ニワトリのエサが飲食店に流通!? 表面化しにくい外食産業"偽装の闇"

「毒ギョーザ」「事故米(汚染米)」など、物騒な見出しがメディアに躍った08年の食品業界。だが、こうした問題では製造元や流通経路、そしてそれらを販売する小売店ばかりがクローズアップされてきたが、実際に商品を仕入れ、加工し、消費者に料理を提供する"外食産業"にまで話題が及ぶことはあまりない。その背景には、表示義務を定めた法律の欠陥があると言われている。一時話題となった「回転寿司のネタ偽装」を徹底的に追及したジャーナリストが、外食産業の"闇"を指摘する──。

 1月の中国産冷凍餃子への毒物混入にはじまり、7月にはウナギ卸業「魚秀」などが中国産ウナギを有名ブランド「愛知県一色産」に偽装、9月には有害物質メラミン混入の恐れがあるとして「丸大食品」が菓子などの商品を自主回収するなど、安全神話が完全に崩壊した08年の食品業界。だが、これらはスーパーなどの小売店が扱う商品だけにはとどまらない。同じく9月に発覚した「三笠フーズ」問題では、発がん性のあるカビ毒や高濃度の殺虫農薬に汚染された工業用事故米を食品メーカーや外食産業へ不正転売したことで、日頃から口にする"外食"の安全性が問題視された。

『回転寿司「激安」のウラ』(宝島社)で回転寿司のネタ偽装を追及したジャーナリストの吾妻博勝氏は、「コメ業界では当たり前のように行われてきたことだが、こうした不正が表沙汰になるのは氷山の一角」だと、外食産業での食品偽装に警鐘を鳴らす。

「国が5年も6年も備蓄した超古米は、豚やニワトリのエサ、いわゆる『飼料米』として米卸業者に払い下げてきた。しかし、私が知っている卸業者は『実際は飼料に使わず、人の口に入る主食として売り捌いてきた』と語っていました」(吾妻氏)

 業界では、前年産が「古米」、前々年産が「古古米」と呼ばれ、それより古いものはさしずめ「超古米」ということになるが、要は、国から仕入れた飼料米を業者側が正規米に混ぜて外食産業に卸しているという構図である。

 粘り気もツヤもなくなった、これら古米は、ある食品添加物を入れて炊くと新米のようになるというが「どんなに古いコメでも、カビ毒や過剰な残留農薬が含まれていなければ人体に害はありません。しかし、外食産業で使われる古米には、白い粉末の『グリシン』がまぶされています。これは国から使用を認められているものの、日本や米国の専門家からは毒性を指摘されている」と、吾妻氏は続ける。

「そもそも一粒ずつ確かめる人なんていないから、飼料米が混ざっているか、わかるわけがない。飼料米は1キロ60〜80円で、正規の米は1キロ200〜300円だから、飼料米を混ぜた分だけ卸業者は儲かるし、値段を下げて卸すこともできる。外食産業だって安い価格で食事を提供できるようになるんです。味も見た目もごまかすことができるから、特に牛丼や天丼といった丼ものなんかに使われることが多い。ロボットに握らせる回転寿司のシャリだってそう。
ニギリは一個ずつ機械で切断されるため、断面を見て飼料米とわかる人はひとりもいないはずです」

 こうしたインチキなコメが出回っている一方で、有名ブランド米でも偽装は行われているという。

「『新潟産コシヒカリ 新米100%』という触れ込みでも、実際は飼料米や超古米が10〜20%入っていることが珍しくありません。かつて中国、米国産のコシヒカリ100%が『新潟産コシヒカリ100%』として売られたことがありました。当の卸業者は同業者の告発により逮捕されましたが、偽装に気づく消費者はほとんどいませんでした」

 また吾妻氏は、コメとともに日本人が好んで食べる牛肉についても、「外食産業では産地偽装が日常茶飯事」と疑問の目を向けている。昨年6月、食肉卸販売会社「丸明」が"偽装"飛騨牛を販売していたことなどから、消費者は牛肉の産地偽装に対し厳しい目を向けるようになった。だが、実際は飲食店では偽装牛肉を提供していることが非常に多いのだという。

