――左派からは批判され、保守派からは称賛された、中山前国交相の「日教組は教育のがん」発言。だが、若い世代には「日教組」と聞いてもぴんとこないのが、正直なところ。日教組批判本を例とし、 "リベラル保守"派を自認する右派論客に、 "日教組は悪だ"とするそのいわれを聞いた。
西村幸祐氏。
9月、中山成彬国土交通大臣(当時)が、「日教組の強い県は学力が低い」などの失言問題で在任わずか5日間で引責辞任したのは記憶に新しい。中山氏はほかの発言については謝罪したが、日教組への言及については失言ではないとし、その上で、「日教組は教育のがん」と吐き捨てた。
日教組(日本教職員組合)とは、約30万人の組合員を抱える日本最大の教職員組合を指す。全国に加盟組合が存在し、「教師は学校を職場として働く賃金労働者」「団結こそ教師の最高の倫理」とする方針を掲げ、日本国憲法と改正前の教育基本法の精神を軸に活動している団体だ。ちなみに、組織力・影響力が強いのは、沖縄教組、広島教組、三重教組とされる。本稿では、「日教組はがん」発言に賛同するリベラル保守の右派論客・西村幸祐氏をお招きし、氏が勧める教組批判本を元に、日教組を悪とするゆえんを聞いた。
日教組をがんと呼ぶ理由──1
「反日左翼的な政治思想にのっとって子どもたちを洗脳・差別している」
──批判派が挙げる日教組の問題点は、大きく3つあるとか。まず、そのひとつである特定の政治思想とは、どういうものなのでしょうか?
西村 私が責任編集をした『誰も知らない教育崩壊の真実』【1】の冒頭にも書いたのですが、日本を悪とする誤った歴史を刷り込むなど、日教組の教師は極端に反日左翼的な政治思想観で子どもを教育するんです。たとえば歴史の授業で南京事件について触れる際、ことさら日本を悪く言って、『日本はこんなにひどいことをした!』と泣きながら授業をする先生もいるんですよ。日教組は旧社会党の流れをくむ民主党を支援していますが、男女共同参画など、民主党が掲げる教育政策にも日教組の影響が色濃く見えます。
──『いいかげんにしろ日教組』【2】にもそうした偏向教育の実態が書かれてましたが、本当にそんな先生、今もいるんですか!?
西村 ええ、いますよ。それに、そもそも授業で使われている歴史教科書の内容自体が日教組によって史実をねじ曲げられて記述されているんです。『教科書採択の真相』【3】に詳しくありますが、中学校で一番シェア率が高い東京書籍の教科書なんてひどいもの。日清・日露戦争は侵略戦争だったと平気で書いてありますからね。また、自虐史観を子どもに植えつけるだけでなく、国のために働く自衛官や警察官の子どもをいじめたりする日教組教師もいます。僕が中学生のとき(60年代半ば)には、「自衛隊は戦車で人殺しをしている」などと、自衛隊の子どもをバカにする日教組の社会科教師がいて驚きましたよ(苦笑)。このような日教組のマイナスの部分はあまり報道されませんが、たとえば00年に東京都国立第二小学校で起こった校長土下座騒ぎ(卒業式に国旗を掲揚した校長が日教組教師に扇動された生徒たちの抗議を受け、土下座させられた)のように、反体制的な、日教組が活躍した出来事は大きく報道されますよね? なぜかというと、戦後のメディアを支配し続けてきた 反日左翼的なものを尊重する という基本姿勢がいまだに根強く残っているからだと思います。実際、日教組は校長を自殺に追い込むようなこともしているんですよ。
日教組をがんと呼ぶ理由──2
「日の丸や君が代には断固反対!"教育の場"で政治活動している」
──次は、『中山成彬はなぜ日教組と戦うのか』【4】ですね。日教組の運動方針は国旗・国歌反対、道徳教育反対、護憲、反自衛隊などと書かれていますが、政治活動とは、具体的にはどんなことを指すのですか?
