──アメリカに次ぐ高額な五輪放映料を支払ってきた日本のテレビ局だが、昨今のメディア不況において、その膨大な金額が各局に重くのしかかっているという。採算が取れないと言われる五輪放映料は、果たして適正なのだろうか?
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バンクーバー大会(2010年)とロンドン大会(2012年)の2大会合計の放送権収入。
325億円──。この莫大な金額は、五輪を運営するIOC(国際オリンピック委員会)に対し、日本の放送局が支払った放映権料である。この金額は2010年のバンクーバー五輪と、今年のロンドン五輪を合算した契約金で、日本は実に世界でもトップクラスの放映権料を支払っているのだ。
最も多くの放映権料を払っているのはアメリカで、ここ数年、NBCが権利を取得することが多いが、今回のバンクーバーとロンドンの放映権料は20億ドル。日本が支払った325億円をドルに換算すると3億5480万ドルなので、アメリカの支払った金額の巨大さがわかるだろう。ただ、アメリカでは「NBC」「ABC」「FOX」などの大ネットワークが放映権争いを入札制度によって繰り広げることで、毎回価格がつり上がっているという事情がある。
アメリカに続いて高額で購入したのはEBU(ヨーロッパ放送連合)、ヨーロッパ諸国の放送局の連合体である。もともとヨーロッパでは公共放送が中心なこともあり、各国共同で五輪の放映権を購入する時代が続いた。ソチ五輪(14年)とリオデジャネイロ五輪(16年)の交渉にあたって、イタリアがこれに造反し、独自に放映権を購入。トルコ、スペインもこの動きに続いたが、依然として40カ国以上が共同で放映権を購入している。
さて、その次に高い放映権料を支払っているのが日本。EBUは多くの国の集合体ゆえ、日本は一国としてはアメリカに次いで五輪に大金をつぎ込んでいることになる。そのほかのアジア諸国を見てみると、中国は9950万ドル、韓国は3300万ドルと、日本に比べて随分安い。それにしても、中国のGDPは日本を追い抜き、韓国も日本の電機メーカーを凌駕するほど経済が発展しているのだから、放映権料だけが日本が強かった昔の勢力図のままというのは釈然としない。日本の放映権料が依然として高い理由について、『W杯に群がる男たち』(新潮文庫)の著書がある、ノンフィクション作家の田崎健太氏はこう語る。
「日本の企業の世界進出と、五輪が商業化して放映権料を収益の柱にするようになった時期というのは重なっていて、五輪は日本のお金をあてにして巨大化していった経緯があります。その流れの中で、今さら日本が不景気になったからといって放映権料の値下げを打診しづらい状況になっているのでしょう」
また、元NHKで数々のスポーツ放映権交渉に携わった経験を持つ、スポーツプロデューサーの杉山茂氏は、日本を除くアジア諸国の放映権料が安い理由を以下のように解説する。
「韓国や中国は、今でこそ高い経済力を誇りますが、放映料が高騰した80~90年代まではそうでもなく、そもそものベースが低い。そのため、毎年上がってきているとはいっても、日本よりは大分低い水準にとどまっているのです。もっとも、今はIOCから、『経済の大きくなった中国の放映権料が、低い水準のままなのはどうなのか』という声が上がってきているのも事実。それに対して日本は、世界陸上、世界水泳などの競技別の世界選手権でも高額の放映権料を支払っており、スポーツビジネスに“理解があるお国柄”と思われている。IOCは交渉の時にその数字も資料として持ち出してくるので、日本側は反論がしにくい」
また、『テレビは余命7年』(大和書房)の著書がある、エンタテインメント企画集団「指南役」代表・草場滋氏は、日本のスポーツ外交能力について次のように疑問を呈す。
「韓国はIOCの副会長も輩出したことがあるなど、内側から政治力を行使しているのに対し、日本は真正面から交渉しているから高い金を出さざるを得ない。中国にしても、アフリカの途上国にサッカー場を作って、それらの国の票を得てIOCの役職を得たりしています。日本も皇族や有名スポーツ選手を使って戦略を立ててスポーツ外交をすれば、放映権の高騰にも少しは歯止めをかけることができるのかもしれません」