1908年に創業された、アメリカ・ミシガン州に本社を置く自動車メーカー。シボレー、キャデラックなど、大衆車から高級車まで取り揃え、60年代には、アメリカ自動車市場の約半年ものシェアを占めていたが、今年に入って経営悪化が表面化、破綻した。
今年6月、アメリカの大手自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(以下、GM)が経営破綻した。昨年、創業100周年の節目の年を迎えた同社だったが、破綻後はオバマ政権の下、実質国有化となり、再建の道を模索している。
破綻の要因については「ハイブリッドカーなど消費者ニーズへの対応の後れや、60万人以上もの組合員が参加する全米自動車労働組合(UAW)への年金や医療費といった手厚い待遇が経営を圧迫」したと、自動車専門日刊紙「日刊自動車新聞」主筆の佃義夫氏は指摘するが、大型SU
V「ハマー」を機械メーカーの四川騰中重工機械(中国)へ、傘下の「オペル」は自動車部品メーカーのマグナ・インターナショナル(カナダ)に、ほかのGMブランドについてもオイルマネーで潤う中東やロシアなどの企業への売却が検討されているといわれ、解体が進んでいる。
さて、GM破綻・国有化の影響は、決して対岸の火事ではない。
「GMに自動車部品を供給していたデンソー、矢崎総業、日立製作所、ブリヂストン、アイシン精機など、多くの国内企業が多額の負債を抱える結果になりました。各社は、GM破綻により生じた負債を処理するため米政府に申請を行っていますが、国内メーカー全体の総負債額は100億円ともいわれており、全額の回収は難しいでしょう。また、7月1日にGMはトヨタ自動車との合弁工場『ニュー・ユナイテッド・モーター・マニュファクチャリング(NUMMI)』からの撤退を発表。そのため、トヨタは工場の解散、もしくは完全子会社化などによる存続を迫られています。しかし、いくら北米市場の拠点とはいえ、トヨタ1社で存続を図るのは財政的にも厳しい。かつて同工場の副社長を務めた新社長の豊田章男氏を中心に新たなパートナー企業探しも視野に入れているようです」(業界アナリスト)
さて、そんなトヨタの経営状況といえば、世界同時不況の影響により09年3月期に営業赤字に転落し、6月より創業家一族の前述の章男社長(副社長より昇格)体制により、巻き返しを図っている。
再起をかけるトヨタと混迷を極める業界再編
「副社長時代から章男氏は常々『今のトヨタは、大企業病に侵されつつある。もう一度足元を見つめ直さなければ』と語るなど、奥田碩氏(トヨタ自動車社長、会長、相談役を務めた)体制下以降、急速に推し進められたグローバル化による拡大路線に懸念を抱いていました。先月の社長就任後に行われた記者会見でも『消費者ニーズを最優先し、地域ごとに合った戦略を展開する』と発言するなど、これまでの拡大路線を見直すことを明言しています」(全国紙・産業記者)
章男社長自ら「第二の創業」を掲げ、改革に臨む同社だが、現場の反応はどうだろうか? 愛知県内の工場に勤務する社員は、このように語る。
「昨年末から年初にかけては、月に2〜3回の割合で生産ラインがストップすることもありましたが、現在は在庫調整も進み、5月の日当たりの生産台数(国内)は8500台、6月は1万5000台と回復傾向にあります。プリウスを生産する堤工場(愛知県)は、大規模な非正規労働者切りもあって人手不足の状態。堤工場では残業・休日出勤も復活しています。さらに、各地の工場から大勢の社員が応援要員としてやって来ています。また、それでも間に合わずに、子会社からの出向も増やすなど、この1カ月で1300人超の増員が行われています。当初は今年8月までにすべての期間従業員との契約を打ち切るという話もあったのですが、延長して残る期間工も少なくありません。その一方で、大型車や高級車を生産する工場は、以前とほとんど変わらない苦しい状況。工場ごとに、ばらつきはありますね」
また、別の社員(技術系・30代)も冷ややかな反応を示す。
「今年の春闘では、ベースアップ・ゼロ。減給は免れましたが、給料は横ばいのまま。また、7月1日に支給された夏のボーナスは大幅ダウン。私は、昨年から30万円ほどダウンしました(苦笑)。ただし、役職のない私はまだましなほう。管理職クラスは6割ほどカットになったようですね。会社は、さらにコスト削減のためにボーナスの見直しを図っているようで、冬のボーナスはさらに厳しくなるようです。新体制になったからといって、今の世界の経済情勢を見る限り、劇的なV字回復は不可能でしょう」
一方、トヨタ以外の国内自動車メーカーも変革を迫られているようだ。
「カリスマ経営者として名高い、御年79歳の鈴木修氏(社長兼会長)が指揮を執るスズキも、インドやハンガリー、中東などで着実に勢力を伸ばしつつあります。また、"技術力のホンダ"も今年6月に技術畑を歩んできた伊東孝紳氏を社長に据えた新体制のもと、"原点回帰"の経営を推し進めています。一方で、気になるのが日産。同社は、現在の世界的なトレンドでもあるハイブリッド車の開発でも大きく出遅れ、さらに次世代カーとして注目を集める電気自動車でもトヨタやホンダの後塵を拝しています。来年あたり、ゴーン氏の辞任もあり得る状況です。同社はJリーグ『横浜F・マリノス』への出資比率引き下げる方針を固めていますが、今後さらに業績が悪化すると子会社化の解消も十分あり得ます」(前出のアナリスト)
"ビッグ3"が凋落し、中国やインド、さらには中東やロシアなどの新興国が競争に参戦するなど、大きな変革の時期に差しかかっている自動車業界。
「現在、日本には12社もの自動車メーカーがあります。これは世界において類を見ないケース。今後、三菱自動車やマツダなどの中堅メーカーは、海外自動車メーカー、さらには投資銀行などにより、M&Aを仕掛けられる可能性も否定できません。日本の自動車メーカーにとって最も怖い存在は、中国。同国では国家的なプロジェクトとして自動車産業の促進・発展に努めています。そのため防衛策として、国内の百貨店業界のような大規模な友好的統合・提携など、業界再編も起こり得ることが予想されます。すでに、三菱UFJ証券など、国内の大手投資銀行が仲介役となり、水面下での交渉も進められているといいます」(同)
今後数年間で、大規模の業界編成と淘汰が予測される自動車業界。世界競争を余儀なくされる昨今、はたして日本の自動車メーカーの何社が生き残れるのだろうか?
(大崎量平)