ゆる〜い自分の生活をマンガにして、一攫千金を狙う方法

──どうも最近、書店のマンガコーナーで、日常や子育て、お仕事などをネタにしたカル~い作品が目につく。「エッセイマンガ」と呼ばれるこれらが、なぜ今こんなに受けてるか甚だ疑問……というわけで、ヒット作を解体・分析、オリジナルマンガに再構築! これで一発当ててみますか!?

テレビアニメ化までされた『うちの3姉妹』。こちらも元はブログ発。

 来春の映画化も決定した『ダーリンは外国人』シリーズ(小栗左多里/メディアファクトリー)の大ヒット以降(200万部超!)、次々とヒット作が生まれているジャンル「エッセイマンガ」。"作者の周囲に起こったあれこれ"を、作者自らがマンガ(とコラム)で描きつづった単行本のことで、その人気っぷりに、今やマンガコーナーを飛び出し、専用コーナーを設けている書店も多く、120万部突破の『キッパリ!』(上大岡トメ/幻冬舎)、100万部突破の『うちの3姉妹』(松本ぷりっつ/主婦の友社)あたりのミリオンセラーは手にしたことがある人もいるのではないだろうか。

 売れっ子マンガ家の"持ち芸"のひとつとしての"エッセイもの"は『マコとルミとチイ』(手塚治虫/講談社、79年)、『タケちゃんとパパ』(江川達也/あおば出版、02年)や、『猫でもできる海外旅行』(一条ゆかり/集英社、93年)など昔から存在したが、現在のブームの中心はそれとは異なり、"エッセイマンガ専従作家"とでもカテゴライズしたくなるような、このジャンルでしか見たことがない無名作家のものが人気を博しているのが特徴だ。普段、マンガを読む習慣がない人でも手に取れば読めてしまうという、日本人の"マンガ偏差値"の高さゆえ、有名無名を問わず受け入れられるのだと思われる。

 本稿では〈既に創作マンガで知名度がある作家の、余技としてのエッセイマンガ【※1】〉〈取材を必要とするルポマンガ【※2】〉〈テキストとマンガの作家が別人の作品【※3】〉は除外するが、冒頭で挙げたヒット作のほかにも、話題作は続々と生まれている。 波瀾万丈なドラマはないけれど都会で働く30代シングル女性の日常と、リアルな心の内を描いた『すーちゃん』(益田ミリ/幻冬舎)、作者の夫がうつ病を発症した顛末とその経過をほのぼのタッチで綴る『ツレがうつになりまして。』シリーズ(細川貂々/同)、タイトルまんまの『片づけられない女のための こんどこそ!片づける技術』シリーズ(池田暁子/文藝春秋)、統合失調症を患う実母と作者の大変な日々をユーモラスに描いた『わが家の母はビョーキです』(中村ユキ/サンマーク出版)など、どれも、順風満帆とはいかない生活を描いたものが中心だ。加えて最近は、ヲタク属性の独身30男のトホホな日常を描いたウェブコミック『ぼく、オタリーマン。』(よしたに/中経出版)や、腐女子と呼ばれる女子の日々を恋人からの目線で自虐的に描いたブログ発の『となりの801ちゃん』(小島アジコ/宙出版)、飼い猫とののんびりライフをアップして高アクセスを稼いでいた『くるねこ』(くるねこ大和/エンターブレイン)など、ウェブ出身のコミック作家も出始めているが、そこでもまた「非モテ」や「ヲタ」など、"弱者からの目線"という共通点は変わらない。たとえ人も羨む高スペックの人物でも、「どうせ私は負け組」という立ち位置なのが面白い。

「マンガらしくない」から売れる作品が生まれてる?

 そしてこれらのエッセイマンガを詳細に分解していくと、「あるある感」「自虐的ユーモア」「絵がイラスト寄り」「実用性」「さくっと軽い」「短時間で読める」「文字が多い」といった共通項が浮かび上がってくる。これは本来のマンガの醍醐味とは真逆のように思えるが、そうした"マンガらしくないマンガ"であることが、エッセイマンガがウケている理由のようだ。実際、ヒット作の版元となっている出版社も、大半がマンガに強い会社ではないため、制作に携わっているのも非マンガ畑の編集者が多く、ほとんどの作品が雑誌連載→コミックス化というマンガの王道ルートを通らずに、いきなり単行本書き下ろしという、一般書籍と同じ作り方をされている。96年には「PUTAO」という、有名少女マンガ家らによるエッセイマンガ専門月刊誌も創刊されたが、わずか3年で休刊。内容としてはマンガ家の旅行記やペット飼育記、それにマンガ家インタビューなどが掲載されていたが、版元が「花とゆめ」「ヤングアニマル」などで有名な白泉社で、なまじマンガ専門だったことが裏目に出たのかも(もちろん、時機が熟していなかったのが一番の敗因だろうが……)。片や、現在のエッセイマンガのスタイルに極めて近い、実話4コママンガを集めた月刊誌「本当にあったゆかいな話」(竹書房)は今年12月号で通刊150号を迎えるという息の長い人気を誇っている。となると、勝因はやはり「単純な絵で、サクッと読めて、笑える」ということか。

