――海外からの郵送、海外サーバからのダウンロードによって、オモテAVで活躍している売れっ子AV女優たちが、当たり前のように無修正ビデオにも出演している現代ニッポン。その奇妙な状況が成立するまでの歴史と、その後の現状を考察する!
↑画像をクリックすると拡大します。
刑法175条「わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする」──。
1982年頃に制作されたとされる日本初の裏ビデオ『洗濯屋ケンちゃん』からおよそ20年、モザイクなどによって性器に対する修整処理の施されていないポルノ製品の流通、販売は違法とされる我がニッポンにおいて、無修整ポルノ=裏ビデオは、アングラコンテンツの中心的存在として君臨してきた。21世紀を迎える頃から、モザイク入りの合法AVのメディアがVHSからDVDへと移行するのに伴い、裏ビデオのメディアもDVDに移行、男性誌界隈などでは、その名称も"裏DVD"が一般的となった。
そう、日本において無修整ポルノは、メディアがVHSであろうとDVDであろうと、あくまでも"裏モノ"であり、違法なもののはずであった。しかし、21世紀に入ってはや10年を迎えようとしている今、そんな"裏ビデオ"が、大きく様変わりしている──。
もともと裏ビデオは、AV制作・販売メーカーの倒産によって、あるいはごくまれに、それらの企業の内部の者によって意図的に、モザイクをかける前のオリジナル素材がその筋の業者に売却されることから流出するものであった。典型例は、92年に倒産したダイヤモンド映像から流出した作品群であろう。その中には、黒木香、卑弥呼など同社で活躍した女優たちの作品が多数含まれていた。
素材を手に入れた裏ビデオ流通の親元は、その二次コピーを流通元の問屋筋に配布。これを"原盤"として複製が作られ、最終的には、東京であれば歌舞伎町などに林立していたような各小売店に卸されていくという販売システムをとっていた【今でもわずかに残るこれらの販売店のスタッフの現状については、こちらのコラムを参照】。つまり、ユーザーの手元に届くまでには最低でも3~5回程度ダビングが行われており、このことが、「裏ビデオ=画質の劣化したモロ見えAV」という認識につながっていたのである。
こうした流通経路が構築されたのは、そこに関係するすべての業者──その多くは暴力団関係者であった──に確実に金を落としていくためである。AVがVHSレンタル中心であった00年以前の時代には、1本当たりの原盤価格は20~30万円といわれていた。そのコピーが問屋に落ちるときには10万円程度、そして小売りには5万円程度となって、それぞれの段階で利益を生み出していたのだ。
ところが、ソフト・オン・デマンドによってオモテのAV業界に"セル"という新たな販売形態が広められ、メディアもDVDへと移行した00年前後と時を同じくして、この裏ビデオ流通システムにも大きな変化が訪れる。「逆輸入版ブーム」の到来である。
インターネットが普及してネット通販ショップが続々と誕生していたこの頃、台湾系を中心としたアダルトサイトやアダルトメーカーの運営者によって、日本製AVの無修整素材が熱心に買い求められるようになった。これは、それらの国々のポルノ作品に比べて日本製AVが過激で、かつ出演女優のクオリティも高かったことにより、アジア諸国で評価が高かったことが主な理由として挙げられる。
これに呼応する形で、それらのサイトやメーカーに原盤素材を密かに売却するAV関係者が急増。これが日本に"逆輸入"されてスタートしたのが「逆輸入版ブーム」であり、これに伴い、旧来型の裏ビデオ流通システムは崩壊していく。
というのも、こうした通販サイトは、海外サイトといえど、表記はすべて日本語、決済はクレジットカード。そこで製品を購入し、送付先として日本国内を選べば──ごくまれに税関での抜き打ち検査で没収されてしまうものを除けば──日本で製品を受け取ることが可能だったのだ。つまり、ビジネスとしてはあくまでも日本人向けのものだったのである。
ここに、現在に至るまで連綿と続く、無修整AVのビジネスモデルが成立する。つまり、日本の法律が及ばない海外の通販サイトで購入した製品を、郵送によって日本人ユーザーが直接購入する、というシステムである。
もちろんこの時代はまだネットショッピングは一般的ではなく、扱われているコンテンツも数少ない"流出もの"であったため、これが即座に巨大市場に化けたわけではない。しかし、少なくとも、それまでの暴力団系の裏ビデオ業者による流通システムはほとんど失われ、以後、この旧システムの末端にあった歌舞伎町などのショップは、一般ユーザーと同じように海外サイトで商品を購入し、これを大量にコピーして、年齢層が高くネットリテラシーの低いユーザー向けにのみ、細々と直接販売していくようになるのである。
"真っ当なビジネス"として 量産される無修整AV
