世界的な“むし”の権威が語る!――技術革新で変わる採取と新種の発見
2020年12月21日 11:00
2020年6月 3日 11:00
――「恋愛」を学問的に分析するのは難しいと思われるが、社会学ではこれまで恋愛を対象として、さまざまな研究が行われてきた。それらの調査を見ていくと、恋愛と結婚の結びつきは近代の成立以降ということや、今はそれすらも変化し、恋愛がバーチャル化したことがわかる?
コメディアンのアジズ・アンサリが研究者たちと、若者の恋愛事情についてまとめた『当世出会い事情――スマホ時代の恋愛社会学』(亜紀書房)。
恋愛工学や恋愛心理学など、「恋愛+○○(学問の名前)」と銘打たれた書籍に、どことなく胡散臭いイメージを持つ人は少なくないだろう。
しかし、その一方で少子化やジェンダー、家族論・若者論などと結びつくことから、社会学の領域で「恋愛」は、これまでさまざまなアプローチで分析されてきた。
とはいえ、恋愛とはかなり個人的な出来事と思われ、統計や客観性を重視するアカデミズムの分野でどう論じるのか想像が難しく、また、どのような研究方法があるのかという疑問も出てしまう。
そこでこれまで日本の社会学では「恋愛」という現象をどのようなアプローチで分析してきたのか、そして恋愛や結婚はどのように変貌してきたのかを、『結婚の社会学――未婚化・晩婚化はつづくのか』【1】やジャーナリストの白河桃子氏との共著『「婚活」時代』【2】などの著作がある、中央大学文学部教授の山田昌弘氏の話をもとに見ていきたい。
恋愛は近代に入ってから「告白」は日本特有?
最初に、現在の日本における恋愛の傾向・特徴を、そこに至った歴史的背景とともに、山田氏に解説してもらおう。
「日本ではリアルな恋愛が衰退する一方、アイドルやアニメキャラクター、二次元ポルノなどに代表されるバーチャルな恋愛が増えてきています。そもそも、一口に恋愛といっても、恋愛というのはさまざまな要素に分解することができます。具体的に述べると、(1)コミュニケーション(体験を聞いてもらう、共感してもらうなど)、(2)ロマンティック感情(特定の対象への接近、承認欲求)、(3)性的満足の3種類があり、近代のヨーロッパ社会で成立した恋愛観は、これらすべてをひとりの相手に求めなければならないというものでした。しかし今、日本社会で起きているのが、その分解された要素を別々のところに求めても構わないという考え方であり、恋愛のバーチャル化はその表出の一形態です」
近年、日本では未婚化や交際経験がない人が増えているが、その一因として考えられるのが、恋愛や結婚をしなくても、その代替となるようなコンテンツや対象が多数存在しているということだ。
恋愛の社会学はこのように、恋愛や結婚の在り方や変貌を解き明かしていく研究だ。そして、山田氏はこの分野における第一人者だが、同氏によると日本の社会学で恋愛が研究対象に据えられるようになったのは、つい最近の話だという。
「欧米の社会学では『love(愛情)』を題材として扱うのは一般的で、ドイツのニクラス・ルーマンやウルリッヒ・ベック、イギリスのアンソニー・ギデンズなど、近年の社会学における大家と呼ばれる研究者たちには、みんな愛情に関する著作があります。一方で、日本の社会学では愛情や恋愛というのは、あまり研究対象になることはなく、35年くらい前に私が初めて行った印象です」
そもそも、山田氏によると「恋愛」という言葉自体が日本特有のものだそうだ。
