WHOが主導となり、世界的には全面禁煙という流れに向かっている中、日本は外務省、厚労省、財務省によって思惑が異なり、対応のちぐはぐさが海外からも非難の的に。(写真はイメージ)
「ニコチンパッチ」なる禁煙グッズの人気が高い。同市場で最大シェアを占める『ニコチネル』の発売元・ノバルティスファーマ社によれば「すでにニコチンガムの2倍以上の市場規模に拡大」(同社広報)と、その広がりを実感。利用者の声も「貼って数時間で、不思議なほど吸いたくなくなった」「貼りながら吸うと気分が悪くなる」と、総じて評価は高そうだ。
ニコチンを含有するシール状のパッチを肌に貼り、常にニコチンを吸収しながら「吸いたい」気持ちを抑制。ニコチン度数の低いパッチへ段階的に切り替えながら、最終的に体内のニコチン濃度をゼロへと導く。これまで日本では、保険適用外の医薬品として医療機関のみで使用されてきたが、06年から保険が適用され、08年4月から一般の薬局で販売できるOTC薬品として認可されると一気に需要が拡大した。
保険適用後、それまで2916カ所だった禁煙外来の実施医療機関は今年11月現在までに約5000カ所に拡大。そのひとつである中央内科クリニック副院長の村松弘康氏は、「意思の力だけで行う禁煙より、身体的依存が緩和される分だけ楽に禁煙できる」と、パッチの効果を認めている。
ニコチンを摂取しながら行うこうした禁煙方法は、ニコチン代用療法と呼ばれ、欧米では早くから普及。オバマ次期大統領が、立候補に先立ち、奥さんの勧めでニコチンガム『ニコレット』で禁煙に成功したのは有名な話だ。
ニコチンパッチは、08年ヒット商品番付(「日経トレンディ」発表)で、20位にランキングされた。
そんなニコチンガムと比較しても、「口中の粘膜の毛細血管から直接ニコチンを吸収させるガムより、皮膚を通して吸収するパッチは効き方が優しく、さらに貼り続けるため体内のニコチン濃度が一定に保たれ、禁断症状が出にくい」と村松氏は説明。また、ニコチンを吸収し続けることについても「ニコチンは依存性があるが、発がん物質は含んでいない。タバコの発がん物質は、成分を燃やすことで発生する」として、パッチの有益性を強調している。
それでは、ニコチンパッチは、なぜ今まで日本で保険が適用されなかったのか? これについて「国が財源確保のために合法ドラッグというべきタバコを売り続けている現実がある」と指摘するのは、「タバコ規制枠組み条約推進国民会議」(千代田区)の某幹部だ。「JTの株式の50・02%を財務大臣が保有していることは、意外に知られていない。事実上は国営企業。JTを隠れ蓑に、年間2兆円を超えるタバコによる税収確保のため、禁煙政策潰しをしてきたのがこれまでの国策なのだ」と手厳しい。さらに「JTの歴代社長は全て財務省の天下り」であることも構造上の問題として指摘する。
ニコチンパッチ
今年から薬局での扱いも開始されるようになった禁煙グッズ。パッチによりニコチンを体内に吸収させることで、禁断症状なしに禁煙ができる。もちろん、効果には個人差があるのであしからず。
WHOでは昨年、禁煙へ向けたさらなる厳格なガイドラインを各国へ示すとともに、これに基づく全体会議を同年6月にタイ・バンコクで開催。実はその席上で、参加126カ国の中で唯一日本だけが、全面禁煙に一歩近づくことになるこのガイドラインの採択に異論を唱えている。会場に居合わせた先の幹部は、その様子をこう語る。
「財務省の官僚も加わったKYなこの日本代表団の目的は明らか。ガイドラインを曖昧な言辞のままにしておき、当面は何も規制をさせないという意図です。だが、そんな姿勢は即座にパラオやインドの代表団に叩かれて青くなっていた。その後、日本代表団は昼食も取らずに本国へ電話をかけまくっていたが、結局は午後に要望を取り下げて、満場一致で採択。日本は恥をさらしただけです」
この幹部によれば、06年にようやく認可されたパッチの保険適用は、一連のこうした"外圧"と無関係ではないとした上で、「タバコ行政に潜む国の思惑と自分達の利害をしっかり見据えることが重要」と、国が覆い隠そうとするタバコの弊害に対する世界的な潮流についての「知る努力」を、一般国民にも強く求めている。
CMですっかりおなじみになったニコチンパッチ。気軽に買えるようになった裏には、そんなお国の事情が絡んでいたようだ。
(浮島さとし)