『ダーリンは外国人』シリーズのヒットでジャンルの第一人者となったメディアファクトリーは、03年から雑誌「ダ・ヴィンチ」内にその名もズバリ!〈コミックエッセイプチ大賞〉を設立し、新人の発掘に力を入れている。一見描きやすく、一発当てるとデカいが、創作モノと違いリアルでネタがなくなると描き続けられなくなるという、実はリスキーなジャンルだけに、版元としては常時新規補充が必要ということなのだろうか(ということは、ブームが落ち着いた後には、お払い箱になったエッセイマンガ作家がリストラ経験を描く可能性も!?)。

 しかし、一体この激ユルな出版物の"何"が、これほどまでに今の世の中に受け入れられているのだろうか? ここまでの考察を踏まえ、次ページでは売れる要素を詰めこんだオリジナルエッセイマンガを描いてみた。自分の生活を切り売りできる自信がおありの方は、これを機に作家デビューを目指してみる?

(文/オカヂマカオリ)

【※1】『グーグーだって猫である』(大島弓子/角川書店)、『ママはテンパリスト』(東村アキコ/集英社)、『失踪日記』(吾妻ひでお/イースト・プレス)、『ヨメトレ!』(新條まゆ/ヴィレッジブックス)など

【※2】『できるかな』『太腕繁盛記』(西原理恵子/扶桑社、新潮社)、『美人画報』(安野モヨコ/講談社)、『だめんず・うぉ~か~』(倉田真由美/扶桑社)など

【※3】『祝!できちゃった結婚』(高清水美音子&宇仁田ゆみ/メディアファクトリー)、『日本人の知らない日本語』(蛇蔵&海野凪子/同)など

エッセイコミック売れるジャンルはこれだ!

1.家族モノ

代表作:『ダーリンは外国人』シリーズ
エッセイマンガの"王道ネタ"。特に夫婦モノと出産&育児モノの人気が高い。今後は高齢化社会を見込んで、介護モノや老人モノの登場が予想される。『うちの妻ってどうでしょう?』(福満しげゆき)、『笑う出産』(まついなつき)など。

2.オンナモノ

代表作:『結婚しなくていいですか。』
非モテ系シングル女性が主人公の場合が多く、その捨て身な感じが笑いと共感を誘う。仕事~恋愛・結婚~出産・子育て~老い~死、とオンナの人生は続くので、大河ロマンも夢じゃない!?
『女いっぴき、猫ふたり』(伊藤理佐)など。

3.お仕事モノ

代表作:『ぼく、オタリーマン。』
業界内幕暴露など、幅広い層の興味を集めるジャンルなのに、描き手不足で未成熟なのが残念。伸びしろは多いと思われるので、腕に覚えがある人は挑戦してみては?『暴れん坊本屋さん』(久世番子)、『実録企画モノ』(卯月妙子)など。

4.生活術モノ

代表作:『片づけられない女のためのこんどこそ! 片づける技術』
少々自己啓発が入っているのがポイント。ただし、あくまでも入門書の代用品なので、できるだけカンタンな方法でなくては不可。『必要なものがスグに!とり出せる整理術!』(池田暁子)など。

5.病気・不幸モノ

代表作:『ツレがうつになりまして。』
本人が病人の場合と、罹病した家族を作者が看病する場合の2パターンがある。重めのテーマを咀嚼して読ませるのはマンガならでは。取り扱う病気に関する情報も満載。『性別が、ない!』(新井祥)、『わが家の母はビョーキです』など。

6.その他、この辺りも狙い目!

代表作:『映画でにぎりっ屁!』(榎本俊二)
[感想モノ]映画好きのマンガ家によるレビューコミック多し。『こんな映画が、 吉野朔実のシネマガイド』(吉野朔実)など。[道楽モノ]マンガ家がハマった趣味についてのガイドマンガ。『まらそんノススメ』(田渕由美子)など。

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