麻原彰晃四女・松本聡迦×脳機能学者・苫米地英人 オウム事件14年目の「洗脳」談義

──1995年3月20日に起こった、オウム真理教による地下鉄サリン事件から14年。同教団や家族を捨て、自立した生活を送る麻原彰晃の四女と、事件直後から同教団の脱会信者の脱洗脳を手掛けてきた脳機能学者が初めて出会った。2人にとって、オウムとは? 洗脳とは?

史上最凶の洗脳組織から抜け出てきた四女と、史上最強の脱洗脳エキスパート。意外にも(?)、すぐに意気投合。

 トータル10時間以上に及び、教団の内情から、現代社会の洗脳事情までを語った対談の一部をまずは本誌誌上で独占公開する。

松本聡迦(以下、) はじめまして、松本智津夫の四女の松本聡迦(仮名)です。今日はよろしくお願いします。

苫米地英人(以下、) よろしく。

 苫米地さんの著書は、『洗脳原論』(春秋社)など、いくつか読ませていただきました。オウムに関係したほかの識者の方々と違って、苫米地さんが直接かかわられたのは一連の事件の後だったんですね?

 学者仲間の中には、昔からオウムとかかわっていたやつもいたけど、俺はオウムというものも、メディアで騒がれだすまで興味がなかったから。上祐(史浩・現「ひかりの輪」代表)が新興宗教に行ったというのは聞いていたけど。

 上祐さんとは、学生時代にお知り合いだったんですよね?

 そう。1980年前半だよね。彼が早稲田大学の1年生のとき、ディベートのサークルに入ってきたんだけど、俺は上智大学で日本のディベートサークルの統括的な立場にいたから。彼はオウムの広報部長時代、メディア対応はすごく狡猾なイメージがあったけど、あれもディベートの影響だと思う。地下鉄サリン事件の前、彼が記者会見で怒りながら、フリップを放り投げて話題になったことがあったんだけど、あれはディベートの技法では、「私の主張は100パーセント正しいから、二度とこのフリップの議論には戻らないよ」というデモンストレーションなんだよね。そういうことをしっかりやっていた。

 何か戦略的なものは感じましたが、上祐さんがオリジナルで考えたものかと思っていました。

 いやいや、俺が海外から持ち込んだ技法のマネだよ。マンガのヒーローをマネたがる子どもみたいなもの。当時の上祐にとって、俺がヒーローだったのね。

 もしかしたら彼は、苫米地さんにはとてもかなわないけど、私の父ならかなうかもしれないと思ったのかもしれませんね(笑)。オウムの中では、1番になれると。

 それはあるかもしれないね。そうでなくてもオウムっぽいものにはまりそうな雰囲気は当時からあって、「ムー」(学研)とか「トワイライトゾーン」(ワールドフォトプレス)とかのオカルト雑誌をディベートのジャッジルームで朝から晩まで読んでいたからね。

 その頃から、あの人はオカルト好きな傾向があったんですね。

 大学卒業後、宇宙開発事業団に入って、その後すぐに、どこかの新興宗教に行ったらしいって話は聞いていたんだよ。恋人だったU(オウムの元女性幹部)と一緒に。Uも大学1年生のときから知っているから。そのときは、オウムってものに対して、特別な意識を抱くことはなかったんだよね。どこかの新興宗教でヨーガか何かやってるな、くらいしか思っていなかったから。テレビでよく見るようになって、こんな問題のある教団だったのかって認識して。

 オウムに直接かかわるようになったのは、地下鉄サリン事件後に、脱会信者を脱洗脳するようになったときからですか?

 そうだね。上祐がハマった宗教団体が問題をはらんでいると知って、その洗脳手法を研究しだしたの。俺の専門は人工知能や認知科学だったし、臨床心理もやっていたので、脳については相当な知識を持っていたからね。そんなときに、公安から連絡があったんだよ、「信者の脱洗脳をやってほしい」と。それで、最初に8人ぐらい脱洗脳をしたね。もちろんボランティア。ちなみに上祐とは学校を卒業してから、1回も会っていない。Uは96年に教団を脱会した後に、脱洗脳をしてあげて、今は一社会人としてがんばっているよ。

 事件後、オウムを批判するような識者やジャーナリストがほとんどでしたが、教団内では苫米地さんが、いちばん恐れられていましたよ。教団の中にいる信者は、自分が洗脳されていると気づいていませんから、Uさんとかが、どうして変わってしまったのか不思議だったのだと思います。苫米地さんに強引に洗脳されたんじゃないかと言われていました。「あいつの目を見たら危ない」と。

 それは言われるだろうね(笑)。聡迦さんは、俺のことどう思っていたの?

