通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!
改めていうまでもなく音楽産業は激動の時代だ。CDからネット配信、さらに有償から無償という大きな変化に、レコード会社だけでなくアーティストも翻弄されている。その変化の真っ只中で、一貫してアーティストの側に立ってビジネスを支援してきた(株)ジャパン・ライツ・クリアランスの荒川祐二氏に、音楽業界におけるマスの変化について伺った。
大島優子の卒業発表もあり、紅白の視聴率に貢献したAKB48。そのネタは、新年を迎えても炎上する。
クロサカ『NHK紅白歌合戦』といえば古き良きマスの象徴でした。しかし、初期には視聴率70%越えが当たり前だったのが、現在では40%台にまで下落。このことが「マスの崩壊」を表しているとまでいわれています。
さて、2013年のNHK紅白歌合戦は、ゴールデンボンバーが2年連続で登場しました。そこで驚いたのは、J-POPでは珍しく、歌った曲が12年と同じ「女々しくて」だったことです。個人的には、今年はそこまでメディア露出した印象はなかったのですが、これをどう理解すればいいのでしょうか?
荒川 13年のシングルチャート上位はAKB48関連グループとジャニーズ系が独占していて、17位にサザンオールスターズが入っているという状況でした。対してカラオケランキング(TOP20)には、2013年にリリースされた楽曲がわずか1曲。その総合一位が「女々しくて」です。
クロサカ ええ!? でも確かにいわれてみれば、AKB48の楽曲でランクインしている「フライングゲット」(20位)も「ヘビーローテーション」(9位)も、少し前の楽曲ですね。(共に11年発売)
荒川 CDの売り上げがピークを迎えた90年代後半のシングルチャートとカラオケチャートでは、CDでヒットした曲の多くが、カラオケでも歌われているという関連性が見てとれます。でも10年代には、その関連性がほぼ見られません。このことは、いろんな事を示していると思う。ひとつはカラオケというものの変容で、以前は「新しい曲を知っている」「難しい曲が歌える」という自己アピールの場でもあった。ところが10年代に入るとカラオケは「空気を読む」ものになってしまった。
そして、そんな状況下で支持されている「女々しくて」をあえて分析してみると、積極的に好きでもないけれどある程度はおもしろくて、サビが覚えやすく単純に盛り上がれる。ビジュアル的にも好き嫌いが少ないしエアーだから演奏の上手い下手もないというもの。つまり、いろいろな「カラオケの楽しみ方」をする人がいる中で、そのニーズを最低限満たすことができている、最大公約数的な曲なのでしょう。
クロサカ なるほど。ということは、この1年で「女々しくて」以外にマスといえる曲がなかったということでもあります。しかし、多くの人がそもそも彼らを紅白によって知りました。最初は「誰?」となって、見てみたら「結構おもしろいじゃん」となって、カラオケで歌った。この広がり自体は、紅白が持つ「マスに拡散する機能」が健在だった結果だともいえます。
荒川 2013年ユーキャン新語流行語大賞の「今でしょ!」も、林修先生がはやらせようとしたのではなくて、たまたまテレビ番組などから、いわゆるマス的に拡散された結果です。「マスが衰えた」といわれながらも、こういうムーブメントは、やっぱり旧来のマスにしか作り出せない。でも、例えば「AKB48が人気」だといっても、80年代アイドルのような受け取られ方とはちょっと違う。
クロサカ AKBが、現在もっとも人気があるアイドルなのは確かで、紅白にも6年連続で出場している。しかし、先ほどのカラオケランキングのお話からすると、そのAKB48はマス的な存在なのか、それともそうではないのか、という疑問が浮かびます。メディアで見かけない日はないほど人気があるのですが、果たしてマスに受け入れられた、といえるのでしょうか?