「日本と違って、欧米には日本の恋愛に相当する言葉はありません。欧米は夫婦や恋人同士の愛情が中心の社会であり、『love』といえば性的な感情を含んだ愛情のことを指します。欧米では親子の愛情を示すときに『Parental love』と、逆に頭に形容詞をつけることが多いです。また、告白というのも日本特有ですよね。日本では告白がないと、キスもセックスもできない。告白が婚約やプロポーズなどと似たような役割を持っていますが、欧米では実際に会って性的関係を結ぶことが一般的に『love』ですね」
恋愛は人々の間で身近に存在するものだけに、このように前提が覆されると驚かされてしまうが、さらに付け加えると、結婚と恋愛が結びついたのも、近代社会になってからのことである。
「前近代社会でも恋はありましたが、恋愛が結婚と結びつくものだと考えられていませんでした。もちろん、好きになった相手と結婚するケースもありましたが、結婚という制度の外で性愛関係を取り結ぶことが一般的だったんです。ところが、近代に入って近代家族が誕生すると、結婚の外で恋愛するのは家族秩序・社会秩序を脅かす行為となります。そして、それを防ぐために生まれたのが『ロマンティック・ラブ・イデオロギー』という概念です」
これは19世紀以降誕生し、20世紀に普及したといわれている「結婚を媒介とすることで、恋愛・性愛・生殖の3要素を一体化させる」という考えであり、それまでは結婚の外側にあった恋愛を、逆に結婚と密接に結びつけたものである。
つまり、恋愛すること、結婚すること、出産することを意味するのだが、近代家族を支えてきた概念であるため、社会学においては重要視されている。山田氏は続ける。
「現代日本では、そこからさらに恋愛が分解し、『ロマンティック・マリッジ・イデオロギー』と呼ばれる概念が広まってきています。『結婚するなら恋愛感情がないといけない』という価値観が一般化し、『結婚につながらない恋愛は間違ったもの』とされていた時代から変化していったのです。私は『結婚不要社会』【3】という本で解説したのですが、最近ではさらに恋愛の中身自体が分解していき、前述しましたようにバーチャル化などが起きているのです」
一般的に恋愛というと個人的な体験と思われがちだが、実は社会制度や時代背景に大きな影響を受けている。何が常識で何が非常識かは、時代によって大きく異なってくるのだ。
未婚男性より既婚男性がキャバクラを利用する!
では、社会学における恋愛研究の前提を知ったうえで、ここからは恋愛という事象について「何をテーマに据えるのか」という意味での研究対象や、「どのようにして研究していくのか」という意味での手法を見ていこう。
「家族社会学の研究対象として、昔から存在しているのは『恋愛結婚か、見合い結婚か』というものです。結婚に関して重視するのは自分の恋愛感情か、それとも親の判断かということですね。逆に言えば『どのようにして人は付き合っているのか?』という研究は少なかった。昔は『好きになれば、自然と結婚するものだ』と思われていたので、そのことに関する研究は求められてこなかったのです。そんな中、10年代に入ってから、成蹊大学教授の小林盾氏らは『変貌する恋愛と結婚――データで読む平成』【4】で、1万2000人にアンケート調査やインタビューを実施し、人々が『どうやって知り合ったか』『関係性が深まったか』ということなどを明らかにしました。私が研究を始めた頃に比べ、今は若い研究者も増えてきているため、研究内容も『明治時代の日本では、どのように恋愛が受容されてきたのか』や『新聞の人生相談から、恋愛の変化を読み解く』など、多様になっています」
その時代における恋愛のとらえ方次第で、生まれる研究も変わってくるということだが、それでは、このような調査を行うことによって、どのような事実が浮き彫りになるのだろうか?
