実際のウラ経済の現場は、どのようなものなのだろうか? "ウラ経済本"の著作があり、実際にそのリアルな現場を垣間みた経験のある2人に聞いた――。
松本弘樹 [経済評論家]
「ヤクザが企業を乗っ取りつつある!!」
株価を吊り上げ、高値で売り抜ける「仕手筋」とヤクザマネーの生々しい実態を伝える『共生者』の著者・松本弘樹氏は、元証券マンだ。本書に書かれていることは、すべて自分自身が身をもって体験してきたことであり、執筆の目的は「市場の浄化」だと語る。
市場を監視する証券取引等監視委員会(SEC)は、07年から体制を変えて監視を強化している。その結果、不正取引などを金融庁に勧告した件数は2倍以上に増えているという。規制の網は、それでもまだ足りないというのだろうか?
「以前から仕手筋と呼ばれる人もヤクザのカネも市場に存在していました。ただ、株を買って高値で売り抜けるという、市場内の処理で済んでいるうちはまだマシだったんです。しかし近年、監視が強化されたために投機筋が離れてしまい、ヤクザは市場だけではカネを回収できなくなり、直接企業に乗り込んで会社を食い物にし始めました。今、新興企業の役員に反社会的勢力の手下がどれだけいることか」
もちろん、企業に乗り込んだ反社会的勢力の目的は、健全なビジネスではない。
「彼らの目的は、もともとは企業を社会に有益な存在に育てるためのあるファイナンスのテクニックを悪用し、利ザヤを喰うことだけ。その中には私が考案したスキームもあり、クラクラしましたよ。このような状況は、日本経済にとって非常にマイナスです。市場を早く浄化しなければならない。私はそういった使命感を持って『共生者』を書きました」
本書には、反社会的勢力に食い荒らされた企業とその過程が実名で掲載されている。SECもガイドとして本書を読んでいるという。
かつて事務所前にゴミを置かれるなど、ヤクザの嫌がらせに遭ったことがあるという松本氏。身の安全は大丈夫なのだろうか?
「正義のもとに書いているので、大丈夫だと思います。まだネタはたくさんあります。現在、続編を考えているところです!」
まつもと・ひろき
1964年、神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、日本勧業角丸証券(現みずほインベスターズ証券)に入社。ファンドマネージャーとして活躍後、イー・トレード証券やGIRの立ち上げにかかわる。著書に『仕手の現場の仕掛人 真実の告白』(ダイヤモンド社)など。
『共生者 株式市場の黒幕とヤクザマネー』
松本弘樹/宝島社(08年)/1000円
最後の大物仕手と呼ばれた西田晴夫の、人物像と錬金術とに迫る。彼にかかわった大物たちが実名で登場。証券取引等監視委員会委員長の佐渡賢一氏も付箋を立てて愛読しているらしい!?
宮崎 学 [作家]
「シノギのネタは、警察白書にあり!!」
「地下経済の実態は、書籍になりえない」と断言するのは、アウトローのひとりとして内部からカネの流れを解説した『地下経済』(青春出版社)の著書がある宮崎学氏。
「本来、アンダーグラウンドマネーは闇から闇へ処理されるもの。ときどきバカなやつが現れて、泡のようにすくわれて刑務所に捨てられるけれど、本流となって世界中を駆け巡っているカネの流れについては、誰ひとりとしてわからない」
と、地下経済の規模の巨大さを示唆する。おすすめの本を尋ねると、「俺の本以外に、読むべき本はない!」と言いつつ、「強いて挙げるなら……」ということで意外な作品を示した。
「青木雄二のマンガ『ナニワ金融道』(講談社漫画文庫)、あれは面白いね。いわゆるヤミ金の話なんだけど、アウトロー社会のカネを動かしている人ですら騙されてしまう、借金のテクニックについて書いてある。マンガとしてよくできているだけでなく、ルポとしてもきちんと取材してあると思う」
亡くなった著者の青木氏は、時間とお金をかけて丁寧に取材を重ね、実際にかかわった者しか知り得ない情報を得ていたようだ。
「それと、田中森一の『反転』は、アウトローたちに関して、元弁護士として守秘義務のギリギリまで書いていますね。エコノミスト門倉貴史の『日本「地下経済」白書』(祥伝社黄金文庫)もいいと思いますよ」
そして最後に、「経済ヤクザが必ず読む本」を明かした。
「それは、毎年発行される警察白書と犯罪白書。経済事犯についてかなりのページが割かれているんだけど、そこを読むと警察の限界が見える。ずいぶん自信のない書き方になっていますよ。あのね、違法行為がどうのっていうけど、資本主義社会なんてそもそも騙し合い。地下経済にかかわる人間は、ヤクザに限らず、みな刑務所の"塀の上"を全力疾走している。つまずいたとき、塀の中に落ちるやつもいれば、外側に落ちるやつもいる。そういう話ですよ」
シノギのネタは、警察白書に隠されている!?
みやざき・まなぶ
1945年、京都のヤクザ、町村組組長の息子として生まれる。「週刊現代」記者を経て、家業の解体業を継ぐが倒産。グリコ・森永事件では「キツネ目の男」と疑われた。現在は、作家としてアウトローの世界をテーマにした作品を多数発表。近著に『ヤクザと日本︱近代の無頼』(ちくま新書)など。
『大恐慌を生き残るアウトロー経済入門』
宮崎学、門倉貴史/扶桑社新書(08年)/777円
エコノミストとアウトロー作家という異色のコンビが、大恐慌の実態と混乱期のサバイバル術を示す。植草一秀による解説付き。