西村 これは『マンガ日狂組の教室』【5】にもわかりやすく描かれていますが、前述の国立二小の騒ぎのように、日の丸・君が代を悪しき国家主義の象徴として国旗掲揚・国歌斉唱をボイコットし、それを生徒にも暗に強要する日教組教師がザラにいます。自分が政治活動をするために、平気で授業を休む教師もいますよ。さらに日教組には組合専従の教師もおり、ほぼ出勤せずに政治活動に明け暮れている者もいます。こんな政治活動家なのか教師なのかわからない者たちが教育の現場にいると、当然教育に対するプライオリティが低下していくわけですよね。そういう異常教師がはびこる地域は、学力も低くなる。また、学校で選挙活動を積極的に行う日教組も存在します。04年の山梨教組教員による政治活動問題が一番顕著だと思いますが、山梨教組の元委員長で、現在民主党の参院議員会長の輿石東氏が第20回参院選挙の際、山梨教組の教師たちに声をかけ組織的に政治資金を集めて、投票を促しました。保守メディアの産経新聞以外では報道されませんでしたが、明らかに法律違反ですよ。
──しかし、最近では日教組の加入率が全盛期(60年代前半)の半分以下に落ち込み、組織率が低下しているとも聞きます。現在は、そこまで影響力は強くないのでは?
西村 冷戦終結後、左派の失速に伴い日教組の組織率は下がりましたが、だから教育が良くなったかというとそうじゃない。『「日教組」という名の十字架』【6】に詳しくあるように、冷戦時代は文部省(当時)を代表する教育組織=教育委員会と日教組は対立関係でしたが、冷戦後は文部省が日教組に歩み寄ったんですよ。その結果、日教組の支援を得ないと教育委員会内で役職に就けないという地域も出現し、より深刻な事態になっています。大分県教員採用試験の汚職事件も、日教組が教育委員会を侵食しているから起こったこと。大分は日教組の組織率が高いですが、組織率の高低にかかわらず、1人でも過激な日教組組合員がいれば、その影響はすさまじいものなんですよ。
日教組をがんと呼ぶ理由──3
「小3にコンドーム指導! 教育者の立場を利用し、社会に悪影響を及ぼす」
──【1】や【4】では、日教組のジェンダーフリー教育や平等教育が及ぼす悪影響について言及されていますね。
西村 ジェンダーフリーとは男女の性差を極端に無視し、小学校低学年から過激な性教育を行って性に対する憧れや羞恥心など人間的感情を根こそぎ奪い、子どもを植物的な人間にする教育です。"中学生からセックスしてもOK"と平気で教える教師もいますからね(苦笑)。また、日教組は"教師も親も皆平等で"というような、おかしな平等教育も行っています。そのせいで子どもと親・教師の上下関係が崩れ、学級崩壊・家庭崩壊を招いているのです。
──かなりカゲキな批判ばかりが飛び出しましたが、では逆に、日教組のいい部分はどこですか?
西村 う~ん、ないですね(笑)。ただ、日教組にもまともな先生は多くいます。職務を逸脱し、自分の政治思想を露骨に教育の場に持ち込む教師が一部にいることが問題なんですよ。こんな教育を続けていると日本人であることに誇りを持てないだけでなく、モラルの欠けた国民が増え、やがては国家が解体してしまいます。また、田母神前航空幕僚長の論文騒動しかり、マスコミ全体の偏った報道も日教組をはじめとする左派を増長させていると思いますね。
ぶっちゃけ日教組本部も教師の暴走に困ってる!?
