ネットのガセネタを「追え!!」と叫ぶデスク......現役記者が吐露する大手新聞"危機感"の決定的欠如

――「ネットニュースなんて見ない」「速報速報で疲労困憊」「いい記事書くのがおれらの仕事」…… 現役新聞記者たちが語る、「記者にとってウェブメディアって、ぶっちゃけ××なんです!!」

【座談会出席者】

A…大手紙経済部記者
B…大手紙社会部記者
C…大手紙政治部記者
日本を代表する通信社、共同通信のウェブサイト。新聞社のそれと違って、非常にシンプルな印象がある。

A 新聞社のウェブサイトができて10年以上たつけど、普段は各社のウェブや「Yahoo!ニュース」なんかのポータルサイトって見てる?

B 正直言って、あんまり見ないね。

C 僕も意識してないな。実際現場にいればわかることだけど、普通、ネットには特ダネなんて出さないからね。やっぱりもともとが紙媒体なんだから、紙を優先するのは当然。

B ただ、公の場で政治家の重要な発言があった、といったような場合は、ネットにも出すし、各紙がどういうニュアンスで書いたのか、どこまで踏み込んでいるかが気になるので、チェックすることもあるけど。

A 記者同士の間でも、あまりウェブは話題に上らないね。逆に、自分の記事がウェブに載ると気になる?

B いや、あんまり。記者の仕事は取材して書くこと。あとは煮るなり焼くなり好きにしてもらっていい。

C ウェブのことはウェブの人がやってて、気付いたら載ってるなという感じだね。取材相手から、「先日は『Yahoo!ニュース』に載せてくれてありがとうございました」なんて言われることがあるけど、僕はまったく何もしてないし、新聞よりもYahoo!JAPANか……と微妙な気持ちになるね(笑)。

A 逆に、「こういうトーンで掲載されたい」という書き手の意図に反して、PV稼ぎのために面白おかしい見出しをつけられて、取材相手からクレームがつくこともある。

B あと、ウェブは速さを求められてるから、今までは朝刊と夕刊の締め切りだけだったのに、ウェブの速報用の短文を書かなきゃいけなくなって、作業は増えたね。そうなったのは、ここ1年くらいの話だけど。

C 面倒だよね。特に経済部や運動部は、大変らしくて、株価情報や試合経過なんかを、取材しながらも速報用に書かなきゃならない。

A 右から来たものを左に流すって感じだね。アメリカなんかでは、速報は通信社、新聞社は論評というふうに役割が分化してる。日本にも時事通信と共同通信っていう通信社があるんだから、そうすればいいのに。

B そもそも通信社は体制が違う。例えば事件の会見の場合、新聞社は記者ひとりで記事を書くけど、通信社は3人くらいで会見を聞いて、殺人の動機が明かされた時点でひとり目が抜けて速報を出しに行って……というやり方をしてるんだから、新聞がそれに対抗しようと思うのは無理。毎日がMSNに配信してた時は、通信社に張り合って、「通信より早く記事を出せたら金一封」とかやってたらしい(笑)。まあ、結局あまりうまくいかなかったみたいだけど。

芸能ニュースが注目されて社内序列が崩壊するかも!?

C あとは、やっぱり内容的な変化かな。予算案や社保庁問題といった堅い記事よりも、「リア・ディゾン妊娠!」みたいな軽い面白ネタのほうが、断然受けるからね。

A さすがに、ウェブの受けを意識してネタを選んだり、記事を書いたりってことはあんまりないけどな。

B 逆に、紙で書けなかったネタをウェブでやれるのはいいよね。紙だと「新聞にこんな記事が載ってるのはけしからん」なんていう読者からの声があって、はっきりいってうるさいと思うこともあるからさ(笑)。

C 産経の「iza!」 にとって「法廷ライブ」はキラーコンテンツになってるけど、あれなんかウェブの強みをすごく活かしてる。裁判なんて、紙では取材メモの一部分しか記事にならないけど、ウェブでは全部が記事になるんだからね。

A そういう紙とウェブの違いが、社内序列にも影響してきてる気がする。序列はスクープの出る部署かどうかで決まるから、普通、社会部、政治部、経済部が花形で、文化部、運動部は底辺。特にベタ記事(新聞の下段にある一段記事)にしかならない芸能なんかは軽く見られてた。でもウェブじゃ、「リア妊娠!」がすごいPVを獲得したりするわけで、文化や芸能の記者は、そこに活路を見いだしてるかもしれないね。