「例えばこれは私の調査結果になりますが、キャバクラや性風俗産業に足を運ぶ人の割合は、未婚男性より既婚男性のほうがわずかながらも多いことが判明しています。キャバクラや風俗は相手がいないから行くと思われがちな場所ですが、実際は既婚者の5人に1人はキャバクラやクラブ、性風俗店などを利用しているのです。ここから『恋愛がロマンティック・ラブ・イデオロギーから分散化しているのではないか』ということが導き出されます。つまり、結婚していてもパートナーが、性的満足の対象ではなくなってきているケースも多いということです。欧米人や女性が聞くと驚くような研究結果になりますね。でも、周囲の女性を見ても、実際に憧れているのは宝塚スターだったり、ジャニーズの嵐だったり、親しく話すのは夫より、母親やママ友だったりします。今の日本では、現実的に結婚相手を選ぶ一方、トキメキやコミュニケーションまでも別のところに求めるんです」
風俗に関する調査結果から、ロマンティック・ラブ・イデオロギーにつながっていくのは驚きだが、キャバクラや性風俗産業という観点からさらに話を広げると売買春にたどり着く。このジャンルに関する研究では、援助交際やテレクラの研究をしていた『制服少女たちの選択』【5】などの著作で知られる東京都立大学教授の宮台真司氏がいるが、山田氏は自身の研究と宮台氏の研究内容の類似点、相違点をこう説明する。
「彼はニクラス・ルーマンの理論を下敷きにしていますし、その点では比較的、私と近い現象に注目していますよね。ただ、彼が理論・文化社会学なら、私は家族社会学という研究領域のため、彼が〝売る〟ほうなら、私は〝買う〟ほうという違いがあります。宮台氏は援助交際やブルセラなど、商業的なところを明らかにしたいという思いがありますが、私は家族社会学の立場から、人はどうやって結婚しているか、どうやって結婚と恋愛で折り合いをつけているか、なぜ、結婚しているのに風俗産業に行くのかということなどに関心があるのです」
扱う題材自体は近くとも、切り取り方で研究内容は大きく異なってくる。
また、結婚していても外に恋愛を求めるという現在では、「不倫」に関する研究も出ているという。
「『家族社会研究』という学会誌に掲載された、立教大学社会情報教育研究センター助教・五十嵐彰氏の「誰が「不倫」をするのか」【6】という論文では、学歴と不倫には明らかな相関関係があるという調査結果が出ました。より具体的にいうと、『男女ともに高学歴になれば、より不倫しなくなる』『男性は収入が上がれば、また妻のほうが収入が高ければ不倫するようになる』ということが調査データに基づき実証されています。この論文は学会内でも話題になりました」
これまで日本の恋愛の社会学においては、近代家族が配偶者への恋愛感情を基盤としており、そうした情緒的結びつきの強固さが「不倫」を食い止めてきたという言説が主流だった。しかし、この研究では「夫婦間の親密な関係性は本当に『不倫』と関わっているのか、そして『不倫』はその他の、近代家族の埒外にある要因によって決まらないのか」ということを再検証している。
この研究のように恋愛の社会学では、アンケートやインタビュー調査などの手法を駆使して、恋愛の在り方を解明していくことが多いが、ほかにもメディアや、これまでの社会学の枠組みから恋愛を研究する領域もある。
「メディアに描かれた愛情を研究する人物として、『恋愛の社会学——「遊び」とロマンティック・ラブの変容』【7】などの著作がある、関西大学教授の谷本奈穂氏が挙げられます。彼女は雑誌やマンガなどのメディアを調査対象として、それらに恋愛がどう表れているか、そして、どう変化したかを分析しています。ほかにも社会学には理論研究というものがあって、ここでは恋愛がどのようにとらえられていたかを、文献的に研究することを指します。大澤真幸氏は『恋愛の不可能性について』【8】などで、今までにある学問の理論の中にどうやって恋愛というものを組み込んできたかを調べてきました」
マッチングアプリの隆盛で一目惚れがなくなる?
このように、現在に至るまでさまざまな調査研究が行われてきた恋愛の社会学。アカデミックでありながらも身近な恋愛を題材にしているだけあって、大学生たちも卒論のテーマに選びそうなものだが、実際はそうでもないという。
「バブルの頃は恋愛に興味があり、研究したいという学生がたくさんいたのですが、最近はさっぱりです。現実の恋愛が衰退したのと同じように、卒論の題材にする学生は減ってしまい、むしろ恋愛をすっ飛ばして『婚活』を研究する学生のほうが多いくらいです。恋愛でどうやって悩むかの研究より、どうやって結婚するのかに学生の関心も変わってきているのです。私は大学の先生になって35年になりますが、思えば学生の恋愛への興味は00年頃が一番盛んでした。ここ20年で、恋愛やセックスに対する学生の感覚がガラッと変わりましたよね」
いよいよ、冒頭で山田氏が述べたように、恋愛のバーチャル化が進んでいるということだが、それでは今後、どのような恋愛に関する事象が研究対象となるのだろうか?
