四面楚歌でもはや壊滅寸前!? エロ本出版〈生き残りの条件〉

──思春期男子が決死の思いで購入し、また、幾多のサブカル系著名人を輩出する"アングラ文化のゆりかご"でもあったエロ本が今、衰退の危機にあるという。いったい、エロ本業界に何が起こっているのか?

アダルト専門ショップでも、年々エロ本の売り場面積は縮小される傾向にある。

 かつては男性が最初に親しむアダルトメディアであった、アダルト雑誌、すなわち"エロ本"。しかしやがてAV、そしてインターネットや携帯電話という新しいメディアにその座を奪われ、今や存亡の危機に見舞われている。

 昨年末に29年の歴史に幕を下ろした「SMスナイパー」(ワイレア出版)に続き、この1月には27年目の「オレンジ通信」(東京三世社)が休刊。その他、「アップル写真館」(大洋図書)、「ウレッコ」(ミリオン出版)、「ペントジャパン」(ぶんか社)、「ナイタイマガジン」(ナイタイ出版)と、一時代を築いたエロ本が、ここ数年で次々と消えている。出版不況といわれ、雑誌全体が売り上げ不振に苦しんでいるのだが、その中でもエロ本は目立って厳しい状況なのだ。1990年代のエロ本黄金期には20万部を超える雑誌がゴロゴロしていたものだが、現在では10万部を超える雑誌など数えるほどしかなく、そのほとんどが売り上げを落としている。

 筆者は、アダルトメディアが直面する諸問題について書いた2年前の拙著『エロの敵』(翔泳社)においてもエロ本の危機に触れているのだが、その際「代表的なエロ本」として取り上げた20誌のうち、現存するのは9誌のみ。そして残っている雑誌も、大半が大幅なリニューアルを行い、かつて我々がイメージしていたエロ本とはかけ離れたものとなっている。

 最もわかりやすい変化が、付録にDVDが付くようになったことだろう。今やエロ本の約8割はDVD付き。290円の「DMM」(GOT)や350円の「NAO DVD」(三和出版)といった低価格の雑誌にさえDVDが付いているという時代なのだ。

「DVDが付いていないと、あきらかに売り上げが落ちます。今の読者はAVに慣れすぎて、もう雑誌ではオナニーできなくなっているんじゃないですか?」(アダルト誌編集長)

 もうひとつの変化が、誌面構成。ほとんどの雑誌がオールカラーとなり、ページ数が減っている。かつてのエロ本は、ヌードグラビア中心のカラーページと読み物中心のモノクロページとで構成されていたが、現在では後者はほとんどなくなっており、「エロ」以外の要素は完全に切り捨てられている。80年代~90年代のエロ本ではお馴染みであったB級文化人のコラムなども、完全に姿を消しているのだ。

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 例として、創刊27周年の老舗雑誌「スーパー写真塾」(コアマガジン)の変化を次ページの表に挙げてみた。3年の間に、見た目も内容も大きく変化していることがわかるだろう。サブカル系の濃い読み物ページも充実していた同誌が、あきらかに付録DVDメインの誌面構成へと変わってしまっている。もはや雑誌部分は、DVDの内容を補足するパンフレットであるかのごとき状態なのである。


テープ留めにより読者に変化「エロ以外はいらない!!」

 エロ本にこうした変化が見られるようになったのは、04年頃から。この年、東京都青少年健全育成条例の改正が行われ、全国的にエロ本は表紙をテープで留めて中身を閲覧できないように義務づけられてしまった。

 立ち読みができなくなった以上、読者は表紙ですべてを判断するしかない。かくしてエロ本の表紙は、内容を少しでも読者に伝えるべく、扇情的なキャッチコピーで埋め尽くされるようになった。美しい一枚写真と誌名ロゴだけの洗練されたデザインで評価の高かった「ウレッコ」の表紙も、06年には、細かい文字がビッシリと詰め込まれたデザインに変更されてしまった。

 あるアダルト系出版社のベテラン編集者は、テープ留めによって読者の反応が大きく変化したと語る。

「この頃から、カルチャー記事などエロと関係ない余分なものを誌面に載せるなという声が届くようになりましたね。立ち読みができれば、当然どういう雑誌か判断して購入できますが、中身を見られないと、エロ以外のページがあったときに騙されたような気になるんでしょうね」

 そしてこのテープ留めは、エロ本編集者の編集姿勢にも影響を与えた。

「記事の見出しやキャッチコピーに、それほど力を入れなくなりましたね。中身を見られないと、見出しに力を入れても意味はないですからね」(同)

 編集者がそうした細かいこだわりに注力などしていられない事情もある。以前に比べて編集者の仕事量が、はるかに増えているのだ。それは、前述した付録DVDの制作作業である。

 さらに、DVD付きになっても、制作費は据え置きの場合がほとんどだ。当然編集者は、なんとかしてDVDの制作費をひねり出さなければならない。誌面用のグラビアを撮るついでにメイキング映像を撮影する、企画モデルのハメ撮り動画を撮影するついでに誌面用の写真も撮るなどといった誌面とDVDの連動によって制作費を抑えることなど、いまや常套手段である。

「まず、DVDありきの編集方法に変えました。最初にDVDを作り、その後に本誌を作る。最初は編集者として抵抗もありましたよ。AV作るために出版社に入ったんじゃないと。編集者としては残念ではありますが、エロ本も今は、付録DVDの中身が勝負の時代なんです」(アダルト雑誌副編集長)

