――日本を代表する大作家・村上春樹。新刊が出るたびに、本屋にハルキストが集結しマスメディアを巻き込んで一種の“祭り”状態にもなる彼だが、最近では揶揄や批判も多い。そこで、今ここであえて純粋に村上春樹の文学的魅力を再評価できないかと思い、私たちは意外な人物の元へ足を運んだ。はてさて、「EXILE」と「村上春樹」その2つが結びつく日が来ようとは、誰がいったい想像しただろうか――。
<本誌には掲載できなかったグラビアもウェブ限定で公開します!>
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村上春樹が、日本を代表する作家であることは疑いようもない。売り上げ部数も世界的な名声も、間違いなく現役作家で日本一だろう。だが、そうした事実とは裏腹に、世間には「村上春樹(笑)」と冷笑的な雰囲気が色濃く漂い、ファンを指す「ハルキスト」という呼称も、どこか蔑称としての影を帯びている。これだけ売れている作家でありながら、ファンを公言することははばかられる――そんな奇妙な状況が生まれているのは間違いない。ではいったい誰が、彼の作品を愛し、魅了されているのだろうか?
そんな疑問が生まれていた数年前、本誌は意外な情報を入手した。なんと、EXILEのパフォーマーであり、三代目J Soul Brothersのリーダーでもある小林直己氏が、「ハルキスト」だというのだ。三代目のパフォーマーの中でも殊更堂々たる体躯を持ち、ライブでは誰よりも惜しげなくその肉体を披露する直己さんと村上春樹が、脳内でまったく結びつかない。EXILEウォッチャーである本誌としては真偽を確かめたくインタビューをオファー。意外すぎる場所に生息していたハルキストの本音とは……。
村上春樹のほかにも谷川俊太郎などが好きだという直己さん。「読書にハマったきっかけは宗田理の『ぼくら』シリーズを読んでから」とのこと。(画像をクリックすると拡大します)
――今回、本特集の中で村上春樹について取り上げたいと考えたときに、直己さんがお好きだと聞いてインタビューさせていただきたいとお願いした次第です。
小林 サイゾーには、以前「筋肉ハルキスト」と名付けていただいて……。(註:2014年にウェブサイト「サイゾーpremium」で行った三代目JSB特集)
――ご存じでしたか……!! 勝手に名付けてすみません!
小林 逆にうれしかったですけどね。村上春樹さん好きだとあんまり言ってなかったし、ああやってカテゴライズされて初めて認知が始まるんだな、と。
――本誌に比べて会員制の「サイゾーpremium」は知名度がまだまだなので、まさかご覧になっているとは思わなかったです。
小林 正直、超チェックしてますもん。premium会員ですよ。
直己さんが特に好きな作品は『ねじまき鳥クロニクル』と『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。「春樹作品は『アベンジャーズ』くらいの規模でアクション映画にしたら面白いのでは」という提案も。(画像をクリックすると拡大します)
――ありがとうございます……。では「筋肉ハルキスト」の直己さんに改めてうかがいますが、村上春樹作品を読み始めたのはいつ頃ですか?
小林 高校生の時です。最初は『ねじまき鳥クロニクル』(94~95年刊行)でした。図書室で借りて読み始めたら超ハマっちゃって、授業中も1時間目から6時間目までずっと教科書の間に挟んで隠して読んでました。そこから古い作品もさかのぼって読んで。
――何にそんなに魅了されたんですか?
小林 文体や表現の仕方が好きなんです。僕が言うのも偉そうですが、村上春樹作品っておそらく全部一緒の話じゃないですか。まず妻がいなくなって、それを受け入れて、だけどよくわからなくてずっと車を運転したりあちこち行ったりする。そこでファンタジー的なものと出会って、落ち着きを取り戻す前にいろんな人を抱いて、あとは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(85年)みたいに冒険に行くか、『騎士団長殺し』(17年)のように社会に復帰して現実と向き合っていくか……その繰り返しですよね。
――確かに、ファンタジー的な要素は結構あると思います。それはもちろん何らかのメタファーですが、『ねじまき鳥』でも消えた妻を探す主人公がさまざまな人に出会って最終的に謎の井戸に入ったり、『騎士団長殺し』の“騎士団長”みたいな変な存在が出てきたり。
小林 でも、ちょっとわかりません? ファンタジーに行ってしまう、その感覚。例えば、フラれたりとか、自分がやってきたことが打ち崩された瞬間って、ショックで何もできないじゃないですか。そんなとき、頭の芯がジーンとして手足がしびれるような感覚になったりしませんか? その感覚を知っている人は、それこそ井戸に降りていくような描写がわかる気がするんです。夜中にひとりでずっと音楽を流して、聴いているようで聴いていなくて、扇風機がカラカラ……って回っていて、風が吹いてカーテンが揺れて、窓を見たら「もう朝?」みたいな。そういうものを書いてくれている気がして、ほっとした記憶があるんですよ。それが、好きになった理由だと思います。
今年刊行された『騎士団長殺し』。妻と離婚話を進めている肖像画家の「私」はアトリエで「騎士団長殺し」というタイトルの日本画を発見する。しかし、それをきっかけに不思議な出来事に巻き込まれていき…。
――すごく繊細に受け止められたんですね……。でも、若い頃はともかく、今「村上春樹が好きだ」と公言するのって、ちょっと難しい部分もありませんか? 世間的には、新刊『騎士団長殺し』にしても「結局いつもと同じ展開じゃないか」という批判がありますし、デビュー当初から今に至るまで、女性の描き方が差別的だという指摘も根強く存在しています。
小林 そういう批判については、そもそも小説は著者のものだから、好きなように書けばいいじゃないかと。女性の描き方にしても、なんでそんなに公共性を求められてしまうんだろう? 著作というのは一意見にすぎないんだから、好きにやっていいんじゃないかと思うんです。
だから僕はやっぱり、リアルタイムで読める同じ時代に生まれてよかったなと。
こじらせ哲学少年の愛の探求、ダンスとの邂逅
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――村上春樹作品はほとんど読まれているということで、作品歴と直己さんの経歴を並べてみると、『海辺のカフカ』が出た02年から09年の『1Q84』までが、大学に入学して辞めて、EXILEに加入される時期と重なります。大学では哲学を専攻されていたそうですね。
小林 こじらせてますよねぇ(笑)。高校で倫理の授業を取ったのがきっかけでした。せっかくの機会なので言うと、「愛ってなんですか?」というのが僕の人生の命題なんです。倫理の授業で先生が「人を恋しく思うとはどういうことだろう?」みたいな、課題を出してくれたんです。それに答えて5人の生徒で哲学議論みたいなことをして。集まった5人が僕も含めて相当こじれた奴らだったので、すごく楽しかったんですね。それでいろいろ考えて、大学では哲学科に入りました。でも結局、哲学概論って哲学史の勉強で、「愛って何?」という疑問への回答に、授業ではたどり着かないと思った。そこで、自分は人生において、その都度壁にぶつかりながら学んでいくもんなんだな、だったらそのときハマっていたダンスで人生のチャレンジとしてギャンブルしてみよう、と思って辞めました。
――今何度か「こじらせてる」と言っていましたが、自分のことを「こじらせてる」と?
小林 思います。
――世間的にはLDHおよびEXILEといえば体育会系の集団で、「こじらせ」からは程遠いところにいるイメージだと思います。ダンスをやっている人の中で文化系の性質を持っていると、周りと温度差を感じる瞬間はなかったですか?