亡き人をめぐって"甘い汁"を吸う墓ビジネスの闇(後編)

(前編はこちら)

"儲け"追求のために悪事に手を染める業者も

都心部では公営墓地の倍率が高いため、埼玉、神奈川、千葉などに墓を求める人も多い。写真は、千葉県の都立八柱霊園。

 こうした中、他業種が墓ビジネスに多数参入してきたことで、墓業界全体のモラルが低下している感も否めない。そもそも不動産業者が墓地"事業"に絡んできたのには、こんな理由があるという。

「バブルがはじけた90年代初頭、高値で買った土地が塩漬けになってしまったんです。安すぎて売ろうにも売れない。そこで、使い勝手の悪い土地を持っていた不動産業者などが霊園開発に乗り込んできたわけです。ちなみに、仮にその土地が市街化調整区域(都市計画法により、原則として新たに建築物を建てたり増築したりすることが禁止されている地域)になったとしても、墓地は公益性が求められる事業なので、作ることが許されています」(前出・石材店店主)

 当初、墓地用に土地を売るだけだったが、さらに儲けようと、後に石材店まで始めた不動産業者もいるとか。

 そして、こうした儲け話では、今では電話一本で荒稼ぎする"墓石ブローカー"まで登場。事務所も持たず、消費者に粗悪品の墓石を売りつけ、売ったら売りっぱなしで、アフターケアもしない。そんな彼らが暗躍する大きな要因となったのは、中国墓石ルートの開拓だという。

 日本ではこれまで国産以外にも韓国、インドなど、外国産の石材を多く墓石として使用してきたが、バブル崩壊後、中国産が大量に入ってきた。安い人材を使い、中国国内で加工まで済ませて日本に輸入される中国産石材。それをブローカーは個人的に輸入し、石材店に横流しするのではなく、自らが販売する。そのほうが、利幅がはるかに大きいからだ。

「ブローカーは墓石を少しでも安価に購入するために、中国でまとめて買い付けています。ダイナマイトで石材を採掘する際、端に小さなヒビが入ってしまったりすることがあるのですが、普通はその部分を切り落とすんです。ヒビの部分が残っていると、そこから水が染みて、寒さで水が凍った拍子なんかに石が割れてしまうことがあるので。しかし、悪徳業者は少しでも儲けようとして、そんな部分も使っている。中国での加工の際に、名前の字を間違って彫ったのに直しもしない、なんて話もよく聞きますね」(同)

 さらには一部で、安価な中国産を最高級のスウェーデン産と偽って売りつけるなど、産地偽装も行われている。しかも、「まったく気づかず、『いい買い物をしたな』と思っているお客さんがほとんどでしょう。石の産地を一目で見破るのは、プロでも至難の業ですから。墓石の場合、値段が高ければ高いほど、死者への弔いの気持ちが強くなると考えるお客さんも少なくありません」(同)という。

 また、そうした遺族の想いにつけ込んでくるのが、一部の「墓相家」と呼ばれる"先生"方。墓相とは、いわば家相の墓版で、墓の場所や建て方、石の種類や形などを見て、その墓の持ち主である家族の運勢を鑑定するというものだ。十数年前、「このままでは災いが降り掛かる」などと人の弱みにつけ込み、高額な墓を買わせるという手口がはびこり、社会問題となった。93年には、細木数子と墓石業者に対して佐賀市の主婦が、墓を買わないと不幸が続くなどと細木に不安を煽られ、相場の数倍の価格で墓石を売りつけられたなどとして、損害賠償を求める裁判を起こしたこともあった(その後、話し合いがつき、訴訟は取り下げられた)。

 しかし、上には上がいるもので、墓地開発絡みで出資金詐欺をはたらく輩まで現れる始末。

「かつて流行した和牛預託商法と同じような手口ですね。具体的には、『高額で売り出される墓地開発事業に出資すれば、墓地が完成した時に多額のリターンが望める』と出資者から金を集める詐欺商法で、当然、墓地の開発は実際には行われていません」(同)

 このように、墓にまつわる黒い話は枚挙にいとまがないが、こうした状況を業界もただ黙って見ているだけではない。墓石販売に一定のガイドラインを設けるべく、全国石材店400社余りで組織されている「全国優良石材店の会」(以下、全優石)の広報・山崎正子さんは、こう語る。

「お墓は代々受け継がれていくものなので、『売っておしまい』という考えの業者を見分けることが大事です。すぐに値を下げて売り急ぐ業者に気をつけて、メンテナンスの説明や保証書があるところを選ぶのもひとつのやり方ではないでしょうか。特に店舗や事務所のない業者は確認が必要ですね。また、店舗や事務所がなく自宅まで押しかけて営業をかけるような業者も危ない。そもそもお墓は、訪問販売で売るような性質のものではありませんから。こうした業者がはびこる中、全優石ではお墓の保証書の発行や、電話で消費者の相談に乗ったりするほか、会員向けの勉強会でトラブルの事例を挙げて情報を共有するなど、業界全体の底上げを図っています」

あと10年で頭打ち?墓ビジネスの将来

 ここまで墓ビジネスの舞台裏を見てきたが、今後、この業界はどうなっていくのだろうか?

「不景気には強い業界ですが、近年では過当競争のため、特に儲かるというほどではありません。ここ10年、1区画当たりのお墓の面積は狭くなる傾向にあります。ただし1平方メートル当たり(単位面積当たり)の永代使用料は横ばいなので、結果として永代使用料は安くなっているのです。区画が狭くなれば、建てることのできる墓も小さいので、当然墓石代も安くなります。消費者にとっては値ごろ感が出てくる一方、売り手としては利益率が下がっているというのが現状です。その中で、無数の石材店が客を奪い合っているというのが実情なのではないでしょうか」(前出・横田氏)

 また、前出の石材店店主も同様に、「中国産の石材が入ってきてから、墓の価格は一変しました。15年くらい前に比べて、一式で65%の価格まで落ちています」とした上で、冷静にこう分析する。

墓を建てるというのは、一家にとって一生に一度の大きな出費。真心のこもった対応をしてくれる、良心的な業者を探し出すことが大事だ。写真は八柱霊園。

「死亡率のピークは、団塊の世代が平均寿命を迎える2020年頃。現在、多くの石材店は、その層に生前から墓を買わせようと青田買いするべく営業をかけていますが、その先は落ちていく一方でしょう。あと10年ぐらいで頭打ちだと思います。また、今は散骨や樹木葬、納骨堂など、新しいスタイルの弔い方が登場していますが、元来、日本人は保守的なので、やはり墓の在り方は大きく変わらないでしょうね。我々の業界は、確かに粗利が大きいといえるかもしれません。でも、だからといって、うちは負い目を感じていないんですよ。墓を売るというのは、ただ石を売っているのとは違う。墓に付随する、『誠心誠意送り出してあげたい』という遺族の亡くなった人に対する想いみたいなものを、達成して差し上げることも含めての商売なんです。高い高いと値段のことばかりがあげつらわれますが、相当額のお金を頂く以上、遺族に満足していただき、同時に長いお付き合いをさせていただいているという自負がありますから」

 全優石の山崎さんも、こう語る。

「お墓というものは、故人と会話する場所であり、感謝する場所であり、そして故人を思い、命の大切さを考える場所です。そうした荘厳な場所を建てているという誇りを持つ健全な業者だけが、残ることを願っています」

 はたして、10年後の墓ビジネスの勝者は、一体誰なのか?

(文/野中ツトム(清談社))

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