"草食系の応援団長"森岡正博に聞く 「ブームの違和感」「 草食系の落とし方」

──目指すべきはマッチョな肉食系男子! と刷り込まれてきた男たち。それが、いまや女性誌を中心に草食系男子がもてると言われるようになってきた。一方で、男性誌の恋愛テーマは相変わらず、マッチョ、セックス中心だ。そんな状況を、この人はどう見ているのか? 「草食系男子」の応援団長として、『草食系男子の恋愛学』(メディアファクトリー)で大きな話題を呼んだ哲学者・森岡正博氏に、草食系男子読者が多そうな本誌誌上で"草食系ブームの今"を考察してもらった。──

──男に求められるのはマッチョな肉食系だといわれてきたのが一転、最近は「草食系男子」への注目度が高くなってきていますが。

森岡(以下、) 私が本を書いたときには、草食系男子というのは心の次元の話であって、恋愛にガツガツしない男性というイメージが頭の中にありました。心がやさしく、傷つけたり傷つけられたりするのが苦手、既存の男らしさに縛られていないといった内面性を持った男性のことです。恋愛に奥手なそういう若い男性に向かって「マッチョにならなくても、恋愛はできるんだよ」と言ってあげたかったのが基本です。

 それが、女性誌が草食系男子の特集を組み始めたことで、おしゃれ、やせている、メガネかけている、タレントでは誰だといった外見の問題が注目されるようになりました。一方、男性誌はほとんど取り上げません。アダルト雑誌は取り上げましたが、それはあくまでセックス学として。恋愛学は、読者が読まないと思っているからではないでしょうか。それ以外では、草食系男子には何が売れるといったビジネス書や、肉食系女子というのも出てきましたが、これらは想定してなかったですね。

──「草食系男子」応援団としていちばん伝えたかったことは、外見やセックスの問題よりも心の次元ということですか?

 そうですね。同性として語るとき、見た目よりも、男であるスタンス、気持ち、悩みといった心の部分に注目していますから。草食系の心を持った人の力になりたかったわけですが、そういう流れはある程度できたとは思います。

 草食系男子の内面で目立つのは、「好きな女性を傷つけたくない」ということ。だから積極的になれない、2人きりになったときに迫れない、もし迫ったことで彼女を傷つけてしまったらどうしようと悩む――!これはセックスの問題というよりも、メンタルの問題になります。性欲の悩みはマスターベーションなどである程度解決することはあっても、「彼女がいない」という心の飢餓感は解決しない。これは実存的な問題になります。

──一方で、"恋愛至上主義"に聞こえてしまう面もありますが。

「恋愛なんてしなくてもいい」というのは確かに正論ですが、自分が若いときに、誰かが私に向かってそう言っても、聞きませんでしたからね。まずは、「恋愛しないと苦しくて仕方がない」という人が、無理にもてようとしてマッチョ系に走らないよう、その呪縛から解放してあげたいという思いがありました。「必ずしも恋愛に絡めとられなくてもいい」というのは次の課題という気がしますね。

 実際、従来の恋愛学では、「男らしく振る舞わないと、女性は振り向いてくれない」というのがほとんどでした。私自身は、肉食系もいれば草食系もいて、それぞれが自分の素直なあり方で多様性が取れている状況が望ましいと思っています。でも、いまは草食系も肉食系になれなれと言われすぎているから、無理しなくていいよということが言いたかったですね。

──草食系男子は、世間で思われている以上に多いのでしょうか?

 草食か肉食かを調べた調査をいくつか総合すると、若い男性の3〜6割が草食系男子かなと思います。ただ、女性にもてるのに性的に迫らない男性を草食系と呼ぶ人もいれば、全然もてなくて女性に声をかけることもできない男性を草食系と呼ぶ人もいますから、草食系か肉食系かの2つに大別するのはおおざっぱすぎると思い、私は恋愛について8パターンにわけてみることにしました【下記参照】。これはレッテルを貼るためのものではありませんし、実際の男性はそれぞれどこかズレているはずです。あくまで参考として、自分を見つめ直すきっかけにしてほしいと思うわけです。

──森岡さんご自身は、その8つの分類ではどれになりますか?

 20歳頃は、〈奥手の草食系男子〉でしたが、そこから学習を始めて、〈奥手の中身草食系・外側肉食系男子〉へ移行しました。まだ経験不足という感じですが、この分類は固定的ではなく、年齢を重ねていく過程で、その人独自のプロセスをたどります。プレイボーイがあるとき悟って、セックス嫌いになることもあります。それぞれが変化していくわけです。

次なるテーマは「草食系と恋愛するには?」

──草食系男子になる原因は、何かあるのでしょうか?