 オウムに関して造詣の深い、事件以前からかかわっていた識者の方々は、オウムを批判することでオウムの暴走の抑止力になっていた一方で、挑発してしまったところもあったと思うんですね。それゆえに評価がしづらいです。苫米地さんは、事件後の緊急時にかかわりだしてくれて、何人もの信者を教団の呪縛から解放したわけですから、私としては評価していました。お世辞ではないです。

 教団の中にいたときから、そんなに冷静に分析できたの? まだ小学生だった頃でしょ?

 はい。「サイゾー」での連載手記でも書かせてもらいましたが、当時の記憶は鮮明にあるし、家族の中でもひとりだけ、教団に対して強い違和感を抱いていましたから。ただ......。

 ただ?

 失礼なんですが、教団内では苫米地さんの女性関係について、あれこれ噂が流れていたので......。美人とはほど遠いですが、私も一応は女性なので、その噂だけは怖かったですね。父の女性関係とか、ひどい例を間近で見てきていますから、そういう話にはナーバスなところがあったんです。実は今日お会いするまでは、ちょっと不安でした。催眠で恋をさせられてしまうのかなとか。

 なるほどね(笑)。大丈夫、そんなことしないから。確かに、女性の元信者との仲を週刊誌に書かれたことは何回かあったけど、ウソばかり。脱洗脳したクライアントに手を出したとか。それは100%ないよ。オウムに関連するニュースだったら、とにかく数字が稼げる時代だったから、悪徳カウンセラーというストーリーをつくりたかったんだろうね。

 どうして違うのに反論しなかったんですか?

 無視するのがいちばんだよ。否定や反論をしても、またどうせ揚げ足を取るような報道をされるだろうしね。

 マスコミが事実と違う報道をしたことによって、「やはり苫米地は悪だ。オウムのほうが正しい」と思った信者がかなりいると思うんですけど、ひどい話ですね。

 そんなものだよ。

 ちなみに、今の上祐さんと会ったら、脱洗脳できますか?

 それは上祐だろうが、誰だろうが簡単。ただ上祐は確信犯、つまり洗脳されていない可能性があるんだよ。実際に、早々に"脱麻原"を打ち出して、今は別教団を立ち上げているしね。そこは普通の日本の寺の坊さんと同じ。坊さんは宗教的に仏教を確信しているけど、洗脳されているというわけじゃない。彼らは十善戒とか言っていながら、普通に風俗にも行っているんだから。でも、「お釈迦さんの世界はあるよね」と思っているのが、お坊さんのレベル。上祐は、そんな感じかもしれないんだよね。ただ、入信後は直接会っていないから、今は判断しかねる。

私自身も強い洗脳を受けていると思いました

 私は、中学校に上がった頃から事件にかかわった元幹部の人たちと面会をするようになったんですけど、その中で彼らには2つのパターンがあるような気がしたんですよ。本当に洗脳されきっていて、不可抗力で事件に加わった人と、自分で考える力がまだ残っていたけど、さまざまな欲望が相まっててやってしまった人です。

 80年中頃までの、ヨガの団体であった「オウム神仙の会」のとき入信した人たちは、どっちかというと、「麻原尊師」というより、「麻原先生」という感じでの付き合い方だよね。

 はい、そうですよね。

 確かに洗脳って、いま言ったような2レベルあって、オウムでいえば、末端信者にされているような、行動から思考まで完全にコントロールしちゃうようなレベルの洗脳と、自分自身の思考が残っている中で、神秘体験──実際には、ヨガや修行による過呼吸、LSDなどの薬物で生じる幻覚──や権力という快感にとらわれて、第三者が思い描く方向に動かされてしまっているようなレベル。まぁ、俺がよく言っていることだけど、日本人はすべて、ごく一部の人間に都合のいいようにできた資本主義というシステムを素晴らしいものだと洗脳されて生きているよね。これは後者だよ。一方、サリン事件の実行犯は前者。だから実行犯は、かわいそうといえば、かわいそうだよ。いちばん問題なのは、それを仕掛けた側の罪が問われず、のほほんとしていること。俺はその中に、上祐だったり、元幹部のIが入ると思っている。

 そうですよね。ただ、苫米地さんの本を読んで、自分も強い洗脳は受けていたと思いました。

 俺の本のどこを読んでそう思ったの?

