芥川賞ダブル受賞作から問い直す メディアと表現の関係を無視する変わらぬ保守"純文学"

新人小説家に与えられる文学賞の最高峰である芥川賞。今年上期の第144回では、まったく異なるタイプの書き手がダブル受賞を果たした。私小説という懐古趣味的ジャンルと、表現に挑戦する新しい実験小説──その解釈の正当性に疑問を提示する。

朝吹真理子氏の『きことわ』

去る1月17日、第144回芥川賞が朝吹真理子と西村賢太に与えられることに決まった。

 受賞した両名は、実験小説の朝吹と私小説の西村と対比して語られる。年若い朝吹の小説が新しさを、初めて芥川賞候補に取り上げられてから受賞まで5年もかかった西村が懐古趣味的なものを代表しているかのように。

 しかし、実際は逆である。ある意味では西村の小説は現代的であり、朝吹の小説は新しくないのだ。

 朝吹の小説はヌーヴォ・ロマンからの影響がうかがえると評される。受賞作『きことわ』は、歳月が過ぎ去ることの早さを読者に抱かせるためにヌーヴォ・ロマンの手法が使われているのだが、ヌーヴォ・ロマンは今から50年前の文学運動である。主要な作家も大方が死んでしまった。つまり、いささか古いのである。

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2024.11.22 UP DATE

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