最近やたらと増えた"ヴィジュアル系"専門誌
──イケメン俳優たちが世間をにぎわせる中、本稿では「音楽界のイケメンビジネス」ともいえるヴィジュアル系バンドのビジネスについて語ってみたい──。
近年、音楽業界では、ユニコーン、リンドバーグなど、90年代に活躍したバンドが相次いで再結成を発表し、シーンを賑わせている。それはヴィジュアル系バンドも例外ではない。LUNA SEA、X JAPAN、黒夢と、同じ時代を盛り上げ、同ジャンルのひな形を作った3大バンドが復活した。
彼らの再結成コンサートは東京ドームや武道館といった大会場で行われ、1万円前後のチケットは瞬く間に完売。さらに、ベビー用品まで並んだコンサートグッズ販売も盛況だったようだ。
「バンドによっては、物販だけで数億円を売り上げたとか。とはいっても、90年代半ばの全盛期に比べれば売り上げは減ったはず。そもそもヴィジュアル系バンドのファンは、アイドルやジャニーズファン同様、グッズに執着する傾向が強く、バンド側もそれにこたえてか、パンフレットひとつとっても凝っている。実際、LUNA SEAのパンフレットは、見た目はハデでも中身は大したことないのに4000円もしたからね」(大手レーベル関係者)
こうした"ならではのビズ"を解説する前に、まずは「ヴィジュアル系とは」何か、その解釈を記してみたい。
音楽専門ニュースサイト「オリコンスタイル」(06年6月7日付記事『ネオ・ヴィジュアル系バンド台頭の兆し』)では、「日本の音楽シーンにおいて、ヴィジュアル系といえば、90年代半ばに一世を風靡したブームを指すのが一般的解釈になっている。厳密にいえば、この『ヴィジュアル系』という言葉の解釈の仕方は、かなり細部にまでわたってさまざまなカテゴリー分けがされていたり、言葉の由来も諸説あるようで、何を指して正解とするかは、その言葉を使う者にゆだねられているのが現実といえよう」とある。こうした中、一般的にヴィジュアル系最大のアイコンはX JAPANとされており、"ハデで奇抜な髪形や衣装"という容貌を備えたバンドを指していたものと思われるが、GLAYやSOPHIAの登場以降、メイクも薄く、衣装もスーツ系の「ソフヴィ(ソフトヴィジュアル)系」と呼ばれるバンドも多数出現。今では、「コテ系」(コテコテのビジュアル系)、出身地からの「名古屋系」、所属事務所からの「ピーカン系」(大手事務所PSカンパニーに所属するアーティスト/後述)など、細分化が進んでいる。また、「オリコンスタイル」の記事タイトルにもあるネオ・ヴィジュアル系とは、「ナイトメア、the GazettE(ガゼット)など、04年前後にデビューしたヴィジュアル系バンド」(同)を指すものだ。いずれにせよ、かつてのグラムロックがそうであったように、少なくともサウンド面のみでカテゴライズされたものではなく、あえて定義すれば「視覚的なこだわりを強く持ち、女性的な化粧をするバンド」の総称と呼べるだろう。こうした彼らの人気が、アニメ同様、ヨーロッパやアジアへ飛び火したことは、多くのメディアで報じられた。
アイドルと瓜二つ!ヴィジュアル系の儲け方
さて、現在特に人気が高いのが「(音楽誌の)表紙に出れば、その雑誌は完売」とまで言われるガゼットである。このバンドの所属事務所が前出の「ピーカン」こと「PSカンパニー」。もともとはインディーズバンドが所属する小さな事務所だった。が、メンバーのプライベート管理(要は女遊びの禁止)からビジュアル重視の育成とパフォーマンスまで、ファン心理をわしづかみにする女性目線からの戦略が功を奏し、現在はガゼットのほか、アリス九號.(アリスナイン)、Kra(ケラ)、Kagrra,(カグラ)、雅-miyavi-(今年4月に独立)といった、そうそうたるメンツを擁する業界一の会社に成長。女社長・尾崎友美氏のヤリ手ぶりは、業界で伝説となっている。
