俗に「ゼネコン」ともいう。業界規模50兆円を超え、公共事業などで政界とのかかわりも深い。右は、業界最大手の鹿島建設の公式HP。
間近に迫った衆議院の解散・総選挙。そんな中、一部の建設・土木業界関係者から、民主党政権の誕生を警戒する声が上がっている。ある地方ゼネコンの社員は語る。
「民主党が政権を獲れば、公共事業に対する締め付けがこれまで以上に厳しくなるのは間違いない。ただでさえ不景気で厳しいのに、もしそうなったらウチなんか完全にアウトですよ」
周知の通り、小泉内閣成立以降、公共事業費が基本的に縮小傾向にある。いうまでもなくこれは、官公庁からの受注に頼る建設・土木コンサルや地方ゼネコンなどにとってはもちろん、公共事業関係の受注・売上高が事業全体の10〜20%程度を占める鹿島建設や大成建設、清水建設といったスーパーゼネコンにとっても深刻な問題だ。実際、中堅以下のゼネコンの中には、公共事業の縮小による競争の激化に嫌気が差し、事業のメインを民間発注のものへと切り替える動きも出てきている。
そこへきて、公共事業の見直しや中止を政権公約に掲げる民主党政権が誕生するとなれば、建設・土木業界関係者が不安になるのも無理はないというものだ。ある大手土木コンサル社員は、こう不満をぶちまける。
「公共事業にはムダが多いし、福祉など、より優先して税金を投入すべき事業があるのも確か。でも、民主党のように公共事業を悪であるかのように喧伝し、ろくに検証もせず即座に中止させるのは、かかわる企業や人間を無視した、いかにも短絡的なやり方です」
では、仮に政権交代が実現した場合、前出の社員らが危ぶむように、建設・土木業界は、本当にさらなる苦境に立たされるのだろうか? ジャーナリストの須田慎一郎氏は、こう指摘する。
「小泉路線を"継承"する民主党が、社会保障費などを賄うため、政権獲得後も公共事業費をカットしていくのは確実。ただし、民主党が公共事業を攻撃する本当の目的は、ゼネコンなどが事業費を中抜きして自民党に還流するという、自民党を長年支えてきた利権構造を破壊することにあるのです」
同氏によれば、農家の経営安定などを目的に、07年に民主党が提出して参議院で可決された(衆議院では否決)「農業者戸別所得補償法案」も、その一環だったという。公共事業の縮小は、労働者として現金収入を得ている多数の農家にとっても大きな打撃だ。そこで、まず農家に対し、年間約1兆円(1戸あたり約50万〜60万円)をバラまき、民主党の新たな支持層とする。それと並行し、利権を失った建設・土木業者にもしっかりカネが回るような施策を行う。それにより民主党は、自民党の強力な支援組織である建設・土木業界を取り込むと同時に、地方経済のもう一方の要である農業界の支持をとりつけ、民主党流の新たな再分配の仕組みを作り出す、という筋書きだ。
税金のムダ遣いの象徴とされた川辺川ダム(熊本県)の建設は、昨年、蒲島郁夫知事によって白紙撤回され、八ッ場ダム(群馬県)事業についても、公金支出の差し止めを求める住民訴訟が起こされている。民主党が政権を奪取すれば、そうした流れはさらに加速するだろう。しかし、いくらダムの放水を止めても、別の穴から"水漏れ"するのでは意味がない。公共事業費のムダ遣いを声高に叫ぶ民主党が政権を取っても、結局、利権構造がちょっと変わるだけのこと。ならば、前出の社員もきっと"安心"するのではなかろうか。
(松島拡)