「働けど働けどお先真っ暗」なブラック企業に気をつけろ!【1】

──「働けど 働けど我が暮らし楽にならざり……」と詠んだのは明治の歌人・石川啄木だが、平成の現在、同様の苦しみを抱える人が大量発生中だ。ネットのスラングだったはずの「ブラック企業」がいつの間にかリアル社会に増殖し、働く人々を脅かしているというのだ。

 長く続く不況下で、まともに職にありつけない人の多さが、たびたび報じられている。その一方で近年、「働ければなんでもいい」という人々の焦りにつけ込むような、低賃金重労働だったり、社内環境が極端に劣悪だったり、法に抵触する寸前のような仕事をさせる(上図参照)「ブラック企業」の存在が、取りざたされるようになってきた。

 この言葉自体は以前から存在するが、最近では労働環境に問題があると噂される企業をリストアップした「ブラック企業就職偏差値ランキング」が2ちゃんねるを中心にネット上で広まり、就職活動中の学生の多くが参考にするなど、関心度は高い。ニートだった男性が「とりあえず働かないと」という思いのもとに就職してみたら、そこは労働環境最悪の零細IT企業だった……という過程を綴った掲示板のスレッド「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」が注目を集めて書籍化され、今年11月には同タイトルで映画化もされるなど、世間的な認知も高まってきている。

 9月に『人生を無駄にしない会社の選び方』(日本実業出版社)を出版したブラック企業アナリストの新田龍氏に、ブラック企業が増殖し、その存在が表に出てきた原因を尋ねてみた。

「理由としては、ネットの進展が大きいです。企業にとっては、ネットを利用して簡単かつ低コストで求人募集ができるようになりましたが、その中には離職率の高い企業も、集まった人を育てられるだけのマネジメント能力のない会社も多い。そうして着実にブラック企業が増加するとともに、働き手側にとってはネットを利用して『こんなところにもブラック企業が!』と情報発信する機会や手段も増えました。その双方が影響し、段階的に表に出るようになってきたのでしょう」

 一方で、働き手側の意識の問題もある。背景にあるのは、バブル崩壊以降、特に山一証券が倒産した頃から世間に蔓延しだした、会社に対する不信感や意識の変化だ。

「会社で働くことの意味が『仕事に見合った給料をもらう』から、『自己実現を図る』に変わりました。一生を通して会社にいる気はないから、会社に貢献する意識よりも先に『会社が自分に何を与えてくれるか』に重点を置く社員が増えた。まだ会社に利益をもたらす能力がない新人のうちから『給料が安すぎる』『労働時間が長い』など不満を漏らすようになっており、それが『うちの会社はブラックかも』という考えにつながっているのでは」(同)

ブラック企業か否かは最終的には自分次第

 確かに、労働環境が悪い=ブラック企業というイメージは強い。だが、それだけで判断を下すのは早計だ。このご時世に、就業時間をきっちり守って高給で、しかも職場の人間関係も良好……なんて会社は珍しいくらいだろう。

「確かに、労働時間の割に給与が低い会社は、数え切れないほどあります。そこで問題になるのは、上に立つ経営者が『状況をなんとか改善したい』と思っているのか、『これで当たり前』と考えているのか。従業員は使い捨てて当たり前、客は金づる、違法行為に抵抗がない……そんな経営者のマインドが透けて見える企業こそ、真のブラック企業なのです」(同)

 つまり、本当に見極めなければならないのは、労働環境ではなく経営者のマネジメント能力なのだ。とはいえ、「そんなもの、入社してみなければわからない」と思うが、新田氏によれば、「採用情報を見る段階でも、チェックポイントはいくつもある」らしい。

「長期間にわたって求人広告を掲載していたり、現行の社員数に対して募集人数が多かったりする会社は、それだけ退職者が多いと考えられますよね。また、業務内容の説明が一行だけというのは、実際の内容を詳しく知られたくない後ろめたさがある証拠。それから、近年増えているのは、やたらとカタカナで説明されている職種。実際の事例ですが、シロアリ駆除の営業を『ハウスメンテナンスアドバイザー』、損害保険営業を『コーポレートプロフェッショナルアドバイザー』と表すなど、はっきり提示すると人が集まりにくい業務内容の場合に横文字を使っていることが多いので、注意が必要です」(同)

 このほか、自社の特徴を紹介する際に「アットホームな社風」など社内の雰囲気ばかりやたらと推している場合は「仕事の内容で勝負できるものがない」、「若くして活躍している人が多い」は「離職者が多く、管理職として未熟な人が上に立っている可能性がある」、「社内イベントもたくさん!」は「業務時間外の拘束が多い」など、企業のアピールから裏の意味を読み解くことができるという。

 では、そのサインに気づけず、選考過程まで進んでしまった場合には?