「これもインチキがバレてしまったが、有名な『船場吉兆』だけではなく、『ヒルトン東京』のフレンチレストランでも牛肉の産地偽装は行われていました。まあ、最も値段が張る松坂牛にしろ、それに続くブランドである神戸牛、近江牛にしても、そのほとんどの素牛(子牛)は兵庫県で生まれた但馬牛。それを子牛のセリ市場で30万〜100万円で買って、それぞれの地元(繁殖を行わない肥育農家)で育てるだけの話。兄弟姉妹でも、姉が松坂へ、妹が飛騨へ、兄が近江へ、弟が前沢へ行くと、ブランド名が変わって値段に差がつく。同じ血筋の牛が育った場所によって呼び名を変えるだけで、一頭がセリ市で一億円で落札されることもあるわけだから、牛肉の世界も摩訶不思議ですよ。『育てる』といっても、『ビールを飲ませているから肉がやわらかい』とか、『全身に焼酎をぶっかけてマッサージをやっているから肉質がいい』とか、ほかのブランド牛との差別化のために手法を変えているだけです」

大腸菌入りのオシボリ? 食品以外の"危険性"

 ここまではコメと牛肉を例に取り上げたが、"ささやき女将"で話題になった「船場吉兆」などの例はともかく、卸業者や食品メーカー、小売業に比べて、外食産業での食品偽装はマスコミに取り上げられにくい。

「偽装しても、それを規制するJAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)が外食産業には適用されないからです【※】。これは、日本の外国大使館が持つ治外法権と同じで、もともと原産地表示の義務がないんだから、どんな米を使おうが、どんな牛を使おうが違法にはならず、いわば偽装は野放し状態」(吾妻氏)

 さて、こうした問題は大手の外食産業に見られる話だが、個人経営の飲食店では食品だけでなく意外なものにまで人体への危険性が及んでいるという。

「おしぼりで顔を拭いたときに、翌日になるとまぶたがむずがゆくなってものもらい(麦粒腫)ができてしまうことがあります。これは、保健所の許可を取らず、モグリで営業している会社によるものと考えられます。会社の中には、
暴力団のフロント企業とも目されている業者も存在しており、まともな業者を使えば普通は月に1万円程度で済むものが、暴力団ルートの業者になると月に数万円以上支払うなど、ミカジメ料としての役割も果たしている。もちろん非合法だから、衛生基準もなく、大腸菌や黄色ブドウ球菌に汚染されたものが少なくない。塩素入りの漂白殺菌剤が義務付けられた正規の貸しおしぼり業者と違って、ろくにすすぎもせず、生乾きで袋詰めするから雑菌も入る。そんなもので顔や手を拭けば食中毒だって起こしかねませんよ」

 それでは最後に、こうした問題点を抱える飲食店はどのようにして見抜けばよいのか聞いてみた。

「外食するときは、同席者に失礼にならない範囲内で、食材の産地などを店のスタッフに聞いてみる習慣を身につけることです。それに真面目に答えられるような店なら少しはマシ。とはいっても、より悪質な場合は店ぐるみで口裏合わせて偽装をしているわけだから、見分けようがない。極論を言えば、つとめて外食しないことですよ」

 食の安全がないがしろにされた原因には、80年代後半のバブル景気以降、安くて美味いものを求めた一億総グルメ化による飽食にある。その一翼を担った外食産業は言うまでもないが、それを求めた消費者の責任もゼロではない。たとえ飲食店のメニュー単価が上がるとしても、原産地表示の義務化を外食産業にも適用させるなど、誠実な飲食店経営が急務であろう。

【※】......JAS法では、特定の品目で、「生鮮食品として加工」して、「その割合が50%以上」ある材料については、単に製造地のみではなくその材料の原産地を表示する義務がある。しかし、それはスーパーなどの小売店やメーカーに限られており、飲食店にはその表示義務はなく、ガイドラインが設けられているのみである。

(文/大貫眞之介)

吾妻博勝 (あづま・ひろかつ)
1948年、福島県生まれ。学生時代に旧ソ連を旅したのを機に、世界各国を放浪。帰国後、マスコミの世界に入り、98年まで「週刊文春」記者として活躍。その後、フリージャーナリストに。著作に『回転寿司「激安」のウラ』(宝島社)『鯛という名のマンボウ アナゴという名のウミヘビ』(晋遊舎)など。

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