──日本におけるアダルトアニメの金字塔といえば、『くりいむレモン』シリーズだ。18禁のOVAでありながら、この作品が各方面に与えた影響は大きい。今回はそんな『くりいむレモン』シリーズ第4弾『POPCHASER』を手がけ、後に『老人Z』『BLOOD THE LAST VAMPIRE』を監督した北久保弘之氏に、現在のエロ描写アニメについて話を聞いた。
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『POPCHASER』より。18禁OVAのため、乳首などは最初から解禁されているが(上)、結合部などは見せられないため、カメラアングルなどの演出でカバーしている(下)。
自分の監督デビュー作は、日本のアダルトアニメの先駆けであるOVA『くりいむレモン』シリーズの『POPCHASER』という作品でした。『POPCHASER』を作った当時は、アダルトアニメに真面目に取り組もうとした人はほとんどいなかった。自分は「引き受けた以上は、きちんと抜けるものを作ろう」と思って制作をしていましたね。そしたら、思わぬ反響があって、女子高生からファンレターが来たこともありました。18歳未満が見たらダメなんですけど(笑)。
現在放映されているアニメを詳しく見ているわけではないですが、最近アニメの性表現が話題になっていることは知っています。今年の7月から改正都条例も施行されましたが、自分も規制される側の人間なので、もちろん無関心ではいられません。
光や不自然な煙などでエロい部位やシーンを隠して放送することが多いですが、この風潮はあまりよくないと思います。例えば放送禁止用語というものがあるように、「これは放送しちゃいけない」というものは、みんななんとなくわかっている。そこに、「放送してはいけない部分に、何か見えなくするようなものを入れたので大丈夫」なんていうのは、プロの仕事とはいえないですよ。
『POPCHASER』は、何十本も作られた『くりいむレモン』シリーズの中で、作中にモザイク処理が入らなかった唯一の作品です。自分が作品を作る時の意図として、アニメに没頭してもらわないと、視聴者は作品の世界に感情移入できないというものがあります。例えば、絵の世界にいきなりモザイクが入ってきたら、その瞬間に誰かの検閲が入ったものだと感じて興ざめしてしまうじゃないですか。性器というものは男女問わず誰もが持っているもので、そのもの自体がいやらしいわけではなく、そこに及ぶ行為がいやらしいと思うわけです。性器を見せれば、アダルトアニメとして視聴者は満足するのか、というと、そういうことではない。こうした信念のもとに、『POPCHASER』では、隠すべき箇所は演出で映さないようにして、作品中にモザイクは一切入らないようにしました。
97年のポケモンショック以降、テレビアニメに表示されるようになった「部屋を明るくして離れて見てね」という文言も、モザイクと同じです。はっきり言って、あんなものが流れるアニメなんて作りたくないですよ。
ともあれ、仮にDVDなどのパッケージ版では規制がすべて除かれたバージョンが見れるというのが売りならば、堂々と最初からそのバージョンで、テレビで作品を発表すべきなんです。見せられないから、テレビでは隠しますというのであれば、DVDになろうが最後まで隠し通しなさいよ、と思います。
もちろん表現の規制に関しては、作る側も好きでこういう表現を選んでいるとは思えません。ただ、こういうシーンが出るとお客さんの食い付きがいいのは確かです。そこには、需要と供給がありますが、単に視聴者が「おっぱいが見たい」、制作者が「おっぱいを描きたい」というのであれば、それはアダルトアニメでやったほうがいい。謎の蒸気や光で隠したって、ごまかそうとしてごまかしきれていない中途半端な映像にしかなりません。
もし今後作られるアニメに、そうした性表現が否応なく含まれるようになるのであれば、それはアニメーションの敗北宣言だと思います。
北久保弘之(きたくぼ・ひろゆき)
1963年生まれ、東京都出身。アニメ監督。15歳で『機動戦士ガンダム』に参加し、その後、着々とキャリアを積み重ねる。85年にアダルトOVA『くりいむレモン』シリーズの『POPCHASER』で監督デビュー。主な監督作に『老人Z』『BLOOD THE LAST VAMPIRE』、BOØWYのPV『MARIONETTE』のアニメパートなど。