「面接の段階でも見抜くポイントはあります。10分で面接が終わるような会社は論外ですし、休日出勤の有無を聞いたときに『自主的に出勤している人はいますが……』など、こちらの質問に曖昧な返答しかしない場合は、おかしいと思ったほうがいい。また、体育会系の部活など、体力的なエピソードにだけやたら反応する会社も危険。それだけ体力的にきつい仕事の可能性がある」(同)

 さらに、社内を見る機会があれば、「オフィスが汚い」「数字目標や気合い系の標語がいくつも貼られている」「自分の机で食事をしている人が多い」といった点をチェックすべきとのこと。
 
 もしもうっかり入社してしまってから、ブラック企業だと気づいた場合には、どうすればいいのだろうか? 辞めたいと思ってすぐに辞められればいいが、引き留められたり、退職届を受け取ってもらえないことも想定される。

「上司に『辞めたいのだが……』と相談を持ちかけると、引き留められたり退職妨害を受ける可能性があるので、『辞めます』と報告するだけにしたほうがいいですね。退職届を破って捨てられた、というような場合には内容証明を使って会社に郵送するという手もある。退職に関連する事務処理を会社側に期待できないこともあるので、税務署やハローワークなど、社外でもできる手続きを自分で把握しておくことも必要です」(同)

 ブラック企業に搾取されないためには自分で自分の身を守るしかないようだが、不思議なのは、「ブラック企業就職偏差値ランキング」上位の企業に勤務経験のある人に聞くと「自分の会社がブラックだとは特に思わなかった」と言う場合もあることだ。

「ブラック企業であるかどうかは、最終的には個人のとらえ方次第」

と新田氏は言う。同氏自身、実は「ブラック企業就職偏差値ランキング」に載る2社に勤めた経験を持つ。だが、会社に不満を感じたことはなかったという。

「『ブラック企業かどうか』は会社を選ぶ基準のひとつではありますが、大切なのは、自分にとって相性がいい会社か否かということ。まずは自分はどうなりたいのか、キャリアをどうしたいのか。求めるものを得られる会社であれば、自分にとってはブラック企業ではないでしょう。もちろん、違法なことをしていない限り、ですが(笑)」

 実は、「ブラック企業就職偏差値ランキング」には、〈零細出版社〉〈編集プロダクション〉など、筆者が身を置くような小規模な紙媒体の制作会社もかなり上位に食い込んでいる。この原稿を書いている今、2日間帰宅せず、風呂にも入っていないこの状況……いや、ブラックかどうかは自分で決めるべき、ってことですよね!

(小川たまか(プレスラボ))

「哀れ」と笑うなかれ! 3大ブラック業界、勤めたらこんな姿に!?

※偏差値は編集部の独断です。

納期前倒しで足腰萎え萎え…

[IT業界] 偏差値:75

「ブラック企業」という言葉自体、IT系の下請け会社に勤めるプログラマーが自分たちの境遇を呪って付けたという説も。孫請けは当たり前、4次請け、5次請けもよくある業界で、低い立場のシステム会社にしわ寄せが来る。立場上、無茶な計画や納期の前倒しを断ることはほぼ不可能。納期が迫ると連日泊まり込みで、1日の大半を椅子に座って過ごすため、2週間前倒しの納期を押し付けられたプログラマーが納品後、「書類の入った段ボールを持ち上げられないほど、足腰が衰弱していた」ということも。単純作業が多かったり、仕事量が多すぎるために新しい技術を学ぶ時間がなく、転職しようにも満足なスキルを身につけられなかったりすることも、ブラックといわれる理由のひとつ。経営者自身も社員同様、疲弊している場合が多い。


たまっていくのは疲労だけ…

[飲食系] 偏差値:68

 もともと長時間営業だったり、営業時間外にも準備や片付けがあったりと、労働時間が長いことが特徴。しかも利益率の低い業界なので、その割に給料が上がりづらい。少ない社員と多数のアルバイトスタッフで営業する店が多く、人材が流動的で教育もしづらいし、自身の能力を向上させる機会も少ない。とある飲食業の男性は、スタッフが定着しないために社員の休日が定まらず、前日になってようやく店長から「明日は休んでいい」と言われることが日常茶飯事だったという。優良経営といわれる企業では、店長に全面的にマネジメントの権限を与え、スタッフに表彰制度を設けるなどモチベーションを高める工夫を行っているが、ブラック企業では「名ばかり管理職」の実態が明らかになったいくつかの企業の例を持ち出すまでもなく、「管理職としての権限がないにもかかわらず、残業代が支払われない」などの問題も。


上司が怖くて、電話もまともにできません…

[金融系] 偏差値:72

 消費者の危機意識の高まりで厳しい状況に陥っているのが、先物取引などの営業職。契約数ノルマに加え、電話でのアポ件数ノルマを課す企業も多く、「1日に500件電話をかけるのがノルマだったが、そのうち話を聞いてもらえるのは1件程度。やっと聞いてもらえたと思ったら『今の電話のかけ方はなんだ!』と上司からツメられる(プレッシャーをかけられる)毎日。上司に聞こえないように、机の下に潜って電話したこともある」(金融系会社員)という。友人知人に営業をかけたり、夜中の2時まで粘って営業電話をかけたりする上に、そもそも顧客の利益を無視した商材を売りつけているケースも多いため、ノルマを達成したからといってすがすがしい気持ちになれない人多数。顧客からの解約申し出を無視するようになると、企業として末期。
(イラスト/五月女ケイ子)

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