静かなるベストセラー作家・大川隆法の"華麗なる来歴"【1】

──大手書店チェーンの紀伊國屋のベストセラーランキング。5月第4週は、予想通り、村上春樹の『1Q84』(1、2巻)がワンツーフィニッシュを決めている。同作品の大ヒットについて、メディアは大騒ぎした。ところが、同週の4、5位に著書がランキングしている作家については黙殺状態。その男こそ、大川隆法である。そんな知っているようでよく知らない、「静かなるベストセラー作家」のプロフィールとは?

 大手書店の売上ランキングに頻繁に登場しながら、決してメディアに取り上げられることのない、"売れっ子"作家がいる。400冊を超える著作の多くはベストセラーとなり、 一説には総発行部数が4500万部以上ともいわれる、宗教団体「幸福の科学」の大川隆法総裁だ。

「それって、熱心な信者が布教用に大量購入しているからでしょ」と切り捨てられればそれまでだが、どんな形でも売れればベストセラー。ひょっとしたら、信者以外が読んでも案外面白いのかも!? ということで、売れに売れている著作を通じて、謎のベストセラー作家・大川隆法氏の素顔や幸福の科学という宗教、ベストセラーのカラクリに迫ってみた。

 大川氏自身が明らかにしている来歴は、彼随一のロングセラー『太陽の法 エル・カンターレへの道』【1】に詳しい。1956年、徳島県に生まれた大川氏は「小学生とは思えないほど、平気で長時間の勉強に耐えられる子供」だったそうで、地元でも評判の神童だったようだ。6年生時のテストの平均点は99・7点。間違いはケアレスミスのみで実質満点だったことをアピールしている。

 中学校では人望の厚さを担任の教師に褒められたことがあるらしく「単なる秀才ではなく、宗教家的な魅力を秘めた懐の深さがあったようです」と自ら語っている。その後、地元でも有数の進学校、県立城南高校に入学。相変わらず成績は優秀で、学内では「東大の医学部に進学するのでは?」という噂が流れるものの、つぶしが利くという理由で、東大の文科一類(法学部)を受験し、見事合格を果たした。

 東大では法律を学ぶが、彼の性に合わなかったようだ。そこで哲学思想などを好んで学ぶようになる。在学中に「東大法学部には、自分が師事すべき教師がいないことを」悟ったという。4年次には、就職をにらんで、司法試験の準備を始める。通った予備校では、彼の参考解答で勉強した予備校生たちが、多数司法試験に合格したそうだが、当の本人は不合格。彼はその原因について、論文問題で「最高裁の判例を鋭く批判するなどの、学者的答案」を書いたためだと分析している。

 結局大川氏は、人事担当者に「三顧の礼」で迎えられ、総合商社のトーメン(現・豊田通商)に就職した。常務にも頭を下げられ、男の心意気で決めたらしい。しかし入社後は学問への未練から、進路を誤ったのでは? と思い悩む日々が続く。優秀な頭脳を持ちながら、宗教家になる以前の人生が順風満帆でなかったのは、彼に宗教家の道を歩ませるために「高級霊」たちが俗世的な成功を収めないよう妨害したからだと、あとでその「高級霊」たちから聞いたらしい。この頃、高橋信次(宗教団体GLAの創始者)の著作を読みふけり、宗教への興味が次第に芽生えていく。そして、81年3月23日、「自室の中に目に見えないものの気配を感じ」急いでカードと鉛筆を握ると、「まるで生きもののように」筆が走り出したのだという。この現象こそ、後に数々のベストセラーを生みだすことになる「自動書記」だ。

 この神秘体験以降、さまざまな偉人の霊が大川氏に降りてくるようになる。そしてそれらの霊たちと霊界通信をするうちに、自分が釈迦の生まれ変わりで、地球を幸福へと導く九次元的存在「エル・カンターレ」そのものであることを自覚する。その後、宗教家として世に立つためトーメンを退社し、86年に宗教団体「幸福の科学」を創り、今に至っている。

 地球を統括する最高位の霊エル・カンターレだけあって、大川氏の著作は宗教的な教えのみにとどまらない。ここ最近の著作でも『国家の気概』(政治・外交)【2】、『超・絶対健康法』(健康)【3】、『経営入門』(ビジネス)【4】など、手がけるジャンルは多岐にわたっている。しかし、それらの中でも特に有名なのは、不朽のロングセラー『太陽の法』だろう。幸福の科学の世界観や基本的な思想などが記されたこの「聖典」によると、地球とその周辺の宇宙は、十次元世界により構成されているのだという。我々が住む世界は三次元世界だが、実はさらに上の次元の世界が存在しているのだそうだ。上の世界に行くほど尊い存在がいるらしく、最高位の十次元世界には、九次元的存在である、孔子やキリスト、ニュートン、エル・カンターレ(=大川隆法氏)などの「神霊」が住み、合議によってこの地球を統括しているのだという。ちなみにエル・カンターレは金星出身の神霊なのだそうだ。金星は、地球に人類が生まれるよりはるか昔に、今の地球以上に栄えた文明が存在していたのだという。

 あまりに常識からかけ離れた内容に、なかなか理解できない読者の方もおられるかもしれない。これについては、大川氏自身もまえがきで「『常識』で理解しようとせず、あなた自身の『常識』を、本書によって入れ替えていただきたい」とアドバイスしている。

 こうした世界観のもと、一人ひとりが「悟り」を向上させることで素晴らしい人生を築き、その幸福を周囲の人々や社会に広げて、この世界を「ユートピア」にすることが、幸福の科学の目的なのだという。非常にシンプルな思想だが、400冊を費やして伝道しているわりには、あまり一般には浸透していないといえるだろう。印象に残るのは、九次元的存在や地球系霊団といった、壮大な世界観ばかりだ。

内容が薄っぺらい? 否、わかりやすい?

