業務用スープの横行......行列店店主がこだわる"味の素"の中身とは?

深夜まで営業する店が多い、ラーメン店。閉店後に次の日のスープを炊くとなれば、睡眠時間はほとんどない。志だけでは続かないっす。

──もし、わざわざ店に足を運んで食べるラーメンが、店主の手作りではなかったら?その不安が今、現実になるかもしれない。厨房のちょっと怖い(!?)裏側をご覧あれ。

 先日、ある博多ラーメンの店の、オープン日に取材に行った。夜から客入れをするというのに、店に入るとまったく豚骨の臭いがしない。メニュー表には「鹿児島県産黒豚を使用した豚骨スープが自慢」と書いてあるのにもかかわらず、肝心の豚骨は見当たらない。よくよく見てみると、厨房に濃縮スープが堂々と置かれている。おそらく、「"鹿児島県産黒豚"の豚骨"濃縮"スープが自慢」の店だったのだ......。

 湯で希釈するだけで本格的な味が再現できる濃縮スープ。カップ麺では真空パックになった液体状のものや粉末のものがおなじみとなっているが、この代物が実は、ラーメン店でも重宝されていることをご存じだろうか? 濃縮スープは、「安定した味のクオリティが保てる」「手間がかからない」「スープを炊く際の食材の臭いを抑えられる」などのメリットがあるため、大手チェーンではごく当たり前に使用されてきた。だが本誌が指摘したいのは、マスコミ等が支持する行列店でも、密かに使われているという事実だ。今回、業界で顔が広く、内部事情に精通している人気ラーメン店の店主・A氏に、業務用加工食品が横行するラーメン業界の実情について話を聞いた。

「この世界では有名な話ですが、池袋の行列店Zでは、創業者が現役で厨房に立っていた頃、スープに濃縮鶏がらエキスを混ぜていたらしいですよ」

 かつて、「日本で一番行列が長い店」とまでいわれた名店Z。連日何百人もの客が列をつくる中、安定した味を提供し続けるためには、やむを得なかったのだと信じたいが......。さらにA氏は続ける。

「Zは、店で修業した人にだけのれんを分けているといいますが、実際のところ、金さえ積めばレシピと看板を譲ってくれるらしいんです。麺も多くの分店が自家製をうたっていますが、大半は某製麺会社でつくったものみたいですしね」

 フランチャイズ化することで、ラーメン業界に新ビジネスまで生み出したということか。A氏によれば、そのような話には枚挙にいとまがなく、濃厚な豚骨魚介スープで有名なある店にさえも、濃縮スープ使用の噂があるほどだという。

 また、通常昆布や貝柱などでダシを取り、味の決め手として各店がオリジナルで調合する「カエシ」と呼ばれるタレや、食欲をそそる香味油なども、大手調味料メーカーに委託した既製品に頼る店もあるとか。その代表例ともいえるのが、現在も関東圏で根強い人気を誇る、豚骨ラーメンの有名店X。こちらは濃縮スープに加え、マー油(焦がしニンニク油)も大手メーカーに製造を委託しているらしい。ベテランでも、安定した味を出すのは難しいという自慢のマー油。わざわざ来てくれる客を思えばこその選択だったのだろうか。A氏の指摘は、さらに続く。

「濃厚な動物系白湯スープと和風ダシを合わせる"Wスープ"といわれるスタイルで人気を博し、多くのラーメン店に影響を与えたといわれているW。あそこのカエシも、実は大手調味料メーカーがつくっているんです。焼肉のタレで有名な会社ですが、ラーメン業界では有数な業務用タレメーカーなんですよ」

 創業当初は手作りにこだわっていたW。このような店までもが、マスコミに取り上げられるようになり、仕込みや厨房でのオペレーションの合理化を図らなければならなくなったため、楽で安定した味が出せる既製品に頼るという始末だ。

 濃縮スープには、現在保存料を使わないものも増えており、店で炊いたものとさほど大きな違いはないという。そしてもちろん、業務用を使う店も、各店それぞれが加工や配合に気を使い、必ずしも頼り切っているわけではない。ただ、「おいしければいい」と言われればそれまでだが、せっかく店まで足を運び、時には並んでまで食べるラーメン。いつ何時でも店主のこだわりの一杯を食べたいと思うのは、欲張りな望みなのだろうか。

(文/安楽由紀子、秀也)

(絵/師岡とおる)

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