「そもそもヴィジュアル系バンドの追っかけだった尾崎社長ですが、ルックス重視でバンドをセレクトし、ビジネス的にも成功させているところを見ると、ファン心理を熟知した高い審美眼を持っているのでしょう。アリス九號.は、顔で選んだんじゃないかと思わせるメンバーのルックスの良さが最大のウリ。その前にもっと楽器の練習しろ、と言いたいですが(笑)。同事務所所属のバンドは雅以外、実力には疑問符がつくというのが業界の定説ですよ」(ヴィジュアル系に詳しい音楽関係者)
そんな彼らのCDは、写真集的ブックレットやメイキングのDVDを付けるなど、視覚的な付加価値が重要になっている。一方、シングルやアルバムをジャケット違いで発売するのもヴィジュアル系の戦略のひとつ。最近は、CDのみの通常盤とDVD付き初回限定盤の2種類が出るのはもはや当然、付録DVDの映像内容が違うジャケット違いの初回限定盤をさらにもう1枚プラスした、3タイプ同時リリースというのが通例になっているほどだ。
「AKB48などのアイドルみたいに、ジャケット違いで同タイトルを数種類リリースしたり、トレーディングカードを封入して、ファンに何枚も買わせるスタイルはもはや、常套手段。極めつけは昨年のLM・Cというバンドですね。『88』というシングルは、ジャケット違いバージョンを5種類も出した(苦笑)。オリコン初登場3位を記録しましたが、ひとりで5枚買うファンもいるワケだから、本当に売れたのかというと......」(前出・関係者)
また、ライブの本数が多いのもヴィジュアル系バンドの特徴で、当然会場での物販にも注力している。
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「中でも効率がいいのが、ポスターやトレカ、生写真、パンフレットといった、原価が安い『紙もの』と呼ばれるグッズ。特に生写真は大きな収入源で、メンバーやマネージャーは会場に入るとまずチェキなどのインスタントカメラで写真を撮りまくる。それを『今日という思い出の日に撮った、この世に1枚しかない限定品』として500円くらいで販売し、これがまた飛ぶように売れてしまう。インディーズだけではなくメジャーバンドもやっている手法だけど、あるインディーズバンドは、10本規模の全国ツアーを季節ごと、年4回行い、1ツアーでグッズだけの売り上げが1000万円ぐらいとか」(前出・大手レーベル関係者)
ライブや物販だけならまだしも、「ファンクラブ旅行」という名の怪しげなビジネスもヴィジュアル系特有のものだろう。アイドルのそれと同様、現地で限定ライブや握手会などの催しがセットになった旅行で、相場の倍以上の参加料金を設定。それでもほとんどが完売するといい、その旅行に行きたいがためにファンクラブに入る人も多い。
「大阪のインディーズバンド『ファンタスマゴリア』は、3年間で約1億5000万円稼いだそうです。まあ、すぐに脱税が発覚し、メンバーで所属事務所社長のKISAKIは1億円以上の追徴課税を納めることになったんだけど。でも、報道でその額を知って、びっくりしましたね。インディーズでも、こんなに稼げるの?って」(同)
ただ、問題点もある。レコーディング費用も通常のバンドよりかかりがちで、衣装代もJ-POPアーティストのように、ジーンズとTシャツ......というわけにはいかない。
「メジャー、インディーズに限らず、衣装に凝るバンドはひとり1着100万円以上を作品ごとにかける人もいるけど、新しいシングルやアルバムが出たらそれはもう着れない。『サイコルシェイム』ってバンドは、ひとり1着200万円もかけるって話だよ。当然、コンサートのステージセットにも予算をかけがちになる」(同)
要は、必要経費がバカにならない、ということだが、そういう意味ではハイリスクな業種でもあるといえるだろう。そんな中、昨今の音楽業界の不振はヴィジュアル系の売り方にも影響を及ぼしているという。
「音楽業界自体、日本では下火で市場も縮小傾向。なので、海外に目を向けるヴィジュアル系も多いですよ。海外だと、奇抜なファッションというだけで好まれることもありますからね。日本ではほとんど知られていないようなインディーズバンドも、アジア各国から呼ばれることもあります」(同)
とかくイロモノに見られがちな彼らであるが、業界関係者の期待は大きいようだ。
(取材・文/編集部)