ギマンだらけの電機業界救済法は経産省の省益拡大策なのか!?

 未曾有の世界同時不況が深刻化している中、4月30日に「改正産業活力再生特別措置法(産業再生法)」が施行された。これは、今回の不況によって業績が極端に悪化した国内企業を対象に、政府系金融機関である日本政策投資銀行が出資するという制度。しかも、従業員数5000人以上の大企業が対象で、出資先の企業が結果的に破綻した場合でも、国がその損失を補填する。これは実質的な公的資金の注入であり、支持率低下に悩む麻生内閣肝いりの景気刺激策として注目を集めている。法案成立前から、東芝やパイオニアなど、並み居る電機メーカーが申請の意向を示しており、「電機業界救済法」と揶揄する声も上がっている。

 政府は「多くの従業員が働く企業を倒産させないことで、経済危機の悪化を防ぐ」としているが、メーカー関係者の一部には、「制度の趣旨があまりに不明瞭」と疑問の声も出ている。

 まずは、制度の趣旨の第一義である「世界同時不況の影響で業績が悪化している」企業に対する救済という点。これに対し、制度の申請を検討しているパイオニアの関係者は、「世界同時不況は業績悪化をダメ押ししただけであり、その前から業績は悪化していた」と明かす。

 また、出資を受け入れた企業に対する監視体制の甘さを指摘する声も。かつてバブル崩壊後の金融危機において銀行に巨額の公的資金が注入されたが、注入を受けた金融機関はその代わり、監督官庁である金融庁からの厳しいチェックを受け入れた。

電機業界救済法
「改正産業活力再生特別措置法」のこと。「産業再生法」とも。昨秋以来の世界的不況を背景に、大企業に対して政府が出資し、しかも損金が出ても政府が補填してくれるという、企業にとっては夢のような法律。

「毎月の経営状況をチェックされるほか、通常業務である融資に対しても口を出される始末。これを経験した経営陣は、半ばトラウマになっている」(メガバンク関係者)

 今回の産業再生法においても、経産省は注入企業に対して監視体制を敷くとはしている。しかし、本来業務として日常的に金融機関の監視をしている金融庁と同等レベルのチェックをすることなど、人員面を考えただけでも非常に難しいのではないか、というのだ。

 さらには、同法の適用企業の決定についても、懸念の声が上がっている。というのも、申請を検討している半導体大手のエルピーダの適用に対して、経産省幹部が台湾当局者に口約束したという報道がなされたのだ。しかし、そもそもエルピーダの社員数は3000人であり、申請の基準をクリアしていない。

「経産省サイドは、『半導体は国に欠くことができない産業なので、例外的措置を取る必要がある』と言っているそうだが、これでは恣意的にすぎる。半導体は経産省の意向が強く影響している業界だからこそ、こういう発言も出てくるのだろうが、そうなると、経産省の意向次第で救う企業と救わない企業の線引きが行われることになってしまう」(国内メーカー関係者)

 挙げ句には、「経産省が省益拡大のために政府を口説き落として法案化した」(同)という指摘さえ出てくる始末。しかし、公的資金を注入した企業が破綻すれば、当然国民負担が増えるわけである。これでは、政府や役所が自らを利するために作った国民不在の制度、と陰口を叩かれても致し方ないのではあるまいか。
(千代田文矢)

チキンレース業界!?

本文中でも述べた半導体大手のエルピーダについて、こんな声も。「同社が扱っているDRAM半導体は元から競争が激しく、どこかの会社が潰れるまで値下げ合戦を繰り広げていることから、『チキンレース業界』などとも揶揄されている。経営危機はいつものことで、今回に限ったことじゃない」(半導体メーカー幹部)。つまり、今般の不況によって経営が悪化しているわけではないのではないか、というわけである......。
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