──高齢化社会が進む一方の日本で、熱い視線を浴びている墓ビジネス。この好機を逃すものかとばかりに、石材店、開発業者、宗教法人が頭をひねって、アノ手コノ手でボロ儲け! 普段はほとんど語られることのない、不透明な墓ビジネスのヒミツに迫る!
石材店、開発業者、寺がおててつないで強力タッグを組み、霊園開発で手堅く儲けている。
100年に一度と言われる未曾有の金融危機、大不況。それがもたらす急激な景気悪化。株価にせよ、企業の営業損益にせよ、あらゆる数値が右肩下がりになっている昨今、右肩上がりを続けている数値があるのをご存じだろうか。
それは、死者の数。
昨年、我が国の死者数は約114万3000人に達し、戦後最多となった。ビジネスの観点で考えると、人が減る→客が減る→儲けが減るという図式が成り立ちそうだが、実はその逆になる業種がある。
人が死ねば、墓が増える。
そう、墓ビジネスだけは儲かっている、というのは想像に難くない。霊園の応募倍率がそれを物語る。東京の都立霊園では、ここ何年も応募倍率十数倍というのが相場。2003年に43年ぶりに貸し付けが再開された青山霊園では、平均倍率44・1倍となっている。実際、墓地需要は安定して高く、墓ビジネスは高い売り上げを得ているのだ。
では、誰がどのような方法で、どの程度の売り上げを得ているか? 本題に入る前に、まずは基本的な墓地の形態・種類について言及しておこう。
厚生労働省によると、全国には約80万カ所の墓地がある(平成18年調べ)。その内訳は、「個人墓地・集落墓地」(約70万カ所)、各都道府県や市町村などの地方自治体が管理・運営している「公営墓地」(約3万2000カ所)、「民営墓地」(約6万8000カ所)となっている。
民営墓地(民間霊園)はそのほとんどが宗教法人、いわゆる"お寺"によるもの。そして、その宗教法人が管理・経営する墓地にしても、「民営公園墓地」(一般的に宗旨宗派を問わない)と、寺院などに付属している「寺院墓地」(その寺の檀家のみが入れる)の2種類に分けられる。「墓ビジネスで儲けている」といわれる場合、一般的にはこの民営墓地を指す。中でも民営公園墓地が舞台となることが多いので、本稿ではそれを中心に見ていくこととする。
次に押さえておきたいのが費用。墓を建てるには、石材店への墓石建立費(石材費や工事費など)、開眼供養や納骨法要にかかる僧侶への費用のほか、管理者に支払う年間管理費が必要となる。
そして、重要なものがもうひとつ。あまり聞き慣れない言葉かもしれないが、「永代使用料」が必要となってくる。これは、「その土地を子々孫々の代まで永く使用する権利」を保証してくれるもので、墓を建てるには土地を購入するのではなく、この「永代使用権」の料金を墓地の経営主体である宗教法人に支払うというわけだ。
石材店、開発業者、宗教法人 甘い汁を吸いまくる人々
冠婚葬祭にまつわる費用はとかく不透明だが、それぞれどのくらいの金額なのか? 関東圏の民間霊園で墓石一式を揃えた場合の平均金額約200万円を例に、その内訳を都内近郊の某石材店店主に聞いてみた。
「墓石建立費が150万円、永代使用料と納骨法要費はセットで50万円、年間管理費が1万円程度ですね。我々石材店が頂く墓石建立費についてですが、一般的な相場でいえば実はおよそ5割(75万円)が粗利益となります。残りの半分は、石材の原材料費や加工料、そして広告費などに充てられます。なので、利益率は非常に高いですね。ただし、大規模霊園の場合は宣伝費が大きくなるので、利益率は少し低くなります」
やはり、オイシイ業界であるのは間違いないようだ。
そして、石材店の中にはさらに甘い汁を吸おうと、自ら霊園開発を手がける者も少なくないという。前出の店主がこう続ける。
「公営墓地の供給数には限りがあり、墓不足の状況を受けて、20年くらい前から宗教法人、石材店、あるいは不動産業者や、昔からの地主と開発業者が手を組んだ、民間霊園の開発が増えています。墓地や墓石の販売には特に資格もいりませんから、都道府県知事の事業許可さえあれば可能なんです」
だが、本来ならば墓ビジネスというのは、「墓地、埋葬等に関する法律」(墓埋法)により、永続性および非営利性が条件となっているため、宗教法人等以外には許可が下りないはず。にもかかわらず、このような営利企業による墓ビジネスがまかり通っているのは、なぜなのか? そのカラクリはこうだ。
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「最初に不動産業者など土地を持った"地主"が、墓地の開発を専門に取り扱う業者に委託。業者は、数社程度の石材店に霊園開発の話を持ちかけます。それで、石材店が信用できる寺などの宗教法人に行き、『そちらの名前で(墓地経営を)やらせてもらえないか?』と説得するんです。そこで承諾がもらえたら、"宗教法人主体による事業計画"として都道府県の役場に申請し、許可を受けます」(同)
いわゆる"名義貸し"である。左の図を見ていただきたい。石材店と開発業者は、手数料と引き換えに寺などの宗教法人から名義を借り、それをお飾りの運営母体に据えることで、行政から事業許可を得ている。つまり、実質的に墓地経営の実権を握るのは、宗教法人ではなく石材店と開発業者というわけである。
社団法人全日本墓園協会の主任研究員である横田睦氏は、この仕組みについてこう語る。
「そもそも、名義貸しについての明確な"定義"というものはありません。例えば、実質、外部の管理会社に業務を委託しているケースがあるとします。そうなると、状況としては名義貸しなのではないか、という方もいます。でも、お寺自身、大規模な墓地を経営するとなれば、住職個人が管理業務を行うのは物理的に不可能なわけですし、現に公営墓地でさえ、管理業務を民間に委託しているという場合も珍しいことではありません。ですから、その宗教法人が本当に名義貸しをしているのかどうか、その見極めにはどこの行政も苦労している状況なのです」
近年は寺離れが深刻化し、檀家の減少でお布施も減り、生活苦の住職も多いと聞く。そんな彼らにとって、名義貸しは旨味のある話なわけで、「1人の住職が、3つも4つも寺院の運営を兼務しているという話は山のようにある」(前出・横田氏)という。
そして、オイシイのは寺だけではなく、石材店も同じだ。霊園開発に参加した石材店には、それぞれ出資した金額に応じて区画販売の権利が与えられている。これにより、その区画に関しては独占的に墓石の販売が可能となり、購入希望者は霊園側が指定する石材店からしか購入できなくなる。これを、「指定石材店制度」という。石材店は事前に永代使用権を運営母体から全部買い上げ、その永代使用権と墓石を一緒に販売し、開発費用を回収するのと同時に、墓石の代金分を儲ける仕組みになっている。ただし、購入希望者にとっては別の石材店がよくても許されず、選択肢の少ない中で墓石を選ばなければいけないため、この制度に対しては不満の声も多いようだ。
(後編へ続きます)
(文/野中ツトム(清談社))
(絵/都築 潤)