聞などのマスメディアの影響力が圧倒的に強くて、ようやくインターネットが普及し始めたところでした。そこで、記者クラブや広告に縛られない放送局を立ち上げ、その最初の番組としてこの番組を始めました。

 当初はゲストを招かずに、宮台さんと2人で毎週のニュースを2〜3本取り上げて、いろいろな角度から掘り下げていくというスタイルでした。4年目くらいからゲストを呼んだ番組のスタイルが定着しましたが、たまには2人マル激もやりたいと思っています。

 今回は「マル激を11年やってきて見えてきたこと」をテーマに話をしてみたいと思います。

 まずは原発問題から。藤村修官房長官が4月5日、「原発の再稼働に地元の合意は必要ない」との見解を示しました。原発はリスクが顕在化した時の影響が青天井なので、マル激でも、なぜ原発が地元の意向だけで決めていい問題ではないかについて議論してきましたが、政府はその最低限の条件ともいうべき地元の合意すら必要ないと言い出した。

 しかし、消費税増税の問題では党内外からあれだけ多くの批判が出たのに、原発再稼働については民主党の党内からも今のところそれほど大きく批判の声が聞こえてきません。野田総理は消費税増税に命を懸けるとまで言ったようですが、同じ政権が増税に命を懸ける一方で、原発ではこうまで民意を軽視できるのが、なかなか理解し難いところはあります。

宮台 第一の説明は、電力会社の法外な収益へのタカリ。地域独占供給体制(競争排除)と総括原価方式(高額料金)による収益に、どの地域も経済的、政治的、文化的に依存します。経済面では、地方マスコミから地元優良企業まで電力会社が大株主で、地元経済団体のボスは電力会社。政治面でも、自民党の集票母体は電力会社で、民主党の集票母体も電力労組。文化面でも、交響楽団から各種文化展まで電力会社が後援。最近、一部の商事会社が最高益を上げたけど、電力会社があり得ない価格で燃料を購入するからです。

 第二の説明は、自明性への依存。地方選挙では投票率3割が通常ですが、〈引き受けて考える作法〉ならざる〈任せてブー垂れる作法〉が政治文化だから。慣れ親しんだものに異論を唱えるのはKY(空気が読めないヤツ)で、贈収賄などがあった場合だけ灸を据えるべく自民党支持者が共産党に投票する。

 ちなみに日本以外の先進国は、どこも電力会社と電源の組み合わせを選べます。安いものを組み合わせても、自然エネルギーだけ組み合わせても良い。需給調整に関するデマンドレスポンス(需要者側の調整協力)が常識で、需給調整特約(電力使用時刻をずらすと価格割引)を睨みながら電力使用時間を選ぶ。独占的電力会社にお任せじゃありません。ちなみに「家庭用電力料金が日本より高い国がある」という経産省のデータは、炭素税や消費税を上乗せした価格の比較で、単に嘘。また地域独占供給体制だから停電が少ないというのも、ドイツでは電力会社も電源を選べるけど停電時間は日本と同じで、これも嘘。嘘だらけです。

神保 確かに今の日本は、財政的にも経済的にも社会的にも、そして政治システムが機能していないという面でも、かなり絶望的な状態にあることは間違いないと思います。しかし、そんな日本でも、かつては資源もない小国でありながら、明治維新以降は短期間に富国強兵を成し遂げたり、太平洋戦争の後は焼け野原から高度成長を成し遂げ世界第2位の経済大国にのし上がるなど、少なくとも過去に世界から注目されるだけの実績を残した国でもあります。そんな日本がなぜこうまでダメになってしまったのかは、本当に真剣に考える必要があると思うんです。

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