スラム化する地方──。日本社会の隠匿された病巣をラッパーの身体から炙り出さんとする映画『サウダーヂ』が現在製作中だ。監督・富田克也氏の友人であり、DOMMUNEでの連載が話題のライター・五所純子が、同作の懐をまさぐる。
富田克也監督の映画『サウダーヂ』は2011年公開予定。写真は、山梨をレペゼンする田我流演じる右翼ラッパー。(写真/廣瀬育子)
嫁探しに苦戦する田舎の青年団のような男たちがわらわらと集まっては真夜中のフロアを夏祭りの櫓に変える、そんな「田舎に泊まろう!」な瞬間に立ち会ったことがある。先頃『おみゆきさん』(Mary Joy Recordings/桃原響RECORDS)をリリースしたばかりのヒップホップ・クルー、STILLICHIMIYA。山梨県を拠点に活動する彼らの中には桃農家の息子もいて、毎日畑に出かけて地産の桃をつくり出すように、トラックやリリックは日々生産される。その地産スタイルの発端には、単に「レペゼン山梨」(レペゼンの意は当特集【3】参照)というアピールではなく、自身が育った土地をめぐる差し迫った危機感があった。2004年の市町村合併ラッシュによって彼らの故郷「一宮町」は地図から名前を消し、真新しい名前の市が突如出現した。記憶と土地性を上から改変されることに抵抗を覚えた彼らは、失われた「一宮」の名前をクルーの名に冠し、その名を伝播していこうとしたのである。
そういえば、「いてまえ」という言葉は被差別部落に由来をもつと聞いたことがある。大まかにいえば「ヤるぞ」という脅し文句だが、それは悪意をもって外から攻撃してくる人間に対して「ここから先は俺たちの領分である。一歩でも侵入したら暴力も辞さない」という意味であり、つまり無条件に闘争的なのではなく、むしろ自分たちの場所を守るために瀬戸際で繰り出される防衛的な言葉なのだそうだ。STILLICHIMIYAの作風はほのぼのと素朴で愚直な日々の営みを感じさせるけれども、そうした硬い足場に立脚していることを忘れてはならない。