――「小説が売れない」と散々言われて久しい中にありながら、「小説家になろう」なる小説投稿サイトが人気を博している。投稿者数もPVも右肩上がり、商業出版、 アニメ化される作品が続出。“なろう系”というジャンルを指す言葉も誕生。この新たな潮流は小説界の救世主なのか、あるいは文芸出版の構造を覆すクロフネなのか?
多くの売れ筋ウェブ小説と異なり、装丁にイラストもなく、「ウェブ発」の色が薄めの『君の膵臓をたべたい』。同じ作者の2作目となる『また、同じ夢を見ていた』も順調な滑り出しの様子。
『君の膵臓をたべたい』(住野よる/双葉社)35万部、『ログ・ホライズン』(橙乃ままれ/KADOKAWAエンターブレイン)シリーズ累計100万部、『アクセル・ワールド』(川原礫/KADOKAWAアスキー・メディアワークス)シリーズ累計420万部、『魔法科高校の劣等生』(佐島勤/同)シリーズ累計560万部、『王様ゲーム』(金沢伸明/双葉社)シリーズ累計650万部──本特集でこれまでくりかえし述べてきた通り、書籍としての小説は売り上げがはかばかしくない状況が続いている中で、驚くべき数字を叩き出しているこれらのタイトルの共通項をご存じだろうか。これは今、旧来の“小説好き”の死角でコンスタントに数字を出しているジャンル、ウェブ小説(オンライン小説)のヒット作だ。素人による小説投稿サイト、つまりCGMサービスから書籍化され、メガヒットを飛ばす小説が多数誕生している。
ウェブの世界では古くから、自分の創作物を個人サイトで公開する文化は当然存在した。本稿で取り上げるのはそれとはまた異なる、企業(あるいは有志の個人)があまねく多くの人から創作物の投稿を受け付けるプラットフォームとして運営しているサービスのことだ。大小さまざまな規模のサービスが存在しているが、有名どころとしては上記にまとめた「小説家になろう」(ヒナプロジェクト)、「E★エブリスタ」(エブリスタ)、「アルファポリス」(アルファポリス)の3つが挙げられる。それぞれに特徴があり、少しずつカラーは異なっている(こちらの記事を参照)。