──大人も楽しめる日本のハイクオリティ・サブカルチャーのひとつ、アニメーション。日々進化し続ける技術と想像力に、どうついていったらいいのだろうか……。アニメの真の魅力を浮き彫りにする新批評。
2010年7月号 ANIMATIONクロスレビュー
『劇場版 涼宮ハルヒの消失』
原作/谷川流
監督/石原立也、武本康弘
制作/角川書店、角川映画、京都アニメーションほか
出演/杉田智和、平野綾ほか
配給/角川書店、クロックワークス
2月6日より全国公開中
テレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズの最終回から続く形式を取った劇場版。同シリーズの狂言回し的役割を果たす少年・キョンが、パラレルワールド(「改変世界」)に入ってしまうことから物語が始まる。公開1週間で興行収入2億円、動員14万人を記録した。(画像は原作小説)
【アート講師・石岡評】
★★★★★★★★☆☆
ファンムービーとしては上質な作品
極めて上質なファンムービー。新規層を掘り起こせていないが、本作のメタフィクション的構造を考えると、その役割をテレビ版に委ねたことは正解。キョンが改変世界から帰還する決断に倫理的痛みが希薄なのは、内気な文学少女となった長門有希の影に「悪役」朝倉涼子がいるためか。ナイフでキョンを刺したあと小躍りする朝倉の場面は白眉。各所にカップルの姿が現れる演出も、キョンがリア充であることを巧みにカモフラージュしている。