 全体的に思いましたけど、特に「アンカー」という概念が自分自身の経験と合致して、すごく納得できました。

 アンカーっていうのは、記憶の中に植え付けられてしまう「いかり」のようなものだよね。本人は無自覚なのに、「トリガー(引き金)」と呼ばれる特定の条件が加わると、アンカーが表に出てきてしまう。オウムの場合で有名だったのは、教義に疑念を抱くと、体が震えだすというアンカーを信者に埋め込んでいたりしたこと。この場合、疑念を抱くということが、トリガーになるわけ。聡迦さんの場合は、どんなアンカーを?

 オウムの真理とか父とかに逆らうくらいだったら、死んだほうがましだという考えを起こしてしまうことは、苫米地さんは本の中で「一部の幹部に」と書いていましたが、きょうだいやたぶん母も植え付けられていたと思います。ほかに、子どもにだけ植え付けられたアンカーもあると思います。

 それはどんなもの?

 「あなたたちは現世(オウム以外の社会)で生きたことがないんだから、常識を知らないし、絶対生きていけないから、オウムの中で生きていくしかない」というものです。

 教団の外には出さない、社会の価値観に染めさせないということだね。

 それを姉たちも私も弟たちもみんな植え付けられているので、仕事に就いたとしても、トリガーとなる何かのきっかけで、それが蘇ってきちゃって、不安になって仕事が続けられないんですよね。

 それは大丈夫。アンカー、トリガーを外していくための基本的な考えは、嘘は信じなくていいってこと。何度か出していくと、自然に弱まるしね。だからそういうのが出てきちゃったら、逆に出てきて良かったと思えばいい。「あっ、これはアンカーの影響だ」と思えるようになれば、大丈夫。気がついていないから、アンカー、トリガーって効くの。まぁ、オウムに限らず、日本の親はみんな自分の子どもを洗脳しているんだよ。俺だって大学行くまでは、銀行マンの父親の影響で、「銀行業に身を置いて、生きないといけない」って思い込んでいたんだから。今は逆に銀行を、資本主義社会を支配する悪の権化みたいにぼろくそ言っているけどね。だからそれは、どこの家庭でもそうだよ。親は子どもを自分の知っている環境や価値観の中に置きたがる。麻原家の場合は、教団の外に出すことが大きなリスクになるからね。

 こういうところで何か教団について批判的な発言したりとか、そういうときほどアンカーが出てきそうで危ないんですよ。精神状態が不安定になって、死にたくなるというか。家出をしてから、昨年、テレビ局の取材を受けていた前後がいちばん危なかったですね。本当に(死を求めて)湖まで行きましたからね。

 でも、それを自力で乗り越えたんだから、がんばったよ。元幹部のUは、俺が脱洗脳を始めた2日目あたりにそうしたアンカーが出てきて、自殺は教義で禁止されているから自分で死ねないじゃない。でも法をもう守れなくなったから死なないといけないと思って、「山林で死ぬまでさまよい歩こうと思いました」って。

 何がトリガーになっているかわからないと言いましたが、「オウムで生まれ育ったんだから、社会で生きていけるはずがない」とか、「警察とか公安調査庁だとか、国家も社会での生活を許すはずがない、だからオウムの中で生きていくしかないんだ」というアンカーに関しては、警察とかが訪ねてきただけでトリガーになってしまうし、あるいは「常識」とか「社会性」とかそういう言葉を聞いただけでもトリガーになってしまいました。

 大丈夫、それもみんな嘘なんだから。まず疑うことだよ。

LSDと熱湯風呂で強制的な洗脳をされた

 ところで教団の中にいて、他人が洗脳される現場というのは見たことある?