 それは、人それぞれだと思います。私の場合、「傷つけるのが怖い」と思ってしまうのは明らかに母親との関係が影響していますが、それが統計的に多いかどうかまではデータを取っていないのでわかりません。ただ、そういうパターンは確実にあると思います。

──森岡さんはひとりの女性をつかまえて、父親にもなってもいるわけで、草食系からどうやって変化したのですか?

 20歳くらいまでは草食系でしたが、でも恋愛をしたかったし、セックスもしたかった。それで「マッチョにならなくては」と学習をしたのです。雑誌を読んだり、友達に話を聞いたりすれば、それなりに学習できますからね。その結果、〈奥手の中身草食系・外側肉食系男子〉になって、ある程度一人前に"男らしく"できるようになってきました。でも、それは楽しいことではなかった。心に大きな負荷をかけて、自分をねじ曲げたという思いがあります。

──学習できる人とできない人、その学習が自分に合っているのかに気づく人と気づかない人といると思いますが。

 それは、個人差があり、ひとくくりにはできません。ただ、恋愛で成功するために本当に求められるのは、男らしさという規範の解体と、自分を知って人生を肯定すること。その二段階です。それにより本当の自信をもって、女性と関係をつくっていくんです。

──次なる表現として、女性向けに『最後の恋は草食系男子が持ってくる』(マガジンハウス)を書かれたそうですが。

 『草食系男子~』出版後、男性に癒やされたい女性や、ガツガツした男性が嫌いな女性から、「草食系男子と付き合うにはどうすればよいか、教えてほしい」という要望がすごくありました。『最後の恋~』は、これにこたえたものにしています。たとえば、これまで女性向けの雑誌で提示されてきたことといえば、いかに男の気を引くか、ということ。ヒラヒラの服を着て、ボディタッチをして、答えは曖昧にしてじらして……などというのがそうですが、草食系に限ればそれらはすべてダメです。彼らに女性からアプローチするなら、心のつながりから入ること。まず、ストレートに好きだと伝え、お互いの気持ちを少しずつ理解し合っていくことです。

──草食系男子と恋愛するには、根気と時間がかかるんですね。

 そうですね。草食系男子と恋愛したいのなら、心と言葉から入って時間をかけましょう。

──セクシュアリティや恋愛について、ご自身のことを語る学者は珍しいですが、森岡さんの言動はアカデミックな世界ではどのように受け止められていますか?

 この2冊の本は、企画段階から実用書としてつくりました。なぜなら、恋愛学は実用書でないと意味がないからです! しかし、一般の学者からすると実用書は学問ではなく、まじめに議論するジャンルのものではない。それが、学者がこの本に言及しない理由ではないかと思います。一般的に、学問の世界では評価が下がりますね。私の場合、下がりまくっています(笑)。でも、私は、自分の手触りあるところからしか思考がスタートしないのです。

【恋愛タイプ別】 「草食系男子・肉食系男子」 8パターン

①奥手の草食系男子
女性にどうやって接近したらいいのかわからない。

②経験豊富な草食系男子
癒やし系で、女性とのやりとりに慣れている。女性に過度の期待を抱いていない。

③奥手の肉食系男子
経験が少ないので、押しの一手で迫る。内にこもって悶々とする。

④経験豊富な肉食系男子
女性の気持ちを探りながら、ダメもとで誘惑してみる。次々と口説く。

⑤奥手の中身草食系・ 外側肉食系男子
男らしくなろうと努力している草食系男子。まだ経験不足。

⑥経験豊富な中身草食系・ 外側肉食系男子
心は繊細で草食系なのに、女性を積極的にリードして楽しませることができる。パートナーと長続きする。

⑦奥手の中身肉食系・ 外側草食系男子
肉食系の心を隠すために、草食系の仮面をかぶっている。2人きりになると突然襲ってくることもある。

⑧経験豊富な中身肉食系・ 外側草食系男子
心に野獣性を持つが、女性に繊細に気を配って優しくすることができる。複数の女性との関係を苦にしない。

(森岡氏著書『最後の恋は草食系男子が持ってくる』より)

森岡正博(もりおか・まさひろ)
1958年生まれ。大阪府立大学教授。哲学者。著作に『無痛文明論』(トランスビュー)、『生命観を問いなおす エコロジーから脳死まで』『感じない男』(どちらもちくま新書)など。公式HP


『最後の恋は草食系男子が持ってくる』マガジンハウス/7月23日発売/1260円(税込)/森岡氏が初めて女子向けに書き下ろした恋愛指南書。リアル草食系男子が語る恋愛・結婚・SEX観、Q&Aで読み解く草食系男子など。

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