部落解放同盟──部落差別の解放運動を展開する全国組織だが、かつての同団体による激しい糾弾活動がマスコミなどからは恐れられ、部落問題に言及すること自体が、いつからかタブー視されていった。しかし、そんな事なかれ主義は、差別をなくすことにはつながらないのではないか?そこで今回は、差別解消に役立ち、部落問題を理解するための本を、解放運動のリーダーである、部落解放同盟中央本部・中央執行委員長の組坂繁之氏に挙げてもらった。
部落解放同盟中央本部・中央執行委員長の組坂繁之氏(写真/有高唯之)
──まずは、「これを読むと部落問題がよくわかる」というお勧めの本を教えていただけますか?
組坂 ひとつは高山文彦さんの『水平記 松本治一郎と部落解放運動の100年』【1】です。この本は、取材や資料を駆使して、「解放の父」と呼ばれ、部落解放同盟の初代中央執行委員長を務めた松本治一郎先生の人生を描ききった秀作です。そもそも部落問題とはどういうもので、戦前戦後を通じた解放運動がいかに展開されたかが具体的に描かれており、高山さんの文章も魅力的で一気に読み進めることができるはずです。また、解放同盟中央本部が編纂した『松本治一郎伝』(解放出版社/87年)や松本先生の愛弟子であり、私の直接の師匠でもあった上杉佐一郎先生(元解放同盟中央執行委員長)の『上杉佐一郎伝』【2】などは400ページ前後ある分厚い評伝ですが、読んでいただくと非常に参考になると思います。ほかには、戦前からの活動家で2代目の中央執行委員長になった朝田善之助さんの『差別と闘いつづけて』【3】。これは、戦前の強烈な弾圧の時代から、戦後、行政当局の部落問題に対する姿勢が変わっていく姿を描いており、解放運動とは何を目指すものかということを知る上で参考になる本です。それと本にはなっていませんが、ぜひ読んでいただきたいのが水平社宣言ですね。大正11年に解放同盟の前身である全国水平社が創立された際、部落出身者自らの手で解放を勝ちとることを宣言した文章で、まさに我々の原点です。この水平社宣言を受けて書かれた、全国同和教育研究協議会委員長の西口敏夫先生の『詩集・水平社宣言讃歌』(奈良県部落解放研究会/71年)や、部落史研究を行い、同和問題の解決に尽した大阪市立大学名誉教授の原田伴彦先生の『被差別部落の歴史』(朝日新聞社/73年)もお勧めです。まずは、こうした古典から当たっていただくといいと思います。