日本経済新聞社・代表取締役会長の杉田亮毅氏のこと。1937年長崎県生まれで、御歳72歳。世間的知名度では読売新聞の"ナベツネ" に敵わないが、大メディアのトップの地位にありながら、かなりの"政治屋"として知られる。
「おい、マジかよ!」
6月12日付の日本経済新聞朝刊を見た政治記者が叫んだ。その日の日経1面には、「首相、西川氏続投で調整」とある。鳩山邦夫総務相(当時)が日本郵政・西川善文社長の交代を主張していた最中のことであり、これは、他紙を出し抜いたスクープであった。
しかし、記者たちの間に波紋が走ったのは、このことだけが原因ではない。そのスクープ記事の裏側、同紙2面の麻生太郎首相の前日の動静を報じる「首相官邸」欄に、こうあったのだ。
「11時から16分、日本経済新聞社の杉田亮毅会長」
日本郵政問題の最終決定者が麻生首相であるのはいうまでもない。西川社長続投を報じた日経の会長がその前日に麻生首相と会っていたとあって、他紙の政治記者たちは「誰が取ってきたネタなんだと疑われかねない。スクープの価値を下げる行為だ」と憤るのだ。
「杉田会長が麻生首相と何を話したかはわからないが、日本郵政問題があんなにホットな時期に首相と会って、その問題についてひと言も話さなかったとは考えづらい。日経の記者は頑として認めないが、スクープの内容についてなんらかの"トップダウン"があったことは間違いないと思うよ」(全国紙政治部記者)
日経の"トップダウン"スクープは、今回が初めてではない。さかのぼること10年前の99年10月に1面掲載された、「住友銀行とさくら銀行が全面提携へ」の記事。現在の三井住友銀行の設立をスクープしたものだが、この際にも、銀行の監督官庁である大蔵省(当時)の幹部と日経の経営幹部が会食しているのだ。当時を知る全国紙経済部記者は、「日経の金融担当記者も寝耳に水で、自社の幹部から特ダネを知らされて書いたと聞いた」と振り返る。
そもそも新聞社の経営陣が、首相や当局幹部などと会って"取材"を続けることは、経営と編集を分離させている欧米の新聞社では「絶対にありえない」(在米ジャーナリスト)こと。
「ここ最近、ニューズ・コーポレーションのマードックなどが編集方針に口を出すケースも増えてはいるが、取材のようなことをしてスクープをとってくることはさすがにありえない」(同)
しかし、日本の新聞社ではその種の意識があいまいなこともあって「珍しくない」(全国紙政治部記者)という。情報提供者に都合の良い一方的な話でも、「問題があると思っても、上から下りてきたら掲載せざるをえない」(同前)と、編集現場は頭を悩ませているようだ。
さて、現場にしゃしゃり出てくる経営者といえば、ご存じ"ナベツネ"こと読売新聞グループの渡邉恒雄・会長兼主筆を忘れてはいけないだろう。昨年末の民主党の小沢一郎代表(当時)が打ち出した自民党との「大連立」の筋書きを書いたともされ、読売社内では「ナベツネさんが関わったネタは否定的に報道できないなど、"ナベツネタブー"は多々ある。いまや経営者以外の何者でもないのに、本人はいまだに"生涯一記者"を任じているから、始末に負えない」(同社関係者)との嘆き声が聞かれる。
折しも新聞業界は、大不況のあおりで軒並み経営不安がささやかれている。新聞社経営者の皆さん、昔取ったきねづかで取材現場に茶々を入れてないで、経営に専念されてはいかが?
(編集部)