裏社会に潜入し、その光景をカメラに収めることを想像すれば、男性が優位に思えるかもしれない。しかし写真史をさかのぼると、裏社会というブラックボックスを開いた女性写真家たちがいる。いや、より正確に言えば、女性写真家によって初めて可視化されたアンダーグラウンドがあるのだ。
その代表例が『Diane Arbus』(Aperture/72年)【1】のダイアン・アーバスで、裕福な家庭で育った彼女は60年代に見世物小屋に通い、フリークスたちを撮った(被写体の小人と寝たという逸話もある)。当時のアメリカ社会ではそうした被写体は暗黙のうちに撮るべきでないとされ、展示の際にはおぞましさのあまり写真に唾を吐く観客が絶えなかったという。そのアーバスの系譜にあるのが『The Ballad of Sexual Dependency』(Aperture/86年)【2】のナン・ゴールディンで、中産階級出身ながらドラァグクイーンや性倒錯者など米国の暗部たる共同体に友達感覚で入り込み、ゲイ・カルチャーやドラッグ、セックス、暴力を写し取ったのだった。