 断定はできませんが、そうじゃないかなという場面はあります。

 「キリストのイニシエーション」は受けたことあったのかな?

 それって、LSDを飲まされるものですよね。私自身は、受けていないです。当時5歳とかだったので、薬物で死んじゃうのではないかと思われたんだと思います。ただ、父からもらった何かを信者の人たちが飲んだりしているのを見て、その後、彼らに話しかけても反応がなかったりとか、何があったんだろうと思うことはありました。

 当時のオウムは、覚せい剤とかLSDとか、死んじゃうくらいの量を使っていたらしいから。

 そうした物を飲んでいる状態だと洗脳されやすいんですか?

 LSDは依存性もないし、適量なら肉体的にもさほど危なくないんだけど、究極の洗脳薬なんだよね。LSDを飲んで、ドーパミンという快感を生む物質を大量に脳に出して、変性意識を生み出す。いわゆるトランス状態だよね。このときに他人に指示されたことは100 パーセント従っちゃう。それで、世界的に禁止されているわけ。逆に言うと、それさえやらなければ究極の極楽薬だね。桁違いのドーパミンが出るんだから。オウムがやっていたのは、それをイニシエーションと言いながら飲ませる。しかも大量に。でも、量が多すぎると、錯乱も起こすし、死亡にもつながるでしょ。そこで、熱い風呂に入れて、いっぱい汗をかかせたら、すぐにLSDが体から抜けると思ったらしい。そんなことはあるわけないのに。

 熱いお風呂に入るのは、修行だと思い込まされていました。苦行に耐えることで悪い業(カルマ)が消滅するからと言われましたね。あのせいで死んでしまった信者も多いですけど、そうでなくても多量の薬で死ぬ可能性があったということですよね。

1995年3月20日に起きた、未曾有の無差別テロ「地下鉄サリン事件」。洗脳された信者たちが、殺人マシンとなった。

 そういうのは見ていたの?

 死ぬ瞬間は見ていないですけど、昨日まで普通に笑っていた人が、亡くなったっていう話はたくさん聞きました。いちばん熱いので50度ですから。逆にいえば、LSDなどを飲んでいなかったら、耐えられないくらいのお湯だったと思います。私は、LSDは多分飲まされたことはないと思うんですけど、戒めとして全然食べないで寝ないでということをしていたら、感覚が麻痺しちゃったことがあって、そのときに50度のお風呂には入ったことがあるんですけど、本当に感覚が全然ないんで、そのまま寝られるんですよ。

 それはそうだよね。LSDなんかやっていると、体が痛みを感じなくなるから。

 はい。50度のお風呂に首まで浸かって15分ですよ。だから後でお風呂から出て感覚が戻ってきたときに、体中に水疱とかできていて、「あ、やけどしている」みたいな感じでした。

「あばたもえくぼ」もドーパミンによるもの

 そういえば、麻原が最初にLSDを飲んだときに、なんて言ったか知ってる?

 知りません。

 「宇宙の果てまで行って、うんこ洩らしちゃったよ」って言ったらしい。

 ......(笑)。ところで父は、イニシエーションと称して女性信者と性的な行為をやりたい放題だったんですけど、それは女性を洗脳していたということですか?

 簡単にいうと、催眠状態に陥らせていたんだろうね。女性といえば、上祐はずるいよね。平気で女性とラブホテルとか行っていたらしいからね。

 えっ、そうなんですか。オウムに入ってから?

 もちろん入ってから。牛丼屋とか食いに行ってるし。元信者から聞いたよ。

 コンビニでソフトクリームを食べていたというのは知っていましたけど。食欲でも性欲でも破戒、つまり教義を破ることになりますけど、食欲の破戒はそこまで厳しくなかったんですよね。性欲の破戒には厳しかったので、ラブホテルは驚きました。

 話は戻るけど、つまりね、ドーパミン経路が発達して、常にドーパミンが出やすい状況がつくられると、批判的なことが考えられなくなっちゃうんだよね。恋愛中のあばたもえくぼと同じ。

