民主党の"闇将軍"?
「脱・官僚」を謳いさまざまな政治改革を進める民主党だが、無駄を削るどころか、自民党時代より膨れ上がった予算の概算要求が出てきたあたりから、雲行きが怪しくなってきている。そんな鳩山内閣を検証する座談会を開催。全国紙政治部デスク(A)、全国紙政治部記者(B)、民放政治部記者(C)が、民主党政権の危うさに警鐘を鳴らす。
A 民主党が政権を取って2カ月余り。表向きは、政治主導の新しい取り組みが始まっている感じだね。
B 鳩山由紀夫首相は官僚支配を打破しようと「霞が関に100人の議員を投入する」と表明。各省内では大臣、副大臣、政務官の三役が部屋に閉じこもり、政策の見直しに躍起だ。
C 9月の政権発足まもない頃、真っ先に官僚をびびらせたのは、副総理の菅(直人)さん。国土交通省の谷口博昭次官が挨拶に菅事務所を訪ねたとき、机の脇に座らせ、「役所が政策を語ることはない」と30分近くも説教(笑)。部屋を出てきた谷口さんは顔面蒼白でしたよ。
B 「ミスター年金」こと厚生労働相の長妻昭さんもガツンといったね。就任当日、大臣室入りするなり、担当者を呼び付け、「年金未払い者への支払い実績をグラフにして張り出せ」なんて営業マンみたいなマネさせてた(笑)。
C 長妻さんに握手を求められたという局長クラスの官僚は、「冷たい手だった」とゾッとしたそうです(苦笑)。
B 長妻さんは天下りを根絶するため、来年度予算から、官僚OBがいる天下り法人への補助金などを1600億円カットすると言いだした。ほかの大臣も同調するみたいだ。
A そんな鳩山政権におびえ、7月に早々と文部科学事務次官を辞めた銭谷眞美氏は2週間後には東京国立博物館館長に天下り。国交省や内閣府の局長クラスも次々と関連団体のトップポストへと駆け込んだ。腐ったキャリア官僚のなれの果てを見せつけてくれたよ。
B そうした徹底した官僚外しを主張しているのは、実は小沢一郎幹事長なんだよね。
C 官僚嫌いなのは菅さんとか、行政刷新担当相の仙谷由人さんじゃないんですか? 小沢さんは選挙対策ばかりしてると思ってた(苦笑)。
A 小沢さんは自民党幹事長時代、米国中心の多国籍軍がフセイン政権下のイラクと戦った「湾岸戦争」に自衛隊を派遣しようとしたんだけど、内閣法制局の違憲判断に阻まれ、地団駄踏んだ苦い経験をした。あれ以来、役所には政治へ口を挟ませまいと信念を決めたんだ。今回、国会では官僚に答弁させないよう法律改正するつもりだね。
C ところが、10月下旬に開かれた臨時国会に備え、鳩山首相の答弁メモを用意するよう官邸から各省庁の官僚あてに指示が出ていたことが発覚。「首相にふさわしい格調高い表現に」とか、「役人にしかわからない表現を使わない」「結論を先に述べる」なんて内容。「結局、オレたちがいなけりゃ何もできない」と官僚たちのいい笑い草です。
B 民主党議員の中には野党時代、国会の調査局スタッフに質問案をつくってもらうご仁もいたよ。役人依存体質から抜け切れていないね。
C 中堅のキャリア官僚たちが、民主党の女性秘書たちと合コンして情報収集しているなんて動き、知ってます?例の風俗ライターをしていた田中美絵子議員も秘書出身。あの手の情報は女性秘書グループからだだ漏れで、それを官僚たちが週刊誌媒体にリークしているそうです。
A 官僚たちの内向きの情報収集能力はずば抜けてるからな(笑)。霞が関は、まだ自民党とつながっている。民主党スキャンダルは、今後も続きそうだ。
菅直人まで隅に追いやる小沢幹事長の豪腕ぶり
