――「日本の食」が危ないと言われてきたTPPへの参加。どうやら食関連の団体・議員によって、それぞれの思惑がある様子だ。ここでは、政治という観点から「食」を見ていこう。
『TPPで日本は世界一の農業大国になる』(ベストセラーズ)
「本日、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に向けた交渉に参加する決断をいたしました」
3月15日、安倍晋三首相がTPPへの交渉参加表明を行ったことで、「日本のコメ農家は絶滅しかねない」「食品の安全性は保持されるのか?」などの問題点を抱えたTPPをめぐる議論は、今後、11カ国との交渉の舞台に移ることになった。そこで明らかになったのは食問題をないがしろにした政治家の打算的な関係だ。
「民主党政権時代からの動きを見ると、まず2011年10月に、TPP参加に反対する議員が超党派で『TPPを慎重に考える会』という議員連盟(議連)を設立した。会長には、山田正彦前農林水産大臣(衆・長崎3区)。幹事長には松野頼久元内閣官房副長官(衆・熊本1区)が就任し、国会議員約180名が参加しました。しかし、12年9月に松野幹事長が、TPP推進を主張する橋下徹が代表を務める日本維新の会に入党。その後12月の総選挙では、日本未来の党に移籍していた山田正彦会長が落選する事態になりました(参院選・みどりの風から立候補予定)」(民主党議員秘書)
その一方で、TPP反対という公約で政権に返り咲いたはずの自民党・安倍政権も、結局TPPを主導する米国からのプレッシャーに逆らえず、推進派に寝返ることになった。
「この動きに対し、自民党は議連『TPP参加の即時撤回を求める会』が強硬路線に乗り出していましたが、3月15日に安倍首相が参加表明をすると、今度は条件闘争だと『TPP交渉における国益を守り抜く会』に改名しました(3月22日)。会員数は自民党の衆参国会議員の6割を超える約240人でしたが、国会日程が重なったこともあり、改名時の会合に最後まで残った出席者は、わずか10人でした」(自民党議員秘書)
また、アベノミクスにより景気が上向き高支持率をキープする安倍政権には、異論を唱える議員も少ないようだ。
「一部、TPP参加によって、関税に保護されている産業から外されかねないと、安倍首相に対して『こんにゃく対策議員懇談会』、『しいたけ等振興議員連盟』などが参加への反対を申し入れをしましたが、結局3月13日に、自民党外交・経済連携本部TPP対策委員会がTPP交渉参加に関する決議を行い、『TPP 6項目(農産物重要5品目、国民皆保険制度、食の安全安心、ISD条項、工業製品の目標の非数値化、政府調達や金融サービス)を守る』と石破茂自民党幹事長が表明したことにより収束しました。とはいえ結局、TPP参加交渉には参加することになってしまったので、自民党を支援するTPP反対の業界は落胆していますよ。かつてであれば議員連盟が別働隊として強硬に動いて好条件を勝ち取るはずなのですが、今回は大きな動きがなかった」(新聞記者)
議員それぞれのさまざまな思惑や利権がある中で、党の内部でも、交渉参加のほうが票を見込める議員が多いのだろう。