――大手版元が抱える有名コミック誌が、ついにウェブでの展開に乗り出した。ウェブからヒット作が生まれたり、今夏には「モーニング」が有料アプリをスタート。ここ数年でいずこも雪崩を打ってウェブに積極的になったのはなぜなのか? 各社の戦略比較とその内幕を探る。
ウェブは、ジリ貧といわれるコミック誌の将来を支える一手となるか?
雑誌の不調がささやかれるなか、この数年急増しているのがウェブのマンガ媒体だ。もともと携帯電話向けの電子書籍市場は、ボーイズラブ(BL)やティーンズラブ(TL)などの分野が牽引してきた歴史があるが、販売サイトへの作品提供や電子書籍販売企業のオリジナル作品制作が中心で、出版社自身がウェブ媒体を立ち上げるケースは基本的になかった。
だが、昨年には小学館が「裏サンデー」「やわらかスピリッツ」、集英社が「となりのヤングジャンプ」といった無料のウェブマンガ媒体をスタート。以前から「月刊モーニング・ツー」の無料配信といった取り組みをしていた講談社も、今年スマホ・タブレット向けの雑誌アプリ「週刊Dモーニング」や、旧作のアンコール連載が目玉になったウェブマンガ媒体「モアイ」を始めるなど、大手出版社によるウェブ媒体のオープンラッシュが続いている。とはいえ、まだまだその子細な内容は、よほどのマンガ好きでなければ知られていないだろう。本稿ではまず、各媒体の特徴を分析してみたい。
こうした版元によるウェブマンガサイトの先駆けとなったのは、スクウェア・エニックスの「ガンガンONLINE」だ。2008年にオープンした同サイトは、無料で新作が読めるマンガサイトで、現在では50作を超える作品が連載されている。コミック誌主宰に限らないウェブマンガサイトとしても老舗だが、累計発行部数240万部超の『男子高校生の日常』や『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』(谷川ニコ)など100万部クラスの作品を生み、オンラインコミックサイトのビジネスモデルを確立したという点でもその存在感は大きい。
実際、出版社のウェブマンガサイト担当者からも「ガンガンONLINE」を「意識している」という声は多く、ウェブで無料公開し、紙の単行本で利益を上げるというモデルは後続サイトの基本スタイルになっている。「裏サンデー」「やわらかスピリッツ」「となりのヤングジャンプ」など、前述の無料系サイトはいずれも同様のモデルを採用している。なかでも「となりのヤングジャンプ」は、看板作品である『ワンパンマン』が累計160万部を突破しており、12年以降のスタートサイトとしては頭ひとつ抜けた存在といえるだろう。
だが、ビジネスモデルは同じでも、方向性は各サイトでさまざまだ。最もスタンダードな形といえる「ガンガンONLINE」は、作品が掲載されている場所こそウェブサイトではあるが、基本的な考え方は紙の雑誌の延長線上といっていい。作品を読むときは見開き単位で見せるマンガ用のビューアを使い、紙の感覚をPCのブラウザなどで再現するための形式になっている。作家陣を見ても、新人作家・既存作家を取り混ぜたラインナップで、そのまま紙の雑誌の増刊号として出版されても違和感のない構成になっているのだ。実際、『男子高校生の日常』はもともと紙の「フレッシュガンガン」で読み切りとして掲載された作品。まさに紙の延長線上で作られているといっていい。
一方、後発の「裏サンデー」や「となりのヤングジャンプ」などは、よりウェブという掲載媒体の特性を強く意識している。例えば、「裏サンデー」は、専用ビューアを使わず、縦スクロールで1ページごとに読ませていくという、個人製作のマンガサイトに近いインターフェース。作家陣も『モブサイコ100』のONEなど、いわゆるウェブ出身の作家を多く起用しており、ウェブネイティブといったカラーが強く出ている。「サンデー」の名前を冠してはいるが、「週刊少年サンデー」とはかなり毛色が異なる媒体だ。