A 「官僚支配からの脱却」を反故にしたもう1つのケースも明るみに出たね。日本郵政社長を西川善文氏から元大蔵事務次官の斎藤次郎氏に交代させた件。「こんな天下り、ありか!」と自民党の谷垣禎一総裁も怒り心頭だった。
C 斎藤氏と昵懇の小沢さんが仕掛けた人事といわれています。小沢さんはブレーンの稲盛和夫・京セラ名誉会長を行政刷新会議のメンバーに起用する人事でも動いています。
民主党 衆議院で308議席、参議院で115議席を有する政権与党。先の総選挙では、官僚主導の行政により生まれた「無駄遣い」を徹底的に削ることなどを公約に掲げたが、早くも各所からの抵抗に遭い、国民の間にもシラケムードが漂っている。
B 小沢ブレーンへの寵愛ぶりは度を越してるよ。本誌の別の記事でも触れているようだけど、小沢さんは全日空の大橋会長とも懇意。全日空の拠点空港になっている羽田のハブ化構想が持ち上がったのも、小沢=大橋ラインとささやかれているんだ。
A その豪腕さに反発が出始めている。仙谷さんが行政刷新会議の下にワーキンググループを作り、新人議員を中心に若手たち32人を投入したら、小沢さんの一喝で差し替えになっちゃった。仙谷さんは反小沢派だから勢力拡大を恐れたんだね。
C 「独裁者!」って蓮舫さんたち党内若手は猛反発ですよ。小沢さんは、各地から上がってくる陳情窓口も幹事長の一括扱いにすると決めてしまいました。選挙区の相談を受けるのは議員の仕事なのに。
B 党内抗争が顕在化してきた証しだね。5月の代表選で鳩山首相と争った岡田克也外相外しが進んでいるんだ。岡田派の代表格だった有力議員の野田佳彦さんや枝野幸男さんは入閣できず、岡田さん本人も内政にかかわれない。
A 国家戦略担当相に就いた菅さんも、当初は党政調会長を兼務するはずだったのに、小沢さんに蹴られ、実態のないポストに置かれた。菅派は夜な夜な会合を開き、怪気炎をあげているよ。
改革の敵はマスコミにも内閣記者会の抵抗
A 大きく変わったのは、マスコミ対応くらいかな。記者クラブの開放が徐々に進み、首相就任会見には、初めて雑誌や専門紙の記者15人が参加した。
B 官邸は前もって、記者会見を主催する内閣記者会に対し、「海外メディアの枠拡大」「雑誌や専門紙記者の条件付き参加」を求めてきた。記者会としては、新聞協会に加盟する新聞と通信社、放送各社と、一部の海外メディア以外の会見参加は認めていない。
C 記者会は、クラブ総会を開きましたが、新聞のベテランらから「安易に枠を拡大しては、当局の言いなり会見になる」と反対意見がかなり出ました。
A 情報公開は時代の流れ。会見をオープンにするのは当たり前なんだよね。暫定措置として、20人程度の枠を認めることで決着している。
B この会見をきっかけに、インターネットニュースやフリーのライターたちからも首相会見への参加申し込みが増えている。もはや、垂れ流しの政治報道は誰でもできる時代になったんだ。
A それだけに、より深い内幕を暴く役割が、新聞・テレビに求められているわけ。その辺を自覚して、民主党ウオッチを続けよう。
(構成/編集部)
鳩山政権の支持率
発足直後は、72.0%という高い支持率を誇った鳩山内閣。だが、共同通信社が10月31日、1日に行った世論調査の結果は61.8%と、早くも10.2ポイント下落。さらに、同調査では、マニフェスト実現の先送りや一部修正を容認するという回答が68.0%に上ったものの、日本郵政社長に斎藤次郎元大蔵事務次官を充てた人事に関しては「評価しない」が49.4%で、「評価する」の27.0%を大幅に上回った。