――惜しみない称賛、革新的スキル、湧き上がる制作意欲、そして失われない自信──”天才”と呼ばれるMCに聞く、新作『夢から覚め。』で見せたひとつの回答。
(写真/藤田二朗)
「適当にいけよ/考えこむな」──2月28日、深夜。東京・代官山UNITに詰めかけた観客らは、口を揃えてそのラインを唱える。舞台上では、「NEXT」という曲を飄々と歌う板橋区出身のラッパー・5lackがいた。
その曲が収められた『Whalabout?』がリリースされたのは2009年。まだ20代前半でS.L.A.C.K.と名乗っていた彼は、同じ頃にデビュー作を出したPSG(実兄でトラックメイカー/MCのPUNPEE、地元の友人でMCのGAPPERとのユニット)と合わせて、日本語ラップの新世代として耳目を集めていた。しかも、ヒップホップを敬遠していたロック・リスナーも惹きつけたが、彼らは他ジャンルの要素に頼ることなく、新奇かつポップなラップ・ミュージックのグルーヴを生み出したのだ。また、”適当”をキーワードにしながら、東京という都市で仲間とスケボーに興じ、クラブで酔っ払い、女の子にフラれる……といった自身の日常を描いた5lackのリリックは、”頑張る”ことが美徳とされる社会へ息苦しさを感じるリスナーに訴求した。