AVの広報誌化するエロ本 失われるコンテンツ制作力

 しかし、売り上げ不振などで制作費がさらに絞られるようになると、経費のかかる撮り下ろしページの制作は難しくなってくる。そこで生まれたのが、AVメーカーから素材を借りてくるという手法だ。もともと、毎月AVメーカーから大量に提供されるサンプルムービー(予告編)を入れることは、付録DVDの基本だった。

 しかし1年ほど前から、その種のAV素材に完全に頼り切った雑誌が目立ってきた。その象徴的な存在が、「プレステージ本」と呼ばれる雑誌である。

3時間収録のDVDがハードケースに入れられ2本も付いてくる。今や、珍しくもない光景である。

 ここでいう「プレステージ」とは、近年最も勢いがいいといわれている中堅AVメーカーのこと。「Tokyo流儀」や「WATER POLE」といった人気シリーズを多数抱えており、こうしたシリーズを特集するような形で作られた雑誌が「プレステージ本」。付属DVDのみならず、誌面の写真でさえも、AVの画像で埋め尽くされているのである。

「一冊まるごとプレステージ」(ダイアプレス)、「Tokyo流儀DVD MAX」(三和出版)と、誌名にも同社の名前やその人気シリーズ名が掲げられている。もともとは撮り下ろし中心の雑誌だったのがプレステージ本にリニューアルした例もある。今やその数は、10誌以上に上っているのである。

 借り物の動画と写真で1冊作ってしまうのだから、制作費は抑えられ、しかも売り上げは好調。このためプレステージ本は利益率も高く、不振にあえぐ出版社にとってはありがたい存在だ。出演モデルのルックスにこだわり、カラミ中心でわかりやすい内容の同社AV作品は、雑誌との相性が良かった。

「うちとしては、パブリシティの一環だと考えています。コンビニの棚にプレステージの名前の付いた雑誌が並んでいれば、売れているメーカーなんだなとユーザーに認識してもらえる」(プレステージ広報・小野たかひろ氏)

 最近では、「S級素人」など他AVメーカーの作品を使用した同種の雑誌も多く出版されている。さらに、ひとつのAV作品をまるまる収録する雑誌さえ出てきた。しかも、その付録DVDは、ハードケースに封入され雑誌に挟み込まれている。こうなるともはや、雑誌なのかDVD作品なのかさえ判然としない。誌面は、DVDの包み紙にすぎないという気もしてくるのである。

 自社で撮影をしないため、仕事で生のハダカを見たことがない編集者も少なくないという。一見撮り下ろしのグラビアに見えても、そのほとんどがAVメーカーから提供された写真なのだ。その上、前述した通り、読み応えのある読み物記事を誌面で展開することも難しくなってきている。つまり、エロ本の編集者から、コンテンツを作る能力が失われつつあるのだ。

 多メディア時代において出版社の武器となるのは、まさにこの「コンテンツ」を持っていることだ。他分野においては、雑誌という形態を離れ、携帯電話などでの配信に活路を見いだそうとしている出版社もある。そこで重要になるのが、コンテンツを持っていること、そしてそれを作れることだ。しかし、その唯一の武器さえ失われようとしているのが、現在のエロ本業界なのである。

 AVメーカーから提供された素材を商品にするのが仕事だと思っている編集者ばかりになりつつある昨今。アダルト系出版社が、AVメーカーの広報部という存在になってしまう日も、そう遠くはないのかもしれない。

(文/安田理央)

スポンサーが三くだり半!?
エロ本から広告がなくなる日

 アダルト雑誌でも広告費の減収が大きなダメージとなってきている。しかしアダルト雑誌の場合は、他ジャンルのような、不況によるスポンサーの広告費の削減だけが理由ではない。そこには、アダルト雑誌特有の問題が隠れているのだ。

 まずひとつが、本文でも述べた「テープ留め」による広告効果の低下だ。立ち読みができないため、購入者以外には表4(裏表紙)以外の広告は目に入らない。これは、スポンサーにとっては大きな不満だ。結果、スポンサーは、アダルト雑誌への出稿を控えることとなる。

 もうひとつは、現在アダルト雑誌にとって最も大きなスポンサーである、出会い系メディアに対する規制である。今やアダルト雑誌の広告といえば、大部分が出会い系メディアのそれである。

 しかし昨今、出会い系メディアへの規制が強まっている。昨年末より都道府県の公安委員会への届け出が義務化され、さらに今年2月からは、年齢確認のための身分証明書の提示が必要となった。これにより、出会い系メディアの市場が縮小することが予測されているのだ。当然、広告出稿も大幅に減少するだろう。

 さらに、現在AV情報誌などではAVメーカーが大きなスポンサーとなっているが、実は既存の広告出稿が減った一般誌が、今までは控えていたAV広告の掲載解禁に向けて動き始めている。「SPA!」(扶桑社)のような週刊誌や、本誌のような月刊誌にもAVメーカーの広告は掲載されているし、最近では「漫画ゴラク」(日本文芸社)の表4に、大手AVメーカー・エスワンの広告が登場した。今後AVメーカーがより高い広告効果が期待できる一般誌へ広告費を割いていくことは、十分に考えられるのである。

 以前は、広告に依存しない健全な収益構造を保持していたアダルト雑誌。あの頃のように、実売だけで勝負できれば問題はないのだろうが......。

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