サイゾー創刊編集長が過激に提言!〈死が迫る雑誌たち〉のサバイバル術

──次号で創刊10周年を迎える本誌「サイゾー」。1999年という世紀末に、「いかにも3号で潰れそうな雑誌」(当時の業界関係者)を立ち上げ、 その礎を築いたのが、本誌初代編集長である「こばへん」こと小林弘人氏である。そんな同氏が先頃上梓した最新刊が、出版の未来とウェブメディアの最新事情を考察した『新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に』。ん? 「死ぬ前に」? 雑誌の存在価値を熟知する男があえて記した、この意味深なタイトル、はたして、その心とは。

コバヘン自分撮り!?(写真/小林弘人)

「サイゾー」の創刊編集長で、かつて本誌の発行人であった小林弘人氏。同氏は、編集者として、雑誌や書籍を手がけてきた一方で、90年代前半のインターネット黎明期からさまざまなネットビジネスにかかわり、人気ブログ「ギズモード」の立ち上げを始め、数多くのウェブメディアの立ち上げ、プロデュースを行ってきた斯界の有名人かつ「メディアのプロ」。凋落激しい出版業界と、拡大し続けるネット業界を両方見続けてきた希有な人物なのだ。

 そんな小林氏の最新刊『新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に』(バジリコ)は、インターネットの登場で大きな岐路に立たされた「出版」の未来を提示、さらに最新のウェブメディア事情も網羅している。同書の中で本誌編集部が気になったのは、もちろん「雑誌」に関する考察だ。出版ビジネスの中でも、最も大きな逆風が吹いている雑誌の今後を、本誌の生みの親はどう見ているのか? 雑誌を待つのは「死」のみなのか?

──新刊のサブタイトルには「新聞・雑誌が死ぬ前に」という言葉がつけられていますね。やっぱり、我々は死にますか?(苦笑)

小林 ここでいう「死」というのは、ビジネスモデルの死と、雑誌だけが持つ特質を見誤り、紙という容器に縛られて精神的な死を迎えつつあるということを謳ったまで。つまり、メディアは永遠にその容器に固定されるのではなく、絶えず進化していく。私が今回の本で書いたのは、インターネットの登場で、既存の出版の概念が崩れ、出版ビジネスも斜陽となった今、雑誌の編集者をはじめ、出版人こそ、自分たちの強みを生かした、新たなメディアを構築していかねば、という「前向き」なメッセージなんだよね。

──でも、雑誌においては「死=休刊」という状況が、ますます目立つようになり、なかなか前向きにはなれません。この状況は深刻化する一方ですよね?

小林 それは間違いないでしょ。緊縮しつつある市場の中では、これまでのビジネスモデルが通用しない。特に規模的な問題は深刻で、大手出版社の雑誌は、広告費頼みで、固定費がバカ高いから、一瞬で大赤字になる。「知」の大量消費時代の成果は、読者不在という皮肉な現実を突きつけたんだよ。

──「サイゾー」もそうですが、慎ましく作り続けられる規模のほうが変化には強い。もともと小さい市場で商売してきてますし。

小林 「サイゾー」は大丈夫。取材に来たのに、写真(上のもの)まで本人に撮らせてるんだから。どんなにケチだよ(笑)! とにかく、人件費や外注費が安いところは耐性がある。それと、エコを訴えるつもりは毛頭ないんだけど、紙という希少資源を使っているという意味でも、雑誌は気軽に創刊できなくなる運命だよ。「雑誌社や新聞社はもう少し少なくてもよくね?」という空気が醸成されると思う。たぶん、何百万部も発行している新聞の印刷前のロール紙の写真が公開されたら、過激なエコ団体から攻撃されるんじゃないの(苦笑)。まぁ、既存の雑誌という形態は銀塩カメラのようにひとつの時代の頂点であったけれど、誰もがデジタルツールを手にした世の中では、これまでとは違うプロフェッショナリズムで勝負するしかない。

──雑誌の本質的部分っていうのは、紙だからこそできる表現にこだわることとは違うんですか?

小林 違うよ。私が昔、編集長をやっていた「ワイアード」(同朋舎出版/1994年から4年間発行されたインターネットカルチャー誌)という雑誌は、記事だけでなく、写真やデザインや印刷にも、めちゃくちゃこだわっていて、そこを支持してくれた人もいたけど、それはあくまでも付加物、テイストであって、雑誌の本質とはいえない。どの雑誌の編集長よりもデザインにうるさい私がいうんだから間違いない(笑)。雑誌の本質は何かというと、コミュニティ形成とそのハブとして機能すること。つまり、ある共通の趣味や興味を持った人たちのために情報を提供し、その人たちの中継点となることで、そのコミュニティを資産として、換金化することでしょ。こうした本質的機能は、ウェブのほうがより自由度が高く、読者同士が接点を持てるので仲介は不要なくらい。特に情報誌は、ウェブに移行したほうが、速報性や検索性、ボリュームなどといった面でも、より向上するわけだから。それを見抜いたのは、実は読者のほうが先なんだ。

メディアビジネスはネット上では儲からない!?

