「あくまでも紙!!」な朝日に「ウェブ第一」の産経etc......ニュースサイトは新聞を殺すのか?

──長らく紙媒体のみの報道にいそしんできた新聞各社が、ウェブサイトに進出してはや10年。各社しのぎを削っているが、「Yahoo!ニュース」には水をあけられ、謎の読み比べサイト「新s(あらたにす)」もうまくいっていない。それでもがんばっている新聞系ニュースサイトの現状を探る!!

 2000年に1世帯当たりの購読部数が1部を割り込んだ頃から、じわじわと発行部数を減らしている新聞の一般紙。社団法人日本新聞協会の調査によれば、10年前の98年に約4729万部だった一般紙の発行部数は、01年の約4756万部をピークとして、昨年の時点で約4696万部まで減少した。1世帯当たりの購読部数も、約0・91部となっている。

 

 世界有数の発行部数を誇る3大紙(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞)も例外ではなく、3紙とも年々わずかながら発行部数を減らしている。発行部数業界第2位の朝日新聞社ですら、今年9月の中間連結決算で、発行部数・広告収入の減少や、原材料価格の高騰などにより、中間決算の公表を始めた00年以降初の営業損失(5億400万円の赤字。前年同期は74億4800万円の黒字)を計上しているのだ。

 そうした発行部数減少の理由としては、購読者層の高齢化や若者の活字離れなど、複数の要素が挙げられている。中でも大きな影響を与えているのは、やはり、インターネットとウェブメディア(ニュースサイト)の普及だろう。ウェブメディアの登場によって、紙の新聞は、特に若い世代の主要な情報源でなくなってきており、その傾向はさらに強まると見られている。発行部数だけを見れば、今はまだ危機的な状況とまではいえないが、今後、ウェブメディアを使って、あるいはウェブへの進出を契機として、なんらかの収益モデルを見出すことができなければ、新聞社の未来は暗いだろう。

 ウェブメディアは、雑誌社など長年報道・出版に携わってきた大企業の運営するものから、数人規模の零細企業の運営するものまで合わせると、国内に600サイト以上あるといわれている。もちろん新聞各社も、95~96年頃、軒並みウェブへの進出を果たしており、現在、全国紙5紙(3大紙と日経新聞、産経新聞)のサイトは、揃って月間数億ページビュー(PV:ページの閲覧回数を示す単位で、広告収入を決める指標にもなる)程度を稼いでいる。

 とはいえ、月間40億PVを超えるニュースポータルサイト「Yahoo!ニュース」には大きく水をあけられているのが現状だ。これに対し、朝日・日経・読売の3社は、昨年10月、ネット分野での共同事業などを目的とする提携(ANY)を発表し、今年1月、3紙の読み比べができるニュースサイト「新s(あらたにす)」を立ち上げた。また、産経新聞社は、05年11月にデジタル戦略会社、産経デジタルを設立し、昨年10月にはマイクロソフト社との共同ニュースサイト「MSN産経ニュース」を開設するなど、ウェブ進出に本腰を入れている。〈大手新聞のニュースサイト、10年目でも迷走中のワケ【2】〉で詳しく解説するが、各社とも、ウェブ化による新たなビジネスモデルの構築とそこから生まれる収益とに大きな期待を寄せ、試行錯誤を続けているのだ。にもかかわらず、いずれの取り組みも、現状、本紙の停滞をカバーするほどの事業規模には達していないのである。

 こうした中、新聞社の体制や記者の仕事内容、あるいは記事内容に、さまざまな影響が出始めている。ウェブの即時性に対応するために速報を発信するようになるなど、本紙用の記事以外に、ウェブの特性に合わせた専用コンテンツを作成するようになったのもそのひとつだ。以前なら紙幅の都合などから本紙に掲載できずに捨てられてきたネタを、ウェブメディア用として利用するケースも目立ってきている。当然、ウェブ展開以前と比べ、現場の負担は増しており、今回取材した現役記者からも、不満の声が多く聞かれた。

 また、毎日新聞出身でITジャーナリストの佐々木俊尚氏は、「J-CASTニュース」などの独立系ウェブメディアの影響により、ネットで話題となった出来事が、かつてより積極的に新聞社系サイトで報道されるようになったと分析する。

「以前から、ネットを情報源とするネタを、出所を曖昧にしてこっそり記事化する新聞記者はいましたが、現在ではよりあからさまに、ネットでの話題を即座に転載・記事化するようになっています。世代交代が進み、ウェブリテラシーの高い記者が増えてきたのも一因でしょう」

 さらに大きな変化は、〈大手新聞のニュースサイト、10年目でも迷走中のワケ【4】〉の佐々木氏のインタビューで詳しく述べられている通り、世論に影響を及ぼす争点を決める役割が、新聞やテレビといったマスメディアから、ニュースポータルサイトを筆頭とするウェブメディアへと移り変わりつつあることだろう。

 一方、こうした変化に接しながら、また、新聞各社上層部の期待とは裏腹に、ウェブ化に対する現場記者の意識は、概してかなり低い。〈大手新聞のニュースサイト、10年目でも迷走中のワケ【5】〉の記者座談会でも触れられているが、いかにウェブメディアの影響力が現実に増していようと、大半の記者は、今のところウェブを意識する必要性をあまり感じておらず、これまで通りの手法で質の高い記事を書きさえすればいい、と考えているようだ。

 ネット広告市場の伸びの鈍化から判断しても、ウェブメディア単体で儲けるのは、今後よりいっそう困難になると予想される。そんな中、新聞社によって新たなウェブでの収益モデルが生みだされる気配は感じられず、ウェブメディアに対する新聞社と記者の認識のズレが解消する兆しもない。また、PVを最重視し、一般受けする記事ばかりを追求するようになれば、新聞社は、もはや報道機関とはいえなくなる。ウェブメディアは、新聞の未来を担うツールになり得ると同時に、100年以上の歴史を誇る大新聞をも崩壊させる危険性をはらんでいるのだ。

 続く〈大手新聞のニュースサイト、10年目でも迷走中のワケ【2】〉では、新聞各社のウェブ化の実情を、〈大手新聞のニュースサイト、10年目でも迷走中のワケ【4】〉では、独立系ウェブメディアやニュースポータルサイトの実態から垣間見える、新聞のウェブ化の問題点について考察する。さらに〈大手新聞のニュースサイト、10年目でも迷走中のワケ【5】〉では、現役新聞記者の声を通し、新聞各社のウェブ化の内実を明らかにしていく。

(文/松島 拡・西川萌子)
(絵/本田佳世)

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