 一説には世界で会員数1000万人ともいわれている幸福の科学。大川氏の著書には、それだけの信者を惹きつける魅力があるのだろうが、一方で宗教の専門家の意見は厳しい。

「よくある人生訓のようなものを、簡単に読めるように大川隆法風にアレンジしただけですよ。口当たりのいい言葉が並んでいるので、引き込まれてしまう人がいるのかもしれないが、人生経験に裏打ちされていないためか内容が薄っぺらい。幸福の科学という宗教自体、こうした本をたくさん読んで試験を受けて、合格すると上の地位に行ける、というような『お受験的な』宗教ですからね」(宗教に詳しいジャーナリスト)

 別の専門家も、「教義というほどの中身があるわけでもない。本もいっぱい出してるけど、書かれていることに一貫性がない。健康法についての本では、心の持ち方で病気が治るなんていう、今はどこの新興宗教でも教えないようなことが書いてある」(宗教ウォッチャー)と辛口だ。

 だが、大川氏を支持する側からしてみれば、こうした批判に対しては、「どんな人にも理解できるよう、わかりやすく書いているんだ」「これまでの『常識』にとらわれたイチャモンだ」と反論したくなるかもしれない。確かに、これらの本を読んで、幸福の科学への入信を決意する人間がいるという事実は無視できない。

 一方、次々とベストセラーを生み出す秘訣は、やはり信者による大量購入のようだ。

「信者や教団が、一般の人に配って布教するために、大量に購入しているという構図ですよね。大手書店で重点的に注文してランキングを上げるのも、組織を大きく見せたいという目的があるでしょう」(前出のジャーナリスト)

 ある大手書店の関係者は「あくまで一般論」と前置きしつつ、「ランキングを上げることを目的に、著者個人や組織がまとめ買いをすることは珍しくないことで、事前に彼らの交渉に乗る書店がほとんどです。『この週に○冊買ってもらえれば、○位には入れられますよ』と、丁寧に指示してくれる書店もあります。実際には店頭で売らず、伝票のやり取りだけのケースもある。入荷した書籍を、そのまままとめて組織に送ってしまうんです。店頭ではさほど目立っていない本がランキング上位に入ってくるのも、そういうカラクリです」と説明する。

 前出の宗教ウォッチャーは、大川氏が多作(この1年では15冊出版/すべて幸福の科学出版から)な理由については「本を通じて大川氏の考えを広めることで信者を獲得していく、という目的もあるのでしょうが、それよりも集金システムとしての役割のほうが大きいと思います。会費を集めるというのは結構手間なので、出版という既存のインフラを利用して、信者から『お布施』を集めるわけです。これは、生長の家や創価学会などの新興宗教が行っていた活動の焼き直しですね」と分析する。

 これらの批評には、大川氏も異論があるだろう。本誌は大川氏にインタビューを依頼したが、実現には至らなかった。

 91年、大川氏を揶揄した記事を掲載した写真週刊誌「フライデー」と版元の講談社へのデモ行進や意味のないファクスを送り続けるという過激な抗議活動で、世間を賑わせたと同時にひんしゅくも買った幸福の科学。その後しばらくは目立った動きがなかったが、ここに来て、国政に参加すべく幸福実現党を立ち上げるなど、再び動きが活発になってきた。

 そんな中、秋には大川氏原作の映画『仏陀再誕』が公開される。製作総指揮はもちろん大川氏本人。過去の映画作品では、興行収入ランキングで何度か1位を取っている。謎多きベストセラー作家は、売れっ子映画製作者でもあったのだ。新作もヒット間違いなしか!? 

【1】『太陽の法―エル・カンターレへの道』
大川隆法/幸福の科学出版(97年)/2100円

1986年発行の旧版『太陽の法』を「徹底的な霊界検証の末に」大幅に書き直した改訂版。「全世界で数千万の愛読者を持つ現代の聖典」(出版社サイトの解説より)。


【2】『国家の気概』
大川隆法/幸福の科学出版(09年)/1680円

不況に加えて、国際関係の緊張が高まる世界情勢に、大川氏が緊急提言。憲法9条改正の必要性から、国際社会の中での日本の振る舞い方など、大川氏の政治思想が凝縮された一冊。


【3】『超・絶対健康法』
大川隆法/幸福の科学出版(09年)/1575円

08年夏、全国に衛星中継された大川氏のセミナー「絶対健康法」に加筆して書籍化した1冊。心を直せば病気の7割は治るのだとか。ダイエット術も収録されている。


【4】『経営入門―人材論から事業繁栄まで』
大川隆法/幸福の科学出版(08年)/10290円

ゼロから幸福の科学を立ち上げ、わずか20年ほどのうちに世界的組織を創り上げた大川氏の経営論。付録があるわけでもないのに、この価格。成功への投資と考えれば安いもの?


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