──犬神サーカス団を「V系」って呼んでもいいんですか?
情次 こっちはウエルカムですけど、昔はV系バンドに女性がいるってタブーだったんですよ。雑誌の人に「V系として扱いたいけど、反感を買うので後ろのページでいいですか?」って言われたこともありました。
──角川映画っぽい(笑)バンド名ですが、由来はなんなんですか?
明 寺山修司さんの『田園に死す』(74年)っていう映画があるんですけど、その中に登場するサーカス団が「犬神サーカス団」だったんです。
──寺山修司好きだったんですか?
明 僕らは若い頃「無気力世代」っていわれていたんですけど、実際、「熱くならないことがカッコいい」みたいなとこあったんです。情熱的なことはすごいダサいことだったんですね。でも、子どもの頃に観た映画やドラマって、めちゃくちゃ熱かったんですよ。自分が高校生になった時にその熱さを全然体験できなかった悔しさがあって、アングラの方向に行っちゃったんです。
──メンバーを雑誌の文通コーナーで集めたそうですが。
明 マンガ家になりたかったんですよ。「ガロ」に載ってるつげ義春さんとか好きで、ああいうのって面白いと思ってたんです。で、その「ガロ」の文通コーナーに、凶子がメンバー募集を出してたんです。
──趣味嗜好が合う人とやりたかったんですか?
凶子 「ガロ」を毎月読んでて、音楽も好きでバンドをやりたかったから、「ガロ」に出せば面白い人が来るんじゃないかと思ったんです。
──やっぱり気の合う人同士だと、15年も続くんですね。
情次 もめるような大きなお金を稼いでもないし(笑)。
──でも、それなりのポジションは、ちゃんと築いてらっしゃいますよね。
明 知名度的にはね。
凶子 結成して早い段階で、『えびす温泉』(テレビ朝日)という番組に出させてもらったりしたんで……。
──テレビに出るきっかけは?
凶子 初ライブのビデオをテレビ局に勝手に送ったんです。
──その後、どんな経緯でメジャーデビューを?
明 僕がドラム講師をやってるスタジオが、ボーカル教室も始めることになったんですね。で、その講師がアースシェイカーのマーシーさんに決まって(笑)、「昔から大ファンでした」って犬神のCDを渡したら、次の週に「最高だよ!一緒にやろうよ」って言われたんです。
──それが、アップフロントでのメジャーデビューへの足がかりになったんですね。
明 まさかこんなバンドがメジャーに行くとは思いませんでしたよ。まったくメジャーの反対じゃないですか!
──でも、一応V系だからモテるんじゃないですか?
情次 バンドをやっててモテるとはあんまり思ってないです。男子校出身だったってこともあるかもしれないですけど、大学入ったら世の中はDJのほうがはやってて、当時合コンに行くと「髪長いけどバンドやってるの?」って聞かれて、「ううん、DJ」って答えてましたよ(笑)。
──でも、モテたいからバンドを始める人がほとんどですよね。
ジン モテたかったら、もっと違うバンドをやってると思う。
明 僕はマンガ家みたいな立ち位置になりたかった。キャラクターは人気あっても、マンガ家自身はキャーって言われないという(笑)。
──自分ではなく、自分の作った世界がモテるのがいいんですか?
明 そうです。それが受け入れられてほしいというのは強いですね。
凶子 モテたいと思ったら、女の子はバンドやっちゃダメ。バンドやりたい女の子にはぜひとも言いたい!
──"女"をウリにしたバンドをやろうとは思わなかったんですか?
凶子 女の子同士のバンドは高校の頃に遊びでやったんですけど、とにかく人間関係が大変だったんですよ。同じ人を好きになっちゃったりして(一同爆笑)。
いぬがみさーかすだん
(写真右より)Gt.犬神情次2号/Dr.犬神明/Vo.犬神凶子/Ba.犬神ジン 「四国は高知県の呪術師の家系、犬神家。4人の子どもたちは芸を身に付け、サーカス団として全国を興行して歩く」というストーリーコンセプトの下に活動している。唯一の"紅一点"V系バンドでもある。94年結成、03年にはアップフロントワークスよりメジャーデビューしたが、06年に再びインディーズへ戻った。寺山修司ワールドのような白塗りメイクが強烈。
結成15周年ベストアルバム
『籠の鳥、天空を知らず』
(発売/キンメダイレコード)
ハードなサウンドに「語り」が入り、時折「絶叫」もある。簡単にいっちゃえばそうなんだけど、バンドがバカテクなんですよ。ドラム講師が率いるバンドだから、そりゃレベル高いよね。V系にくくられているけど、「筋肉少女帯」や「人間椅子」と同じ匂いがします。30代音楽好きには「ナゴム系」といったほうがわかりやすいか。DISC1の3曲目「エナメルを塗られたアポリネール」を聴いてたその時、うちの娘が変な踊りを始めるじゃないですか!?うちの娘が音楽で「ノッた」のは初めてだったので、そういう意味でも感動ね。ライブに連れていこうっと♪
Kei-Tee的インタビュー後記
「よろしくお願いしまーす」。爽やかに取材場所へ現れたメンバーに、とにかく驚きました。「犬神家、呪いの血筋」とか言ってるからさー、どこまで普段から世界観を作り込んでるか不明だったのよ。だって「瓶詰めの胎児」とか「鬼畜」が曲名で、歌詞も倫理的に問題大アリって感じ。発禁になってもおかしくないよ。しかも、かつてはメジャーレーベルから出してたんだから、本気度高そうでしょ。どんな人間が来るか興味ありました(笑)。で、実際に会うと、爽やかさと音楽&メイクのギャップに参りましたよん。しかも全員話が面白く、原稿にする際もどの部分を使うか迷いました。あたしも「ガロ」定期購読者だったんですよ。凶子さんと友達になれたらいいなあ。
<筆者プロフィール>
1973年、東京都生まれ。"神に最も近い男"角川春樹の娘にして、角川春樹事務所顧問、出版プロデューサー。根っからのビジュアル系好きで、元バンギャルにして元アイドル。1歳の愛娘の子育てに奮闘中。自著に、自薦他薦セレブのインタビュー集『セレブの血』(ワニマガジン)がある。 公式サイト