──雑誌の本質は、ウェブと相性がいいというのはわかります。ただ、ウェブはとにかくお金になりにくい。ユーザーは、コンテンツに対してお金を払うという意識が低いし、広告主は雑誌以上にコンバージョン(成果)にシビアで、広告費を抑制しています。「紙がダメだからウェブに来たけど、金にならない。俺たちはどこに行けばいいの?」と思っている出版人も多い気がします。

小林 そりゃそうだよ。結局、有料購読と広告収入というモデルから離れない限り、食えません。ただ、コミュニティの組成と中継という、雑誌の本質をキープできれば、いろいろな横展開ができるはず。たとえば、ポルシェ専門雑誌をやっていたら、そのコンテンツをウェブに持ち込めば、ポルシェのコミュニティを組成できるでしょ。彼らのハブになることは、ビジネス的に有利になる。パーツの売買をする場を提供して、手数料も取れるし、ポルシェのディーラーと組んで、サイト経由で車を買わせるという代理店的な動きもできる。「それは編集者がやることじゃない」と思っていたら、ウェブでは生き残れないよ。雑誌を作って取次に渡せば金になるなんていう、これまでの固定化されたモデルは、ウェブには持ち込めないし、「情報を提供する」なんて行為は、ウェブ上ではあらゆる企業や個人がやっていているんだから。「ウェブはゴミ情報ばかり」という出版人からの批判は、実は逆説的でもある。圧倒的な質と工夫で、検索エンジン対策が得意なだけのゴミを駆逐すればいい。

──そんな中で、旧来の雑誌の編集者がウェブでも発揮できるアドバンテージもあるはずですよね。

小林 もちろん。どんな情報を提供し、どんな見せ方をすれば、読者に刺さるのか? それにより、読者はどんな動きをするのか? といった、読者たるコミュニティの「温度」を感じ取り、メディアを設計していくのは、編集者に一日の長があるはず。でも、ウェブにはウェブ独自の表現体系がある。それを理解できるのは、雑誌の編集者が雑誌のヘビーユーザーであるように、ウェブをよく使っている人間でなければならない。それなのに、そういう編集者が意外と少ない。既存の雑誌ビジネスの枠では、そういう人は「あっちの人」ということになる。それで、結局、代理店とかシステム屋さんとか、編集やコンテンツ制作を知らない人に任せっきりで、大金だけつぎ込んで、痛い目に遭っているんだろうけど。「じゃあ、ウェブで何をすればいいんですか?」って、講演会とかで出版社の人に漠然と聞かれるんだけど、この他力本願さも、出版界独特ですね。気軽に「で、いくら儲かるの?」と聞いてくる。知るかよ、おまえの商売だろ(笑)! やり方はプレイヤーの数だけあるんだから、寝ずにウェブを理解して、考えろと。ただ、ウェブでのメディアビジネスが、かつての出版ビジネスのように儲かるなんていうのは妄想(笑)。さっきも言った通り、ウェブでは、誰もが送り手になれる「情報」という商材の価値は相対的に低くなっていて、換金化しづらいからね。メディアビジネスに限らず、ネット上は、ローコストが基本。かつ、小さな組織で大きな収益を目指す。これは基本中の基本。最後に宣伝しちゃうけど、ウェブでの商売の仕方を考えるに当たって、私の今回の本を読んで、今ある「出版」という概念をリセットして、本書で紹介している、さまざまなネットでの事例に触れてほしい。旧来の出版ビジネスには逆風が吹いているけど、ネット上には新たなメディアビジネスのチャンスと新しいクリエイティビティが転がっていることをわかってもらえるはずだよ。
(編集部)

小林弘人(こばやし・ひろと)
1956年生まれ。メディアソリューション事業を核とする株式会社インフォバーンCEO。94年、黎明期のインターネットが社会や文化に与える変容をレポートした雑誌「ワイアード」(同朋舎出版)日本版を創刊。98年、「サイゾー」創刊。03年頃から、有名人ブログのプロデュースにかかわり、ブログブームの先鞭をつける。この間、高橋がなりや眞鍋かをりなど、雑誌やブログのコンテンツを書籍化し、ヒットを飛ばす。そのほか、ポッドキャスト、オーディオブック、ブログマガジンなど、最先端のメディアをいち早く手がけてきた「メディアのプロ」。

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