一方で、これらの保守派の批判について日教組本部広報部に聞いてみると、こうした反論が返ってきた。
「日教組本部としては、国旗・国歌の反対や反道徳教育などを都道府県の組合に強要していません。ただ、各地に過激な組合員が存在することは確かで、彼らの行動が目立つと本部のほうに苦情が来るので、私共も困っている状況です。思想・表現の自由があり、そういう組合員に価値観を押し付けることはできませんから。自衛隊や警察官の子どもを差別する、北朝鮮を賛美しているといった指摘ですが、それは過激なOBや元組合員による行いです。政治活動については、授業を休んでデモや座り込みに参加した組合員は罰する規定が設けられています。それに、そもそも激しい活動をする者は、91年に日教組から分裂した共産党系の全教(全日本教職員組合)のほうが多いんですよ」
では、ジェンダーフリー教育や平等教育についてはどうだろうか?
「ジェンダーフリーは、この単語自体がまだ市民権を得ていない状態で、日教組内部でも議論している最中です。中学校で男女一緒に着替えさせるとして問題になった学校もあるようですが、本部では、男女別の更衣室を設けるように働きかけています。また、平等教育が学級崩壊を招くというのは誤り。平等教育は、教師と児童は大人と子どもの関係であり、教師が"子どもの言うことだから"と、児童の立場を軽視してしまわないために勧めている方針です」
また、「これまで日教組は内向きな組織でしたが、"チェンジ"すべきだと思っています。今後は文科省など外部と話し合う機会を積極的に設け、プロとしてより良い教育を行っていきたいです」と、現状を打破しようとする姿勢も見受けられた。
本部と加盟組合との連携がうまく取れていないことが日教組批判を生む元凶のようだが、少なくとも過激な組合員やOBの存在を「困っている」と他人事のように言っているうちは、批判はやみそうになさそうだ。
(文/遠藤麻衣)
西村幸祐(にしむら・こうゆう)
1952年生まれ。評論家。ジャーナリスト。「撃論ムック」シリーズ(オークラ出版)編集長。「表現者」(ジョルダン)編集委員。F1、サッカーを中心に執筆活動をしていたが、日韓W杯を機に拉致問題、歴史認識、メディア批判の評論を展開。著書は『「反日」の構造』(PHP研究所)など。ブログ「酔夢ing Voice」は1000万アクセス達成。
【1】『撃論ムック 誰も知らない 教育崩壊の真実』
西村幸祐 責任編集/オークラ出版(08年)/1200円
保守系の論客が、日教組による教育問題などについて寄稿。日教組教師の政治活動家ぶりや、歴史教科書がいかに反日洗脳の道具となっているかなどの主張が展開されている。
【2】『いいかげんにしろ日教組 われ「亡国教育」と、かく闘えり』
松浦光修/PHP研究所(03年)/1890円
加入率98%といわれ、日教組の力がかなり強いとされる三重県で行われている反日偏向教育の深刻さ・異常さについて言及されている。著者は、三重県在住の大学教授。
【3】『教科書採択の真相 かくして歴史は歪められる』
藤岡信勝/PHP新書(05年)/756円
教科書の採択制度の実態を詳しく説明しつつ、本来教科書採択制度はどうあるべきなのかを論じた一冊。日教組の影響により、歴史教科書の内容がゆがめられていく模様が描かれている。
【4】『中山成彬はなぜ日教組と戦うのか 「まっとうな教育」を回復せよ!』
伊藤玲子/KKベストセラーズ(08年)/1680円
20年来日教組と闘ってきた伊藤玲子氏が、自身の日教組との対立記録や中山前大臣との共闘記録をもとに、日教組の劣悪さを綴っている。伊藤氏と中山前大臣の対談も収録。
【5】『マンガ日狂組の教室』
大和撫吉/晋遊舎(07年)/1000円
日の丸・君が代問題や偏向歴史教育、ジェンダーフリー教育など、日教組が問題視される原因をわかりやすくマンガで解説し、それらについて論じられた、日教組批判の入門書。
【6】『「日教組」という名の十字架』(増補改訂版)
小林 正/善本社(01年)/1500円
第二次大戦後、どのような背景で教育基本法が制定され、日教組が結成されたか……というところから、"文部省VS日教組"の対立・抗争の歴史(=戦後教育史)が綴られている。