"新聞社最大の闇"である押し紙と販売店の悲鳴

山と積まれた押し紙。

 新聞社が販売店に対し、新聞の部数を割り増しして強制的に売りつける──。それが「押し紙」である。この問題は新聞社やその系列メディアでは一切取り上げられることなく、一般的にはほとんど知られていない。この新聞業界の闇を追及してきたフリージャーナリストの黒薮哲哉氏に、問題をとりまく現状と今後について聞いた。

──まず最初に、新聞各社が販売店に対して「押し紙」を行う理由とは?

黒薮(以下、黒) 大きく2つの理由が挙げられます。まずは、新聞各社は販売店に強制的に新聞を売り付けることによって収益を確保できるということ。さらに、部数が上がれば広告媒体としての価値も高まるため、広告営業を有利に行えるということです。私が把握している限り、販売店に搬入される新聞の半分が押し紙だったというケースもあります。おおよその数字ですが各社3~4割程度が一般的。これから「押し紙」による販売収入を導き出すと、店舗平均は101万2500円/月になります【註】。これは闇金ですよ。

──販売店は、それを拒否することはできないのでしょうか?

 なかなか拒否できません。しかし、販売店の赤字を相殺するカラクリもあるのです。その手口のひとつが「折込チラシの水増し」です。新聞各社は、子会社である広告代理店を通じて、「押し紙」に対しても折込チラシを割り当て、広告主から代金を徴収します。つまり販売店は「押し紙」で被った被害を「折込チラシの水増し」によって補てんする。それでも赤字を相殺しきれない販売店には新聞社が補助金を投入します。つまり、販売店の経営は、「押し紙」による損失分を「折込チラシの水増し」と「補助金」によって相殺することで成り立っているのです。倫理的な観点から「押し紙」を拒否する販売店に対しては、「補助金」のカットをちらつかせるなど、嫌がらせをすることも少なくありません。これは、07年のことですが、福岡県にある読売新聞の販売店が同社に「押し紙」を止めるように弁護士を通じて申し入れたことがあります。すると3カ月後、読売新聞はいいがかりをつけてこの店をつぶす暴挙に出ました。この事件は今、裁判になっています。

──「押し紙」制度は、これから、どのように変容していくのでしょうか?

押し紙
本誌08年4月号でも既報の通り、「押し紙」の問題をめぐる報道が原因で読売新聞から著作権侵害で提訴されていた黒薮氏。今年3月、東京地裁は「原告(読売新聞)の請求を棄却する」と判決を下した。また、読売新聞は名誉毀損でも同氏を提訴している(現在、係争中)。

 今年3月よりリクルートが週刊テレビ情報誌と地域の広告・チラシの無料宅配サービスを開始し、順次エリア拡大を進めています。このサービスは新聞社にとって脅威です。折込チラシの市場を奪われた場合、「押し紙」による赤字が相殺できなくなり、現在のビジネスモデルが崩壊しかねません。

 また、バブル期には全国紙の全面広告の掲載料は1回3000~4000万円と言われていましたが、いまや500万円程度にまで暴落したそうです。部数の大幅減少に加えて、広告収入も激減する中、大手新聞社も経営難で、従来の補助金の投入は困難になりつつあります。折込チラシも激減し、「押し紙」を前提にした新聞ビジネスが破綻しかかっている。07年10月に読売新聞と朝日新聞、日本経済新聞の3社が販売網の提携に発表したのは、現在の戸別配達制度のの破綻を見越しての予防線と言えるでしょう。また、そこから取り残された産経新聞と毎日新聞は非常に危機的な状況と見ていい。それを防ぐために、記者のリストラという聖域にもメスを入れてくるはずです。
(大崎量平)

【註】全国の販売店に搬入される全国の朝刊部数は約4500万部/日。このうちの3割にあたる1350万部/日が「押し紙」で、新聞卸価格を1500円/月(※中央紙の朝刊のみの定期購読料約3000円の半分)として「押し紙」による販売収入を導き出すと、202億5000万円/月。年間にすると2430億円。また、全国には約2万店の販売店があるとされ、店舗平均に直すと101万2500円/月になる。

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