カレーを盛りつける庄治さん。
魂が込められています。
インディーレーベル「Ozdisc」を主宰していた田口史人氏が2003年にオープンした「円盤」。そこは、喫茶店であり、自主制作盤の専門店であり、古本屋であり、イベントスペースでもある。簡単に言ってしまえば、「面白ければ、なんでもあり」の空間というわけだが、昨年から「円盤カレー道場」というイベントが始まっている。
「『俺の作ったカレーが一番うまい!』なんてよくみんな言ってるでしょ。だったら、誰のカレーがもっともおいしいのか、白黒はっきりさせるイベントがあってもいいんじゃないかと思って」(田口氏)
ルールはいたって簡単。店内で、腕に覚えのある2者がカレーを作り(自宅で作ってきたものを温めるだけでもOK)、それをお客さんが食べ比べて、投票によって勝敗を判定するというもの。1年間かけてトーナメント戦を行い、決勝の舞台は渋谷O-nest。優勝賞金はなんと10万円。カレーをめぐるホットなバトルが繰り広げられているのだ。
そんな「円盤カレー道場」の第2期が開催されているとの報せを受け、さっそく潜入取材を試みたが、まずわかったことがある。優勝賞金10万円などというのはどうでもよく、参加者たちにとっては、お金よりも大事なものを胸に秘めているのだ。それは己のプライド。自分が丹精込めて調理した自慢のカレーが負けてしまったら......いや、自分のカレーこそが世界で一番うまいはずだ......そんな相反するふたつの感情の中で揺れながら、参加者は自らのカレーを審判の場に出すのだ。これまでの敗者の中には、二度とカレーを作れなくなってしまった者すら存在するという。
入場料はツーカレー・ワンドリンクでなんと1000円。おなかがすいただけの人にもおすすめ。次回スケジュールなどは、円盤のウェブサイトにて。
4月29日、1回戦注目のカード、ドキュメンタリー監督・松江哲明vs.演奏家・庄司広光が行われた。松江氏は、女性にひたすらカレーを作ってもらうドキュメンタリー『カレーライスの女たち』という作品があるほど、相当なカレー好きだ。
一方、Soundwormとしても活躍している音楽家・庄司氏は、タイ料理屋でバイトしていたこともあるカレー好き。ただし、お店で作っていたのは、カレーではなく、パッタイ(タイ風焼きそば)。カレーはシェフが作っていたものを盛っていただけだという。
さて、店内にカレーの匂いが立ちこめる中、いよいよ実食の時。ちなみに、投票結果への影響を考慮して、どちらがどのカレーを作ったのかお客さんにはわからないように、調理・盛りつけの作業はブラインドを立てて隠した状態で行われる。
右が庄司カレー、左が松江カレー。どちらも美味でした。
しかし、僕は一口食べた瞬間にピンと来た。玉ねぎの甘味が存分に引き出されていた「優しいカレー」は、おそらく松江氏のものであろう。彼の作品の中に垣間見える優しい人柄が、カレーの中にも表現されている。一方、「尖がった辛さ」のあるマスタード風味のカレーは、おそらく庄司氏のカレー。音楽同様にセンスが秀でている。直前に加えただろう豚肉も味わい深い。迷った挙げ句、甲乙付けがたいが、僕は松江氏に1票を投じた。
さて、対決の結果は......17対16の僅差で庄司氏の勝利、カレー道場史に残る激闘となって幕を閉じた。イベント終了後、勝者の庄司氏の目はうるみ、敗者の松江氏は泣き崩れていた。
そうなのだ。この空間においては、もはやカレーが単なる料理ではなく、"ひとつの表現物"として存在するのだ。少々大げさかもしれないが、そのことを記しておきたい。
(黄 慈権)