 わかりやすい例えですね。

 人のアラが見えなくなっちゃうの。ダメな夫から別れられない女とかいっぱいいるじゃない。オウムの修行は、基本的にドーパミン出すためのものだからね。オウムのピラミッドの中では、それを信者にするのは麻原しか許されないことなんだけど、それを横で見て学んでいて、もしくはそのあたりを利用できる地位、たとえば、正大師くらいであれば、いくらでも自分の彼女にできるでしょ。

 上祐さんのところって、今でも女性信者が多すぎますよね。

 だって上祐、そういうの好きだもの。

 今日は、実際にこうやってお話できて、苫米地さんの印象が思っていたのと違いました。信者に対する考えだとか、活字だとどうしても率直に書けないところがあると思うんですけど、その部分は本を読ませていただいても違和感があったんです。その違和感がなくなったという感じがします。

 教団内では、俺の悪口いっぱい言われているからね。それにしても、オウムから出てきた人に対して、世間の反応というのはまだ冷たいと思うけど、ここまで自分で洗脳を抜けて、一人で生きようとしているのは大したものだよ。

 ありがとうございます。自分はオウムから"生還"できたのだと、最近になって痛感しています。中にいるときは、洗脳されているとか気づきませんでしたからね。

 そうだろうね。気づいていたら、それは洗脳じゃないからね。

苫米地英人(とまべち・ひでと)
1959年生まれ。脳機能学者・計算言語学者・認知心理学者・分析哲学者・実業家。83年、上智大学英語学科卒業後、三菱地所に入社。85年、イエール大学大学院に留学。同大学人工知能研究所研究員、認知科学研究所研究員を経て、88年、カーネギーメロン大学大学院に編入、計算言語学の博士号を取得。帰国後、徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長などを歴任。95年に起こったオウム真理教による地下鉄サリン事件後、公安の依頼により、同教団信者の脱洗脳を手掛ける。近著に『成功脳の作り方』(日本文芸社)、『営業は「洗脳」』(サイゾー)、『苫米地式コーチング』(インデックス・コミュニケーションズ)など。


松本聡迦(まつもと・さとか/仮名)
1989年、松本智津夫(麻原彰晃死刑囚)の四女として生まれる。6歳のときに地下鉄サリン事件が起きるも、外部の情報から遮断されていたため、事件のことを知ったのは15歳のとき。その後、教団との関係を保つ家族のあり方に疑問を抱き、16歳のときに家を出て、後見人(後に辞任)となった江川紹子氏の元に身を寄せる。07年夏、同氏の元から離れて以降、派遣会社で働いたり、ネットカフェ難民やホームレスをしたりしつつ、現在は自立した生活をしている。昨年6月号より、本誌で告白手記を掲載。きょうだいは、姉3人、弟2人。


トランス状態でイメージを相手に刷り込む......
そもそも「洗脳」とは何なのか?

 苫米地氏の定義では、「洗脳」とは、第三者が本人以外の一方的な利益のために、その人の心と体を制御すること──ということになる。教育や心理療法などの中には、洗脳と同様の手法が使われるものがあるが、そうした目的のものは洗脳とはいわない。もちろん、教育と称するものの、結果的には特定の利益に誘導する手法もあるので、その判断は難しい。
上九一色村の教団施設。この中で信者への洗脳が行われた。
 では、洗脳の原理とはどのようなものか? ラジカルな手法を簡単に説明すると、まずは変性意識=物理空間の状況とは関係なく、物事を体験する臨場感を得ているようなときの意識(いわばトランス状態。神秘体験ともいう)をつくる。オウムの場合、ヨガをしたり、LSDを飲ませることなどで生み出していた。この変性意識状態で、洗脳する側が相手に植え込みたい情報を臨場感を与えてイメージさせる。たとえば、オウムの場合は、LSD投与下で腐乱死体のビデオを見せ、恐怖心を植え付けていたという。これと同時に、教義に逆らうことはいけないということを教える。これにより恐怖体験は、いかりのように記憶の中に沈められるアンカーと呼ばれるものとなり、「教義に逆らう」という考えがトリガーと呼ばれる、記憶からアンカーを引き出す引き金になるわけだ。その後、日常生活の中でも、教義に逆らうことをイメージするだけで、恐怖感を抱くようになるのである。この「イメージ(情報世界)」と「体験(物理世界)」を結びつけることが、洗脳の肝なのだ。
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