自民党が陥る"与党ボケ"と復活を目論む保守政策の真意【前編】

――民主党政権が発足してから2カ月が経過した。大手メディアが発表する世論調査を鑑みる限り、鳩山内閣への支持率と期待値は相変わらず高いようだ。だが、「無駄遣い撲滅」を掲げていながらも、概算予算請求は95兆円と過去最高を記録、さらに目玉公約のひとつ「子ども手当」も財源が不明瞭。また、鳩山由紀夫首相本人にも献金問題などが噴出し、民主党の政策やイメージに暗雲が立ち込めている。こうした状況の中、野党となった自民党の幹部は"与党"を、そして保守政党の役割を、どう見るのだろうか?

【今月のゲスト】
河野太郎(衆議院議員)

神保 今回は、9月の自民党総裁選に出馬し、自民党の健全な保守政党としての再生や世代交代、脱派閥を訴えながら、谷垣禎一さんに敗れた河野太郎さんをお招きし、「保守とは何か」、また「自民党再生に必要なこと」をテーマに議論を進めたいと思います。

 この番組では、かねてから「政権交代が起こった時に、民主党政権による"リベラルの暴走"を抑止する上でも、保守政党としての自民党が力のある健全な野党として再生する必要があるという話をしてきました。

宮台 米国と欧州では保守概念が逆。「フランス革命=市民の自由」を懐疑するのが欧州流保守。「独立革命=市民の自由」を信奉するのが米国流保守。リベラルの向きも逆で、欧州流リベラルは「市民の自由=政治参加」を称揚。米国流リベラルは「市民の自由=市場主義」を懐疑する。欧州と米国の保守の共通項をあえて挙げると「国家介入を排した社会保全」。欧州では「市民の自由」が「国家介入」を支援することへの「独裁批判」があり、米国では「国家介入」が宗教的自発性をスポイルするという「国家批判」があります。

神保 民主党政権が誕生した今、自民党は対立軸となる保守政党として、何を打ち出すのか。河野さんは一つの明確なアイデンティティを掲げて総裁選を戦ったと思いますが、その河野さんがどちらかというと古い自民党のアイデンティティのまま戦った谷垣さんに敗れたことをどう見るべきか。まず、谷垣さんの300票に対し、河野さんは144票という結果について、ご自身ではどう捉えていますか?

河野 惨敗です。少なくとも、党員票では勝つと思っていましたから。世論は圧倒的に河野太郎支持になるだろうと考えていて、現に総裁選前日の『新報道2001』(フジテレビ)では、河野40%、谷垣30%、西村5%という世論調査が出ていました。我々は世論の支持を背景に党員票で勝ち、「世論と党員の意思を、議員がねじ曲げていいのか」と問うつもりで、ビラまで用意していたんです。しかし結果としては、ビラもまけずに撤収することになりました。

神保 「惨敗」の理由は、どう分析していますか?

河野 第一に、自民党員の間にも、危機感に濃淡がある。要するに、本気で党を変えなければいけないと思えば「河野太郎でいこう」と考えるはずですが、「系列の議員に電話をもらって、谷垣さんを支持した」という方も相当数いるんです。総選挙であれだけ負けて、崖っぷちどころか崖から落ちているにもかかわらず、それを認識していないのですから、"与党ボケ"だとしか思えません。また、野党の総裁選だからメディアのカバーは少ないと思っていましたが、ここまでとは考えていませんでした。日米会談の後ろにくるのは仕方ないにしても、幸夫人のファッションのニュースよりも、もっと言えば天気予報よりも後でしたから。報道が「河野と谷垣の何が違うのか」というところまでたどりつかず、「河野が激烈な森批判を展開している」だとか、「町村が握手を拒否した」といったところに終始してしまったのも誤算でした。世論も盛り上がらなかったし、党員を熱く動かすこともできなかったということです。

宮台 メディアは劇場的な扱いで、河野さんが派閥解消を主張しても、野党の派閥なんてどうでもいいという感じ。日本の保守とは何か、自民党らしさとは何か、といった議論になりませんでした。

神保 総選挙での自民党大敗を、河野さんがどう捉えているのかについても、あらためてきかせてください。

河野 1年以上前に、在京大使の方々に話をする機会があったのですが、最初に「総選挙はどうなりますか?」と訊かれたので、「300対100でしょう。無論、自民党が100になります」と答えました。つまり、小泉さんが辞めた後の3政権に、誇るべき実績が全くない。マニフェスト選挙だと言っても、与党は実績で評価されます。どう見ても自民党に勝ち目はないので、なんとか優秀な若手議員を残したいと思い、各地方に応援に行きましたが、その候補者たちも全敗でした。予想通りの逆風でしたが、そんな中で若く優秀な議員が残らず、どうでもいい人ばかりが残ってしまったのは、大きな間違いだと思います。

神保 今回の自民党の負け方は、アメリカの共和党の負け方に似たて中道の人たちは民主党に持っていかれ、コテコテの保守派が多く残りました。

宮台 共和党のコアは「宗教保守」つまり「危機感の強い人たち」。自民党のコアは「自明性に埋没する人たち」つまり「危機感のない人たち」。背景に政治文化があります。通常は「お任せ」状態で、何か憤激したときにだけ「お灸を据える」投票をする。自分たちが「引き受け」なければ社会を保てないという意識がないんです。

神保 河野さんは小泉さん以降自民党に実績がないとおっしゃいましたが、なぜそんな状態になってしまったのでしょうか?

河野 一言でいえば、大臣が無能だったからです。民主党政権が掲げている無駄遣いの撲滅にしろ、岡田克也外相が進めている核密約調査にしろ、我々が党内で「やれ」と言い続けてきたことです。与党の時にやれることをやらないで、手柄をすべて民主党に持って行かれそうという状況ですね。派閥均衡で能力のない人間も大臣になり、役所の思う通りの"振り付け"を演じた。派閥があるのはいいとしても、個人的な集まりがあたかも党の公式機関のように機能し、人事権を持ってしまったことが問題なんです。自民党政権最後の数年間は、明らかに党内に向いた人事を行うという末期的な状況でした。

宮台 自民党とは、もともとそうした政党。政策は官僚任せ。公共事業で集票する。政治家は権益コネクションがある有力者にすぎず、有力者の子も有力者だから世襲議員が力を持つ。そんな自民党なら捨てちゃえばいいのに、あえて自民党を変える理由は?

河野 自民党でなければいけない、と考えているわけではありません。ほかに選択肢がないんです。つまり、自民党を乗っ取って変えるか、自民党から出て新党を創るか。それならば、乗っ取った方が早い。

神保 河野さんはこれから、次の総裁選に向けて準備をしていくつもりだと聞きました。具体的には何をしていくのでしょうか?

河野 まずは「自民党とはこういう政党なんだ」という旗印を持って、それにぶら下がる個別の政策を作り、ブラッシュアップしていく必要があります。そして、今度はそれを持って各地域を回る。その前段階として、「地域の空港はどうあるべきなのか、農業をどうしたいのか」といった意見交換をしたいと考えています。

中編へ続く

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