ジャーナリスト・上杉隆が語る「記者クラブの弊害と三流ジャーナリズム」

――ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」上の連載コラムにおいて昨年末、東金女児殺害事件報道に対して疑義を呈した上杉隆氏に、"新聞による横並び報道"の問題点を聞く。

──昨年9月に千葉県で起こった東金女児殺害事件の報道で、容疑者に密着取材したTBSの手法に批判が集まりました。その他のメディアも含め、この事件に関する報道のされ方に対して、どんな感想を持っていますか?

上杉隆(以下、) TBSだけでなく、その他の各メディアの現場記者たちは、警察発表前の時点で、取材を通して容疑者について完全に目星をつけていました。ならば、容疑者の逮捕や警察発表などを待たずに、勇気を出して報じればよかったんです。海外のメディアならば、どこでもそうやっているんだし、それが本来の、というか"普通"のジャーナリズムでしょう。

──精神鑑定の行われていない段階から、容疑者の実名・写真付きで報道された点については?

 実名報道するかどうかは、各メディアがおのおの判断すればいいことです。ですが、警察発表後、記者クラブに所属する全メディア(=新聞とテレビ)が、一斉に実名報道に踏み切ったことには、強い違和感を覚えました。というのも、過去、人権にかかわる問題を比較的慎重に扱ってきた朝日新聞や毎日新聞、共同通信、TBSなどにとっては、当然、匿名で報道するという選択も考えられるケースだったからです。なのに、警察発表に乗っかり、短絡的に実名報道してしまった。これは、メディアとしての自殺行為だと思います。

──なぜそうした事態が起こったのでしょう?

 記者クラブの横並び意識が原因です。記者クラブメディアは、「他社がやったからウチも」という精神構造になっていて、スクープを取ってきた場合でも、危機管理のため、他社の記者に情報をリークして、同内容の記事を一緒に載せたりすることもあるほどです。海外で記者がこんなことをしたら、談合か剽窃で即クビですよ。2紙に同じ記事が載ったら、アメリカなら偶然でも記者は大慌てで弁解しますが、日本の記者は、ああよかったと安心するんです(笑)。

 要するに、ジャーナリストとしての自己判断に、自信がないんです。だから、他社に倣い、警察発表に頼るしかない。一方の権力側は、年々賢くなっています。東金の事件で、容疑者氏名を発表した際、特別支援学校に通っていたことに触れて、「実名報道するか否かは皆さんの判断です」と前置きしました。私の知る限り、こういう発表の仕方は今回が初めてです。あえて念を押すことで、実名報道の責任を、自己判断力に乏しいメディアに転嫁しようとしたのでしょう。

──日本のメディアにおけるそうした横並び意識と自己判断力の欠如は、今に始まった話ではない?

 ええ。少なくとも、河野義行さんを犯人扱いした松本サリン事件(94年)の頃から、まったく進歩していません。あのときだって、現場には、「河野さんは違う」と考える記者はいたはずです。でも結局、そういった記者が所属するメディアも、記者クラブの横並び意識と依存体質から、自身の取材ではなく、警察発表を信じたんです。

 逆に、記者クラブに入っておらず、そこから情報を得られない雑誌メディアは、すべて自分で価値判断するしかないから、現場の取材を信じて、警察発表に反することも報道できる。もちろん、裏取りの不十分な記事や情緒的すぎる記事などもあって玉石混交だから、新聞やテレビからは「雑誌は野蛮な三流メディア」と見なされます。でも、日本では一流とされている新聞やテレビのほうこそ、記者クラブなど存在しない海外から見れば、三流以下のメディアなんです。

──今後、記者クラブが開放される可能性は?

 あると思いますよ。実際、民主党のマニフェストには、政権を取った場合、記者クラブを開放すると明記される方向です。そうなれば、政治部に続き、社会部の記者クラブも、徐々に開放へ向かうのではないでしょうか。それこそ、横並びの習性で(笑)。

 報道が自己判断によって行われるようになれば、当然、間違いや訴訟も増えるでしょう。でも、報道はしょせん人間が行うものなのだから、必ず間違いは起こるものです。重要なのは、間違えたら率直に訂正をすること。悪いのは、間違えることではなく、間違いを隠そうとする誘惑に負けることですからね。

うえすぎ・たかし
1968年生まれ。フリージャーナリスト。テレビ局、衆議院議員秘書、米紙東京支局などの勤務経験を生かしたジャーナリズム活動は、イラクや北朝鮮の現地ルポからテレビのコメンテーターまで幅広い。批判精神に富んだ目線で書かれた『ジャーナリズム崩壊』(幻冬社新書)など著書多数。

今すぐ会員登録はこちらから

人気記事ランキング

2024.11.24 UP DATE

無料記事

もっと読む