国家とは、権力とは、そして暴力とはなんなのか......気鋭の哲学者・萱野稔人が、知的実践の手法を用いて、世の中の出来事を解説する──。
第6回テーマ
「中国の民主化とナショナリズム」
[今月の副読本]
『民族とナショナリズム』
アーネスト・ゲルナー/岩波書店(00年)/2520円
イギリス哲学界の巨人が論じた、ナショナリズム研究の古典とされる一冊。政治社会学、社会人類学などの博識からナショナリズムの本質にアプローチした同書は、現代の名著と評され、数多くの分野に影響を与えた。
9月に起きた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件では、起訴前に船長が釈放されたことで、「中国外交の勝利」ということがさかんに中国メディアによって報道されました。それを受けて日本でも、政府の外交姿勢を批判する論調が強まり、その過程で海上保安官による衝突ビデオの流出事件まで起きました。しかし、前号でも述べたように、今回の衝突事件がどこまで「中国外交の勝利」だったのかについては、疑問の余地が大いにあります。今号ではそれを、ナショナリズムの問題を通じて考えてみたいと思います。