――苦境が伝えられる中で、知恵を絞って、足で稼いで、業界を動いて回る音楽会社の宣伝マンが、昨今の業界事情を大暴露! 音楽ファンならずとも気になる裏側とは――?
[座談会参加者]
A:大手レーベル勤務歴8年
B:大手レーベル勤務歴15年
C:中堅レーベル勤務歴10年
『誰がJ-POPを救えるか? 』(朝日新聞出版)
A 今回、われわれレコード会社の宣伝マンが集まって、昨今の業界の状況について話をするってことですけど、最近みなさんはどう感じられてますか?
B いやー毎日、テレビや雑誌などのメディアへの売り込みが大変だよ。テレビだろうと雑誌だろうとラジオだろうと、昔みたいにここに載せたら鉄板ってのがないからね。とにかく、CDやDVDの発売に合わせて、ひとつでも多くの媒体に情報を載せるかが重要だからねぇ。
C 昔だったらテレビの歌番組に出たら売り上げが伸びたり、ラジオでパワープッシュされると話題になったりって感じでしたけど、それがもはや全然効かなくなった。ゼロではないけど、その単発のものに頼るよりも、トータルで宣伝を打っていかないと。当然ながら、かつてのなんでも売れてた時代に比べて、より綿密に宣伝戦略が要るようになってきました。
A 本当に、どうやったら当たるかってわかんないんですよね、セオリーがない。不安だからとりあえず、テレビやラジオといったマスメディアにも出すし、ウェブとか雑誌のカルチャーニュースとか細かいとこにも出して。いかに「新譜発売しました! いまキテます!」って雰囲気を作るかにかかってますね。
C そうですね。あと単純に、宣伝予算も厳しくなって、2~3年前までは、音楽サイトのバナーとかガラケーサイトで特集を組んで予算100万円投下、企画によっては200万円なんて予算もぎりぎり出せていたと思うけど、今はSNSが主流になって、フェイスブックに無料で公式ページを作ればファンがどんどん拡散してくれる。だから、わざわざメディアにお金を出すのは馬鹿らしいって感じますね。今なら音楽ニュースサイトのナタリーが売っている特集枠に、広告費を払うのすらもケチりたいというか。
B しかも、ナタリーのバナー枠は値上げしたね。前までは、グロスでいくら、とか交渉次第で多少値引きしてくれたけど、今は一円たりとも譲ってくれない。しかもサイト内にあれだけ特集が乱立してたら、全然目立たないからなぁ。A&R(音楽会社において、アーティストの発掘から楽曲制作、宣伝など、レコード会社の業務全般に責任者として携わる業種)の中には、そもそもいまだにウェブでのプロモーションを意識していなくて「そんなみみっちいことして効果あんの?」みたいな人もいる。
A ナタリーのサイトの横にある特集バナーって、誰がクリックしてんだろう? あそこに出すんだったら、もったいないからサイト上部にある広告枠を買ったほうが、安いですよね。そこからリンク先に、自社で面白いサイトを作って、ユーザーに拡散するほうがいい、という感じはします。
C ナタリーは、音楽好きは見るサイトだけど、一般の人は見てないから、「J-POP」のプロモーションとしては弱い。もちろんロックバンドの宣伝だったら、雑誌「ロッキング・オン」(ロッキング・オン)とナタリーだったら後者に投資するけど、一般の人は、基本的にヤフーとかのポータルサイトしか見てないからね。ヤフー動画とかGyaO!に、PVを流すほうが、効果が高い。良い時だと、2~3日で60~70万ビューくらいはいきますからね。
B ただ、結局どんなにネット上でバズったとしても、それが具体的に配信の売り上げにつながるわけではない。日本は世界の中でもいまだにパッケージが売れてる数少ない国で、配信で音楽を買う文化は、まだまだ浸透してない感じがする。
A それで言うと、ソニーがついにiTunesに配信を開始して、結構売れているらしいですね。
C 音楽配信のプラットフォームではほぼiTunesが勝ってるけど、やっぱり音質が悪かったりはするんですよね。だから高音質にこだわった配信をやるとか、あるいはもうレコード会社がニュースから楽曲の配信まで一貫してやるようなアプリを作るのもアリかと思っています。