C 記事の面白さと信憑性は別の話。「J-CASTニュース」なんかは面白いけど、ノーコメントと言われるのは承知の上で、関係先に電話を1本入れただけの記事も多いしさ。

B ああいうふうにできたら楽だろうけど、一般紙の記者の場合、そうもいかないもんね。

A ウェブに限らず、スポーツ紙とかでは、ネタの信憑性が五分五分なら載せちゃうし、結果的に違ってたとしても、誰も責任を取らない。ただ、他紙に載ったネタは本当だろうって考えてるデスクは多いから、記者から見ればガセだとわかるネタでも、追わされることも多いんだよね。

B まあ、情報といえば情報のうちだし、新聞ではやれないけど、ああいうのがあってもいいけどね。

C 信憑性もトーンもバラバラな記事が同列に並んでる「Yahoo!ニュース」ってどう思う?

A 新聞社としては、やっぱり嫌だよ。今までどの記事を1面に載せるか、自分たちのルールでやってきたのに、それ以外のルールに従わなきゃいけなくなってるわけだから。

B でも、自社サイトだけで「Yahoo!ニュース」と競争するのは無理。あらゆるニュースを載せてる「Yahoo!ニュース」の網羅性には、対抗できないよね。

C そのせいで重要なニュースが埋もれちゃうってことに関しては?

B 埋もれるとしたら、それだけの記事だったってことなんじゃない?

A じゃあ、新聞業界全体としては、今後どうなっていくと思う?

B 新聞を読む習慣がなくなりつつあるのは事実だし、業界再編は免れないと思う。ただ、どうやって生き残るか、みたいな危機感は、実はあんまりないんだよね。記者は専門職で、経営のことはほかの人が考えてくれ……と思っちゃって。

A ウェブだけが社運を担ってるって感覚もないよね。これからは新聞、雑誌、ウェブなんかを含めた総合メディア化していくんじゃないかな。

C 記者は、載る媒体が変わっても、ちゃんと取材をして記事を書く、という本質に変わりはないという意識が強い。まあ、これから新聞はいっそう、コンテンツの中身で勝負していくべきなんだろうね。わかりやすいかどうかや、面白いかどうかを考えるというのは、新聞が今まで一番やってこなかったことだから、今後の課題になっていくと思う。

B これからウェブも含め、新聞以外のことを意識していかなきゃなあ、とは思うんだけど……。

A まあ、記者ってホント、ウェブメディアはあまり見てないし、気にしてないんだよね。そういう意味では、記者が読まないもの、読みたくないものを載せれば、手っ取り早く世の中で読まれるものができるってことになるのかな(笑)。

(文/松島 拡・西川萌子)

取材拒否の毎日さん!!

「それでもメディア企業ですか?」

 今回の特集に当たり本誌は、朝日、産経のほか、読売、毎日、日経にも取材を申し込んだ。全国紙5紙すべてを公平に比較検討することで、新聞のウェブ化の生の姿を読者により正確に伝えられるだろうとの意図からだ。朝日産経の2社は、リンク元参照の通り、自社のウェブ化について詳しく解説してくれた。

 一方で、残り3社には取材を拒否されてしまった。もちろん、取材を受けるか否かは先方の自由だ。「企画に興味はあるが、経済専門紙という立場の違いがあるため、今回はお断りしたい」(日経新聞社編成部担当者)、「申し訳ないが、当社よりウェブに力を入れている新聞社に取材してほしい」(読売新聞社広報部担当者)という理由はまだ理解できる。ただ、毎日新聞社は、「企画書や貴誌の過去記事を読んで検討した結果、取材に応じられないと判断した」(社長室広報担当者)というのみで、満足な回答を与えてくれなかった。どうにも納得しがたかったが、明確な拒否理由についてはついに言及されなかった。この対応は、約388万部を発行する新聞社として、また取材協力者によって成立している報道機関として、狭量にすぎるのではないか。なお、少なくとも今回の特集では、例の「WaiWai」問題【編註】を追及する意図はなかったことを明記しておく。

【編註】毎日新聞社の英文サイト「毎日デイリーニューズ」のいちコーナー「WaiWai」に、低俗で怪しい内容の記事を長年掲載していたことが今年5月頃に表面化し、騒ぎとなった問題。引用元として、なんとサイゾーの記事も挙げられていたが、元記事内に「WaiWai」の記事にあるような表現は存在せず、毎日新聞社は謝罪に追い込まれた。

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