──自ら福島第一原発に潜り込み、混乱する内部の様子を克明に書き記した、ジャーナリスト鈴木智彦氏による『ヤクザと原発』(文藝春秋)。原発を地元の産業として受け入れながら育ち、自らもそこで働く若者に迫ったルポ『原発アウトロー青春白書』(ミリオン出版)の著者、久田将義氏。アウトローの現場を取材してきた2人が、原発労働の問題点とメディアの報道について激論を交わした!
(写真/田中まこと)
──今日は、原発内部とメディアの報道について伺いたいと思います。そもそもお2人が原発を取材しようと思ったきっかけって、なんだったんですか?
久田 3・11の直後からいろんなメディアがあの事故を報じる中で、原発の最前線で作業しているはずの、いわゆる“フクシマ50”と呼ばれる人たちの声がなかなか聞こえてこなかったこと。それとやっぱり、原発のある街で生まれ育って、10年近くもそこで働いてきた20代の若者の心象を、僕自身が知りたかったってのが大きいですね。速報性では大手にかなわないウチのようなところでも、そういう部分でなら、やる意味はあるのかなってのもありましたし。なんかうすい話で申し訳ないですけど。
鈴木 全然そんなことないよ。俺なんかぶっちゃけ、売名行為。それしかないもん。
久田 いや、またまた(笑)。
鈴木 ホントホント。最初は原発にもまったく興味がなかったから、中に入るつもりすらなかったんだけど、暴力団ルートから行ってみたら簡単につながっちゃって、「もうこれは入るしかないな」と。あの当時は俺もテンションが異常だったから、こんなチャンスめったにないって思っちゃったんだよね。
久田 でも、そのかいあって、かなり話題にはなりましたよね。
鈴木 まぁ、結果オーライなところはあるけどね(笑)。
久田 僕が「ダークサイドJAPAN」(ミリオン出版・休刊)などで、一緒に取材をさせてもらってた頃から、鈴木さんのそういう感じは変わりませんよね。
鈴木 そう。行ってから考える。あと単純に、この目で見たかったっていうのもあったしね。逆にその程度の動機しかないから、こういう取材のときでも、現場に入ったことをことさら強調するようなことは言いたくないんだよね。行かなかったやつを見下すつもりも毛頭ないし。
──作業員たちの実態はご自身の皮膚感覚ではどうでした?
鈴木 結論から言うと、彼らが「間違いない」って言うことは、ほぼ間違いだってことかな。いくら彼らが現場で仕事をしているとはいえ、グランドデザインを知っているのは、ごくひと握りの中枢だけ。何千人もいる作業員がそれぞれに一部だけを見て全体を語ろうとするんだから、そりゃ間違いもするよね。たとえ局地的には正しいことを言ってても、彼らにだって少なからず「1F(福島第一原発)に入った俺たちはヒーローだ」的な高揚感はあるはずだから、話に尾ヒレがつくのは仕方ない。実際、3号機の圧搾空気タンクから「パンッ」と破裂音がしただけでも、「あれは絶対、爆発だ」となってたわけだしね。
久田 メディアはそれをさらに誇張して流してしまうんですから、そこにはなおさら総合的な判断が必要になってきますよね。
鈴木 そう。久田さんみたいにテーマを絞って深くやるならいいけど、作業員から出た単発の事実だけを聞いて、それを真に受けると確実に失敗するとは思ったよね。