――もはや説明不要の日本でもっとも売れているコミック誌「週刊少年ジャンプ」(集英社)。今回、これまで同誌から生まれた数々の有名作品にアシスタントとして携わった4名のマンガ家たちに集まってもらい、その舞台裏を覗くべく、座談会を決行! 果たして、『ONE PIECE』『NARUTO』etc……はどんな現場から生まれたのか?
【座談会参加者】
A… 30代 男性 アシ経験 12年
B… 40代 男性 アシ経験 14年
C… 30代 女性 アシ経験 20年
D… 30代 男性 アシ経験 17年
『マンガ家さんとアシスタントさんと(10)(完)』(スクウェア・エニックス)
A 今日集まったのは、皆さん「ジャンプ」作品のアシスタント経験者なんですよね。
B ジャンプ作家さんのところは比較的ギャラがいいから、人気がありますよね。知り合いが『バクマン。』【1】の小畑健さんのところに行ってたんですけど、1日2万円だったって言ってました。金額としては平均的な気がしますけど、平日5日入って、土日休みというのが1セットで、毎週入っている人も、隔週の人もいて、かなり融通を利かせてくれたらしいです。1日の稼働時間も、だいたい9~21時きっかりだったとか。まあ、私語厳禁で、休憩もほとんど取らないらしいですけど。
C それでも、1日12時間でちゃんと終わって2万円ならいいですね。1本終わるまで帰らせてくれない作家さんとかも多いから、ジャンプ作品で1日1万円以下はまずあり得ないとは思うけど、2万円いかないところもありますからね。
A 僕、『ROOKIES』【2】の森田まさのりさんのところに行ってたことがあるんですが、あそこはよかったですよ。最初は月給18万円くらいからだったと思いますけど、3カ月おきに1万円ずつくらい上げてくれたので。残業もないし、お昼は2時間、みんな一斉に休憩を取らせてくれました。
D 森田さんはすごく優しい方だって聞きますし、うらやましい話ですね。『るろうに剣心』【3】の和月伸宏さんのところも、ギャラはよかったです。ただ、徹夜続きになることはしょっちゅうでしたけど……。そう言えば、『ONE PIECE』の尾田栄一郎さんのところって、「チーフアシスタントになると年収2000万円」っていう都市伝説があるじゃないですか。さすがに、あり得ないですよね?
C あれは完全にデマでしょう(苦笑)。そもそも尾田さんのところには「チーフアシスタント」なんていないですから。みんな平等だって聞きましたよ。尾田さんは「アシスタントは、いずれプロになるための通過点で、あくまで修行中の身」という考え方らしいので、むしろアシのギャラはそんなによくないですよ。
A 確か、多い人で月収25万円くらいなんですよね? 僕はその話を聞いた時、日本で一番売れているマンガ家のアシスタントがそれだけしかもらえないなんて、夢のない話だなって思ってしまいましたけど……。
D いやあ、僕は尾田さんの考え方って正しいと思いますけどね。アシスタントを職業にして生計を立てる、いわゆる“プロアシ”でいいっていう人もいるけど、みんな最初はマンガ家を目指してアシスタントになったわけですから、そこで苦しい思いをしないと、上を目指そうって思わなくなっちゃいますからね。
C それで一度、『NARUTO -ナルト-』【4】の岸本斉史さんが集英社の担当編集から怒られたらしいですよ。「先生のところはギャラが良すぎて、アシスタントが自分のマンガを描かなくなるので下げてください」って(笑)。岸本さんってすごくいい方なんですよ。最初は日給1万2000円とか、決して高くはないんですけど、どんどん昇給してくれるので、ピーク時は一番経歴の長いアシのギャラがひと月80万円くらいまでになってたらしいです。
A それはすごいな。昔、秋田書店の部長さんが月収80万円だという話を聞いた板垣恵介さんが、「アーティストが版元の社員より給料が安いのはダメだ!」って言ってチーフアシに毎月80万円払っていた……という伝説は聞いたことがありますけど、「ジャンプ」にもいたんですね……。
B でも、それはさすがに超レアケースですから、プロアシでいいなら『ゴルゴ13』のさいとう・たかをさんや『北斗の拳』の原哲夫さんのところみたいに、アシスタントを社員にしてくれる作家さんのところにちゃんと就職したほうがいいですよね。
D それは言えてる。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治さんのところも会社になっていて、あそこはチーフアシクラスで年収1000万円だって言いますしね。秋本さんが行けない時はそのチーフアシが代わりに取材に行ったり、作風に関わるような部分まで任せてもらえるらしくて、 藤子・F・不二雄プロみたいに、先生が亡くなった後にも作品が受け継がれるよう、ちゃんと考えているんじゃないかな。マンガで一生面倒を見てもらえるなんて、すごいことですよ。