音楽評論家・佐々木敦が選ぶ「嵐の音楽」がわかるシングル10(後編)

――音楽市場が下降線をたどったゼロ年代に嵐のシングルはリリースされてきた。ここでは海外のオルタナティヴな音楽からJポップまで広範に批評してきた佐々木敦が、全シングル32曲を聴き、"嵐がわかる10枚のシングル"を選出する。

前編はこちら

ついカラオケで歌いたくなる無理矢理な転調

「A・RA・SHI」
作詞:J&T/作曲・編曲:馬飼野康二(ポニーキャニオン/99年11月)

2回目のラップの後、「Step by Step~」と歌う箇所で無理矢理な転調。Jポップでは頻出する作曲の小技なので気づきにくいですが、作り置きのイントロ/ラップ/サビという素材を組み合せたように聴こえます。でもインパクトのあるデビュー曲だったのは確かで、僕もカラオケで歌いたくなる(笑)。


Jラップ台頭時代に放つゴリ押し全編ラップ調!

「a Day in Our Life」
作詞・作曲・編曲:SHUN,SHUYA(ジェイ・ストーム/02年2月)

RIP SLYMEなどJラップが台頭してきた時期のせいか、全編ヒップホップ調で押し通した曲。イントロは完全にDragon Ashの影響です。そうしたヒップホップ一本調子な曲調はシングルとしては地味かもしれませんが、逆にプロの仕事っぽく、ソウルのようなブラックのエッセンスを感じましたね。


"嵐"のイメージを定着させたアイドル歌謡

「WISH」
作詞:久保田洋司/作曲:オオヤギヒロオ/編曲:CHOKKAKU(ジェイ・ストーム/05年11月)

これは世間における現在の嵐のイメージにぴったりと合っているのではないでしょうか。シンプルでポップな良い曲ですが、こういう毒のないアイドル歌謡みたいな歌は最近耳にしませんね。やはりジャニーズならでは、というかジャニーズ以外のユニットが歌ってもヒットするわけがないので(笑)。


仕事に疲れた20代OLが励まされる!?

「きっと大丈夫」
作詞:SPIN/Rap詞:櫻井 翔/作曲・編曲:Shinnosuke(ジェイ・ストーム/06年5月)

これも定番のように櫻井くんのラップで始まりますが、サビ前の「いつも同じメンバーで語り合ったこの場所に今/(バイバイ)この景色心に焼き付けて(明日へ踏み出そう!)」がメッセージ的に肝ですね。こう言われて、励まされた20代OLがたくさんいたのではないでしょうか(笑)。


さすがスガシカオ! 嵐が歌わなくてもいい!!

「アオゾラペダル」
作詞・作曲:スガ シカオ/編曲:石塚知生(ジェイ・ストーム/06年8月)

完全に櫻井くんのラップを封緘した、スガシカオが作曲した一曲。特に巧く歌おうとしなくても、仲の良い男の子たちが5人くらいでただ丁寧にサビの音符を辿れば良い曲に聴こえるように出来ていますね。そう、もはや嵐が歌わなくてもいい(笑)。そういう曲が書けるのだから、さすがスガシカオ。


知らないガイジンが作曲した意欲作?

「We can make it!」
作詞:UNITe/Rap詞:櫻井 翔/作曲:Fredrik Thomander&Anders Wikstrom/編曲:鈴木雅也(ジェイ・ストーム/07年5月)

最初はミドル・テンポで始まり、その後次第にビートが出てきて、サビでは走った感じになる、手の込んだファンキーな楽曲でSMAPみたい。しかし、作曲者は僕も全然知らないFredrik Thomander & Anders Wikstromというガイジン……。この頃は一曲一曲趣向を凝らそうとしているようです。


嵐の内部的友情に共感!

「Step and Go」
作詞:Wonderland/Rap詞:櫻井 翔/作曲:youth case/編曲:吉岡たく(ジェイ・ストーム/08年2月)

仲間の大切さを歌った曲が嵐には多いのですが、これも「いつも通り仲間たちと過ごした季節重ねてた」という歌い出しです。嵐の内部的な友情と、職場や学校など世間における対人関係のありようを重ね合わせようとしているんでしょうね。曲調は「We can make it!」と似たタイプでダンサブル。


「嵐は5人でひとつ!」の浪花節が入ったラブソング

「One Love」
作詞:youth case/作曲:加藤裕介/編曲:石塚知生(ジェイ・ストーム/08年6月)

「きみのことが好きだよ」というモロなラブソングは、突出した1人のアイドルを抱えず5人で1人みたいな嵐の場合、感情が分散してしまって歌いにくいはずです。女性ファンも5人と付き合うわけにはいきませんからね(笑)。そのせいか、若干浪花節が入っているような恋愛歌に仕上がっています。


人生をやんわりと肯定する応援歌

「Beautiful days」
作詞・作曲:Takuya Harada/編曲:ha-j(ジェイ・ストーム/08年11月)

リスナーの人生を「まんざら悪くないよ」とやんわり肯定してあげるような応援歌です。絢香やコブクロが証明したように、ゼロ年代のJポップはそういう歌が求められましたが、それは逆に世の中が悪い方向に進んだためとも言えなくはない。お先真っ暗だからこそ、この曲もヒットしたのでしょう。


年齢的に、もう冒険はできないウェルメイド?

「Everything」
作詞:100+/作曲:Shingo Asari/編曲:ISB(ジェイ・ストーム/09年7月)

危なげのないウェルメイドな最新シングルですが、「またか」という印象もあり、そろそろ新味を出さないと飽きられてしまう可能性もあります。ただ、こういう曲を5人で淡々と歌えばヒットは堅いのでしょうね。また、年齢的にラップ満載といった冒険はしにくくなっているのかもしれません(笑)。


佐々木敦(ささき・あつし)
1964年生まれ。批評家。HEADZ代表。早稲田大学、武蔵野美術大学非常勤講師。著書に『絶対安全文芸批評』(INFASパブリケーションズ)、『LINERNOTES』(青土社)、『ニッポンの思想』(講談社現代新書)など多数。

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