発がん性だけじゃなかった! 「健康エコナ」が"不健康"な理由

 9月16日、突如、食用油「エコナ クッキングオイル」をはじめエコナ関連商品の出荷停止を発表した花王。今年3月にドイツのリスク評価研究所が業界に向けて出した声明から、同シリーズに体内で発がん性物質になる恐れのある成分が含まれていることがわかったためで、消費者の間でも「"健康に良い"と信じてきたのに」と動揺が広がっている。だが、そもそも、エコナがうたう「体に脂肪がつきにくい」という効能にも疑問符がつくことをご存じだろうか?

実は05年の段階ですでに国立がんセンター研究所から、発がん促進の疑いを指摘されていたエコナ。

 02年10月、本誌は、エコナの効能に疑問を抱き、日本肥満学会で「(エコナの主成分)ジアシルグリセロールは体脂肪蓄積性の小さい油脂か?」という論文を発表した鈴木正成・早稲田大学スポーツ科学学術院教授(当時は筑波大学教授)を取材し、記事にした。結論からいえば「脂肪がつきにくい」という効果が出る人・条件は限定的で、誰にでも効くわけではないのだ。

「厚労省の審査をパスしたということは、一応、企業の研究データでは効果があったのでしょう。ただ、私たちの実験では、企業が主張している効果を認めることができなかった。これも厳然たる事実なのです」(鈴木教授)

 この研究結果をどう受け止めるのか、当時、花王にコメントを求めたが、先の学会に花王研究所の所長が出席していたにもかかわらず、同社は「(鈴木教授の)研究の詳細を存じていないのでコメントできる立場におりません」「私どもでは、多数の人を対象に、長期にわたる臨床実験を行っており、結果には自信をもっております」と回答するばかりだった。さらにその後、某広告代理店から本誌に、「エコナの検証記事が掲載されることは、表紙などには謳わないでほしい」との打診が来ている。今回の出荷停止の発表に際しても、鳩山政権発足当日にぶつけるなど、メディア対策重視の傾向が垣間見える花王。そんな同社が断罪されるべきなのは当然として、ただ、見逃してはならないのが、この"罪"に行政が大きく加担してきたことだろう。

エコナ
98年5月、特定保健用食品に認められ、99年より発売。今回、エコナに含まれるグリシドール脂肪酸エステルという成分が、体内で分解された際、発がん性物質に変化する恐れが指摘され、出荷停止に。

「 エコナが、特定保健用食品(トクホ)として消費者の信頼を集め、約6800億円といわれるトクホ市場を牽引してきたのは周知の通りです。通常の2~3倍と高価格な同商品が年間約200億円を売り上げるまでになったのは、厚労省のお墨付きゆえ、といっても過言ではないでしょう」(健康雑誌編集者)

 91年にスタートしたトクホ制度は、それまで食品には規制されていた「××に効く」という健康への効能表示を、厚労省(スタート時は厚生省)が認定したものに限って許可するものだが、その研究データは企業から委託を受けた研究機関から出されているため、「カネをもらっている企業に不都合なデータを出せるはずがない」と冷ややかな研究者は少なくない。実際、認定のために行ったすべての実験データを提出する必要がないため、企業が謳いたい健康機能を裏付ける結果が出なければ、データがボツにされてしまうこともしばしばで、研究者・関係者の間でも懐疑的な見方があるのがトクホの実態なのだ。

 今回のエコナ問題を受け、福島瑞穂・消費者担当相は、同商品のトクホ認定の取り消しも含めた行政対応を検討中だ。いずれにしても、安易にお墨付きを与えてきた行政の罪は重い。

「そもそもが特定の食品で健康になろうという発想自体に問題があります。健康を維持するには、(バランスのとれた)運動と食事、これしかありません」(前出・鈴木教授)

 新しく発足した消費者庁に期待をかけるとともに、私たち自身も、安易な健康ブームに踊らされないよう、注意が必要だ。
(編集部)

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