「オンラインで恋愛のほとんどを完結させる時代が、これから来るかもしれません。私は以前、日本とシンガポールの国際結婚カップルを取材したことがあるのですが、彼らは最初こそ現地で会ったものの、その後はずっとSkypeデートを続け、婚約まで完結させたそうです。結婚して別の国に赴任した日本人カップルで、生活や財布は別々で、会うのは年に2回程度というケースにも出合いました。また、ネット経由で出会うことによって、さまざまな変化が起きています。例えば、そのひとつが一目惚れがなくなったこと。イスラエルの社会学者、エヴァ・イルーズによると、マッチングアプリを通じて出会うカップルは、実際に会う前にデータで会っているために一目惚れしにくいと言っています。むしろ、会う前に想像をふくらませ、会ったときに落胆するケースが増えているといいます」
ネットが発達した結果、一目惚れが少なくなっているというのは、恋愛がいかに社会の影響や文化の影響を受けているかを、改めて感じさせる。
新型コロナウイルスの影響で、世界的にオンライン化、バーチャル化が進んでいる今、恋愛のあり方も変わっていくと予想される。それによって、恋愛の社会学がさらに広がり、新たな研究が生まれる可能性もあるのかもしれない。
(文/編集部)
山田昌弘/丸善(96年)
【1】『結婚の社会学――未婚化・晩婚化はつづくのか』
若者の間で未婚の男女が増えている。さらに結婚年齢も上昇しているのはなぜなのか?この問題を社会学的に解き明かす。
山田昌弘、白河桃子/ディスカヴァー・トゥエンティワン(08年)
【2】『「婚活」時代』
山田氏とジャーナリストの白河桃子氏が、就職活動のように「婚活」をしなければ結婚しにくくなっている現代日本の結婚状況を探る。
山田昌弘/朝日新聞出版(19年)
【3】『結婚不要社会』
今の日本社会で結婚するのは非常に困難である。そのため、著者の山田氏は結婚が不可欠な社会から、結婚しなくても経済的・心理的に幸せに生活ができる「結婚不要社会」に変わることを予見する。
小林盾・川端健嗣 編/新曜社(19年)
【4】『変貌する恋愛と結婚――データで読む平成』
「人びとの生き方が多様化した結果、かえって恋愛や結婚における格差が拡大したかもしれない」という仮説のもと、ビッグデータから結婚の多様性と不平等を実証的に解明していく。
宮台真司/講談社(94年)
【5】『制服少女たちの選択』
著者の宮台氏はテレクラなどを利用して、援助交際をしている女子中高生への直接の聞き取り調査を実施。そこから、あらゆる既存の共同体が消滅し、「島宇宙化」社会が到来することを予見した。
五十嵐彰/日本家族社会学会(18年)
【6】「誰が「不倫」をするのか」(『家族社会学研究』30 巻2号)
男性は収入が高い人、配偶者のほうが収入が高い人、学歴が低い人が不倫をする。また、男女ともに高学歴になれば、より不倫しなくなるということを、夫婦間のデータから導き出す。
谷本奈穂/青弓社(08年)
【7】『恋愛の社会学——「遊び」とロマンティック・ラブの変容』
現代の恋愛事情を雑誌やアンケート調査をもとに、さまざまな視点から読み解き、恋愛が曖昧さや不確定性を味わう「遊び」の感覚を内包していること=恋愛の遊戯化を見いだす。
大澤真幸/春秋社(98年)
【8】『恋愛の不可能性について』
著者の大澤氏によって、言語哲学や現代哲学をめぐる全部で10の論考がまとめられた1冊。本のタイトルでもある序章で大澤氏は「恋愛は不可能性という形でしか存在しえない」としている。
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