日に日に人気を得るキャスターだが、その当事者は、どのように見るのだろうか? かつて業界最大手のセント・フォース(以下、セント)に所属し、キャスターの礎を築いた玉利かおるさんに話を聞いた。
──これまでにさまざまな番組でキャスターを務めてきた玉利さんですが、当時と現在のキャスターを比較して、何かお気づきになる点はありますか?
玉利 いまは猫も杓子も「キャスター」と呼ばれていますよね。私が出演し始めた85年頃は「司会者」でしたから。アメリカでキャスターといえばジャーナリストなので、私は外国人に自分の職業を説明する際は「フリーアナウンサー」と答えています。現在のように「お天気キャスター」などと呼ぶのは、日本独特の造語だと解釈しています。
──今では、キャスターが通俗的な肩書になった感があります。
玉利 88年あたりの"女子アナブーム"が訪れてからではないでしょうか? フジの『オレたちひょうきん族』に局アナが出演するようになり、女子アナ人気が高まるにつれて、いつの間にかフリーアナがキャスターで一括りになっていました。同時に、容姿に比重を置いた女子アナ採用が目立ち始めたような気も......。
──局アナの立ち位置が変化したことで、フリーアナに求められることも変わりましたか?
玉利 変わりましたね。しかも近年のメディア不況によって制作費が削減され、自局の女子アナを起用する番組が増えたため、フリーアナは苦しい立場にあるといえます。でも、この状況で生き残るためには「フリーの強み」を生かすことです。フリーアナは局に縛られないばかりか、雑誌やCMにも自由に露出することができる。やっぱり人気って重要なんですよ。自局の女子アナを使わざるを得ない中、それでも人気の高い人間を使いたいという矛盾をテレビ局は抱えているのですから。
──個人の努力とは別に、キャスター事務所の力も重要なのでしょうか? 玉利さんも所属していたセントでは、メディア不況下でも多数のキャスターがレギュラー番組を持っています。
玉利 聞えが悪いですが、「セント所属のかたにお願いしたい」といった仕事依頼もあるようですね。本人の力が5割強で、残りは事務所の力といえるのかも。地方局での出演しかもらえない事務所が存在する中、セントが持つキー局とのパイプやブランド力は強いでしょうし。また、ほかの事務所に比べて若くてきれいな女性が圧倒的に多いという点も、今のニーズに合っているのでは。通常、キャスター事務所は「即戦力」を必要とするために年配の女性が多い。しかし、セントでは私が在籍していた頃から若い女性がいましたし、最近では未経験である女子大生キャスターの活躍も目立ちます。これは、ほかの大手芸能事務所ではあまりないことですね。
──セントは多くのクライアントを抱えていて、所属キャスターがCMに出演することも珍しくありません。ですが、彼女たちが報道や情報番組で発信する言葉に偏りがないと言い切れるのでしょうか?
玉利 それは、場合によっては許されないという覚悟は必要でしょう。でも、オファーするテレビ局があり、それを了承する事務所がある。私はこれを「視聴率の罪」だと思っています。この不況でスポンサーが降りるなか、それを阻止するためには数字が必要で......テレビ局としては、致し方ないのかもしれないのですけど。
──視聴率と出演者の人気は、深くつながっているのかもしれませんね。情報番組はさておき、報道番組での彼女たちはメインキャスターに笑顔で相槌を打つばかりですし。
玉利 そこまでではないかも(笑)。番組での発言を制限されているのかもしれないし、影響力を知っているからこそ発言できないのかもしれません。ただし、私もそうですけど、局アナと違って自分の意志で仕事を選べることがフリーアナのメリットなので、とにかく自分のやりたい仕事を見つけて頑張ってほしいと思います。この不況下で、安定した収入を得られる局アナは魅力的ですが、フリーアナとして自分の選んだ道で評価を得られれば、それに勝る達成感はないでしょうし、かつ収入面でも局アナ以上に稼ぐことができますから。報道・情報・バラエティ、もしくは出版......進むべき道によって学ぶことは大きく変わりますが、いずれにしても自分のビジョンを明確にして努力すれば、フリーアナは非常にやり甲斐のある仕事ですよ。
(構成/松本晋平)
(写真/田附愛美)
玉利かおる(たまり・かおる)
1961年7月1日生まれ。『やじうまワイド』『トゥナイト』(共にテレ朝)の司会で人気キャスターに。現在は、共立女子大文芸学部非常勤講師の側面も。公式HP