同じく00年代初頭、国内の合法AV市場においても、ちょっとした"事件"が起こる。「薄消し」の登場だ。これは、レンタルに取って代わって徐々に隆盛を迎えつつあったセルビデオ市場についていけずに疲弊した一部の中小AVメーカーが、レーベル名だけ変え、ごくごく薄いモザイクをかけただけの作品を通常のセルAVとして販売したことに始まる。この薄消し作品が、次なるコンテンツを探していた海外サイト関係者の目に留まる。一方の薄消しメーカーも、いつ当局の摘発を受けるかわからないギリギリの商品であったために大々的に宣伝をかけられるわけもなく、市場の拡大に苦労していた。こうして両者の思惑が一致、薄消しメーカーが、海外サイト運営者の依頼を受け、そのサイト向けのオリジナル無修整作品を制作するに至るのである。
この、合法AVからの流出モノではない「撮り下ろし無修整AV」の市場を一気に爆発させたのが、今でも根強いファンを持つ、"国民的裏ビデオ女王"白石ひよりだ。数多い彼女のヒット作の中でも金字塔とされる03年の『スナップショット』の化け物的ヒットによって、「合法AVでも活躍する現役のAV女優による」「撮り下ろしの無修整作品が」「海外サイトで販売される」という、現在まで続く無修整AVのビジネスモデルが完成を見るに至るのである。
さて、その頃国内の合法AV市場では、メディアが完全にDVDに置き換わり、まれにサブカル的な評価を得るような作品をも生み出すような、のほほんとした"AVメーカー乱立時代"が終わりを告げ、セルビデオの創始者ソフト・オン・デマンドと、ムーディーズ、S1などのレーベルを擁する北都グループによる2大巨大資本が覇を争う時代に突入していた。そこでは、資金力をバックにAV女優がタレント化し、それらの女優をフィーチャーしたシリーズ物作品が大量生産されていく。その一方で、無修整AV作品に出演するのは、それらのメジャーシーンにはかかわれない企画系AV女優や落ち目AV女優が主であった。
時代は、06年のライブドア事件に突き進んでいくIT革命時代。ネット回線はADSLから光へと、一般家庭においても急速に容量を増し、動画のダウンロードも日に日にたやすくなっていく。無修整AV市場でも、郵送に比べてよりリスクの少ない、海外サーバを経由したダウンロード販売が主流となり始め、さらに市場も巨大化していく。こうした状況下で、徐々にではあるが、合法AVのメジャーシーンで活躍しながら、無修整作品にも出演するAV女優が出現してくる。海外サイト「トラトラトラ」で活躍した灘ジュンや金沢文子、鈴木麻奈美などがその代表例であろう。
一方で合法AVシーンでは、巨大メーカーによる寡占状況が行き詰まりを見せ始める。追い打ちをかけるように、ネット上に落ちている裏ソフトさえ使えばDVDのコピーもパソコンで簡単にできるようになり、"コンテンツただ見世代"が出現、世間の不景気とも相まって、AV不況の時代が訪れる。
こうなると、数年前には「うちの子は絶対に"裏"には出しません!」などと頑張っていたAVモデル事務所も、仕事の内容に文句を言える余裕などなくなり、拡大化に邁進する無修整AV市場に活路を見いだそうとする動きが活発化してくる。こうして今では、「今日は海外モノ作品の撮影でした~」などと陽気にブログで報告するメジャーAV女優も、まったく珍しくなくなってしまったのである。
これは、女優のみならず、メーカーとて同じことだ。一部薄消しメーカーが海外サイト運営者と組んでこっそりと撮り下ろし作品を制作していた時代も今は昔。今では、どんな無修整作品であろうと、その制作を請け負い、あるいは販売しているのがほぼすべて国内のAV関係者なのは、業界関係者であれば誰でも知っている話。実際、昨年末に突如閉鎖された大手無修整サイト「XVN」は、某大手メーカーが運営していたと囁かれていたし、ここで数多くの有名単体AV女優が無修整作品に出演していた。
国内の不況を受けて海外に活路を見いだそうとするアダルトコンテンツ制作者たちは、それぞれに必死だ。国内で売られる合法AVとの違いは、モザイクの有無のみ。制作された"海外作品"は、海を渡り、日本国内で売買された途端に、"裏ビデオ"となる。しかし、それらの製品の購入者のほとんどは、一般の日本人ユーザーなのである──。
暴力団の資金源として制作・販売されていた頃の裏ビデオは、まぎれもなくアンダーグラウンドなものであった。90年代末から05年頃までに巻き起こった『関西援交』『新横浜援交』などの未成年裏AVブームも、素人製作者たちが素人援交少女たちを"作品撮り"したものが流通してしまったという明らかな違法性によって、まぎれもなく裏ビデオであった。
しかし、少なくとも形式上は合法的なシステムにのっとって制作・販売され、ビジネス展開されている現在の無修整AVシーン。その作品群は、本当に"裏ビデオ"なのだろうか?
Googleに「オマンコ」とひと言入れて検索をかければ、そこに待ち受けているのは、無修整画像の山。「成年の出演者が自分の意思において出演し、成年のユーザーが自分の意思において楽しんでいるポルノ作品」という意味では、事実上、半ば無修整ポルノ解禁状態にあるともいえる現代日本。
ポルノグラフィに対する法は、時代に適したものとして機能し得ているのであろうか?
(文/森 儀教)